第1051話:西域のキーポイント
「サイナスさん、こんばんはー」
夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは』
「今日悪役令嬢が、自由開拓民集落ユーラシアに泊まってるの」
『元追い剥ぎ村か?』
「ってゆーと胡散臭い気がするけど、名前が『ユーラシア』になっただけであら不思議。桃源郷の気配が漂うのでした』
『ぼったくり村の気配』
何てことをゆーのだ。
「昨日のクルクルに比べると、活気のあるいい村になってたんだ。嬉しくて」
いや、もちろんクルクルもいい村になって欲しいけれども、やっぱ前から目をかけてたところが発展の兆しを見せてると嬉しいじゃん。
麗しい名前がついてることもあるし。
『ほう、具体的には何が?』
「クレソンがわさーっと大繁殖してるの」
『ん? あれはどこに植えたって特別成長が早いなんてことなさそうだが?』
「地下遺跡があるんだ。太陽の光集める温室みたいな部屋があって、水が温かいの。その排水が出てるところに植えたらすごいことに」
『なるほど、水温か』
多分洞窟コウモリの糞とかが溶けてて、植物にとっての栄養分が含まれている水ってこともあると思う。
と考えると、自由開拓民集落ユーラシアにとって洞窟コウモリはマジで恵みの存在だな。
「あのクレソンがあればもう飢えることはないから、皆がすごくやる気になってるんだって」
『それは楽しみだなあ』
「塔の村にポーションとマジックウォーターの作り方を習いに行ってる人がいるし、ニワトリ買い集めて増やそうとしてるし、もうあそこは大丈夫だな」
『魔物は心配ないのか?』
「あの村あんまり強い魔物出ないみたいなんだよね。何が違うんだろ?」
『土壌の質や地形、植生等の影響だろうが……』
スライムは黒妖石を嫌うなんてこともあるしな。
あの辺の土があんまり肥えてないことと関係があるのかも。
地下遺跡のせいって可能性もありそう。
「塔の村の発足以前は、マジで西域の自由開拓民集落はきつかったと思う。ウリがあればいいけど、でないとカトマスから遠くなるほど厳しいわ。ものは入ってこないし魔物はいるし」
西域に街道を通してまで発展させようとした意図がわからん。
多分昔から帝国はレイノスしか押さえてなかったと思うので、西域街道を通したのはドーラ人なんだろうしなあ。
でもあの街道には強い意思を感じるから、西域に懸けるあたしの知らない理由があるに違いない。
今となっては塔の村とレイノスを結ぶ重要な大動脈だからありがたいけれども。
『今はどうだい?』
「人の行き来が多くなってるから、確実に楽にはなってると思う。旅人がおゼゼ落とすじゃん? 今後は移民で確実に人口が増えていくでしょ」
『ふむ、西域のキーポイントは塔の村と見るか』
「完全にそーなってるね。今はまだ、塔で回収した素材やアイテムをカトマスとレイノスに売ってるだけだよ? ほんの一部をパワーカードにしたり薬にしたりするだけで。でも人の数が増えれば加工業者もできるだろうし、必要な食料が増えれば農作物を調達する集落だってできるよね。もう魚人との取り引きは始まってるんだから、魚人以外の西の亜人とだって交易したい。塔の村はもっと大きな経済圏になるべきだな。実現すれば街道沿いの自由開拓民集落なんて、放っといたって栄えるよ」
『永久鉱山』という唯一無二の特長を生かしてドーラの経済を回す。
おそらくデス爺が塔の村を開村した、最も説明しやすい理由がそれ。
サイナスさん、考えてますね?
『……確かにユーラシアの案が望ましいのかもしれないが、難しいだろう?』
「いやー難しいね」
何が難しいって、西域開発を推進できる人がいないしおゼゼもない。
デス爺は発足したばかりの塔の村の運営を一手に引き受けてる上、ドーラ新政府の連絡係という役目もある。
また精霊のことは考えてるけど、亜人と積極的に交流しようという意図はないだろう。
バルバロスさんはそもそも考え方が少し違うしな。
塔の村を西の極にするよりも、個々の自由開拓民集落を底上げする方に力入れたいだろう。
そしてドーラ政府には資金がない上、移民と貿易でやっとこさっとこときたもんだ。
『君はムリなのかい?』
「あたしはやれって言われるとやりたくなくなっちゃうじゃん?」
『難儀な性格だなあ』
「いや、西域経営はかなーり面白そうだから、興味はあるよ。でも今は忙しいからとても手をつけらんないな」
帝国の上層部に食い込んで状況を面白くすることこそ、あたししかやれないことだから。
「あたしがもう一人いたらなー」
『トラブルメーカーがもう一人? 地獄絵図だな』
「何てことをゆーんだ!」
失敬な。
あたしはトラブルメーカーではないとゆーのに。
「『アトラスの冒険者』には優秀な人多いよ。誰かがいずれ西に目を向けて欲しいな。西域出身の子も少なくないしね」
『やはり人か』
「一番重要だねえ。人とおゼゼとやる気があれば何でもできちゃう」
これはマジで思う。
「話は飛ぶけど、帝国の皇宮行ってきたんだよ」
『何か進展があったかい?』
「ではないけど、第一皇子のお葬式が五日後、精霊の月九日だって」
『我々から見ると早く思えるが、帝国本土からするとそうでもないのか?』
「うん。ウルピウス殿下も常識的みたいな見解だった」
『するとスケジュールはどうなる?』
「今まで考えてたよりも早く、つまり明日報告が来そう。となるとこっちからプリンスとリリーが乗っている体の船を出すのが明後日」
『偽装船には君が乗り込むわけだな?』
「予定ではね。でもパラキアスさんが報告来ないかもなんて言うんだ」
『えっ?』
パラキアスさんみたいな悪いやつだけが思いつく、陰険なやり方だ。
「完全にお葬式に間に合わないタイミングで報せを寄越すでしょ? するとプリンスをドーラに閉じ込めたままにできる。プリンスが帝国に行って及ぼすはずだった影響力がゼロになっちゃう」
『ひどい話だな』
「これやられるとお手上げだね。まあふつーなら偽装船はあたしの楽しみで、リリーとプリンスは前日八日の夜に密かに送ることになるよ」
『ハハッ、楽しみが残るといいな』
本当だよ。
「じゃ、サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日はデミアンと自由開拓民集落ポーンだ。




