第1056話:香水のせいだよ
さて、悪役令嬢フィフィはどこまで来てるかな?
クララの『フライ』で自由開拓民集落ポーンから街道に出る。
「ん? ちょっとクララ、降りてくれる?」
街道を西に走ってくる二人の旅人がいるのだ。
何が起きた?
「こんにちはー。狭い西域そんなに急いでどこへ行く?」
息を切らしながら答える二人。
「ま、魔物が出たんだ!」
「デカい、こげ茶色のウシみたいなやつが何頭も!」
何ですと?
「デカいウシって言うと……」
「マッドオーロックスの成獣? 悪くないがしかし……」
「すぐそこ、襲われてる人がいるんだ! 俺達何もできなくて……」
「ありがとう、急ぐよ!」
騒ぎになってる。
あれか。
クララの『フライ』で急行!
「美少女精霊使い参上! 皆、平気!」
予想通り悪役令嬢御一行様がターゲットになってやがる。
うん、幸い皆無事だね。
しかしウシ三体もいるぞ?
草食魔獣は街道にあまり出ないって話じゃなかったっけ?
アクシデントを呼び寄せる何かを持ってるのかなあ?
誰だ、あたしに似てるなんて思ってるやつは。
どうなってんだ?
「執事さん、よく頑張ったね。あとは任せて」
「あ、貴方来るのが遅いわっ!」
「ごめんよ。あたし主人公補正があるせいか、ギリギリになっちゃうんだよ。でもトラブルに巻き込まれるのは、きっとフィフィがそーゆー体質だからだぞ?」
これはあたしのせいじゃない。
デミアンが言う。
「確かにマッドオーロックスだ。しかし何故……」
「こいつをお肉にしてから考えようよ」
「ハハッ、さすがユーラシアだな。悪くない」
問題はこのウシ、かなりヒットポイントがあるっぽいんだよな。
溜め技『雑魚は往ね』だと悪役令嬢御一行やアグネスが攻撃された時危険だし、ダンテの攻撃魔法を参加させると可食部分が減りそう。
……お兄を活躍させてやるか。
「デミアン、『薙ぎ払い』か『五月雨連撃』、どっちか使える?」
「両方使える。悪くないだろう」
「じゃ、『五月雨連撃』よろしく。ダンテは『実りある経験』ね。あとは皆防御!」
レッツファイッ!
ダンテの実りある経験! あたしの薙ぎ払い×二! やはり倒せない。デミアンの五月雨連撃! ウィーウィン!
「リフレッシュ! よーし、もう大丈夫!」
「た、助かった」
ホッとする面々の中で癇癪を爆発させるフィフィ。
「街道でしょっ! 安全なはずじゃないの? 何で魔物が出るのっ!」
わからんのはそれな?
デミアンが言う。
「確かに街道で魔物に襲われることはある。しかしほぼ昆虫系か植物系、スライムのいずれかだ」
うむ、レベル二〇クラスの魔物に襲われかねないなんて、危なくて仕方がない。
これが常態なら街道として使うのには問題がある。
理由があって魔物が出現するのか?
「マッドオーロックスは草食魔獣だ。繁殖期の子連れならともかく、成獣三体に街道上で襲われるケースなんて聞いたことがない」
「でも今現実に……」
「そーいや一昨日、角ウサギに襲われたみたいだぞ? あれも草食だよね。偶然だと考えるのは危険かもしれないな」
「ならば一行に問題があると見るべきだ」
「フィフィ何か心当たりある?」
「ないわよ」
街道から外れちゃいないようだ。
とすると考えられるのは?
おかしなマジックアイテムを持っているような気配はないし……。
じっとフィフィを見る。
「な、何よ」
「美少女精霊使いはどう思う?」
「……香水が怪しい気がするね」
「吾輩も同じ読みだ。悪くない」
「香水?」
「うん、その匂いが魔物を引き寄せ、興奮させちゃってるんじゃないかってこと」
どもるフィフィ。
「こっこっこの香水は殿方を情熱的にするという触れ込みの……」
「間違いなさそーだな。男は野獣だぞ? 魔獣に襲われても仕方ない」
独断と偏見。
「塔の村に着くまでは使うのやめときなよ。また襲われると洒落になんないぞ?」
「悪くない。吾輩も不使用を推奨する」
「わ、わかったわ」
「まーでも悪いことばかりじゃないよ」
「えっ?」
わかってないようだ。
ギルドカードを取り出して起動する。
「掌でぺたっと触ってみて」
「こう?」
「おめでとう。レベル四になりました!」
「えっ?」
「私もレベル四になりました! ありがとうございます!」
デミアンのギルカで確認したアグネスも大喜びだ。
「ど、どういうことなの?」
執事さんが説明する。
「お嬢様。先ほどの魔物との戦いが共闘扱いになったんだと思います。我々にも戦闘経験値が入った結果、レベルが上がったのだと」
「執事さんの言う通り。レベルが上がると攻撃力とか敏捷性とかの各種パラメーターも上がるよ。レベルが一から四になると、かなり身体軽い感じがするんじゃない?」
「た、確かに」
身体を盛んに動かす悪役令嬢一行とアグネス。
「ほ、本当だ。力がついた!」
「高く跳べます!」
「良かったねえ。レベルは冒険者にとって財産みたいなもんだよ。冒険者じゃなくても、身体能力上がって悪いことなんかないから」
ハッハッハッ、皆大喜びじゃないか。
レベルは大体何でも解決するからね。
「……と、いうことは?」
「ん? フィフィ、どうかした?」
「ずっと共闘してもらえば、何もしなくても強くなれるということね?」
理解が早いね。
パワーレベリングの理屈だ。
フィフィの考えは冒険者向きだなあ。
「あんたおゼゼ稼ぐために冒険者やるっていう目的忘れてるだろ? 共闘ばっかりじゃ稼げないし、後衛の立ち回りも覚えないからな? チョンボしようとすんな」
「チョンボだぬ!」
アハハと笑い合う。
まあどうにもなんなきゃレベル上げ手伝ってやるけど、もう必要ないと思うぞ?
レベル四になれば入り口フロアの弱小魔物にやられることはない。
塔の村で活躍してください。
「さて、おいしいお肉をゲットできました!」
「これもおいしい魔物肉なの?」
「西域では大御馳走ですよ!」
「ザバンでマッドオーロックスの肉饅頭食べたことあるんだ。美味かったなー」
「大変悪くない」
こんなもんウシと変わんないだろ。
「ユーラシア、飛行魔法で村まで運んでくれないか?」
「うん、わかった」
でも全員とウシ三体をいっぺんに運ぶのはムリだな。
このウシデカいもん。
「ウシ捌かないといけないから先に運ぶよ。ヴィル、一応一行の護衛についててね」
「わかったぬ!」
「今晩は鍋が悪くないだろう」
「やたっ! 嬉しいなー」




