第1050話:面妖な異種格闘技戦
『おう、よく聞こえるぜ』
ギルドで購入したマジックウォーターを悪役令嬢一行に届けたあと、イシュトバーンさんとヴィルで連絡を取る。
「ヴィルに持っていってもらったのは、今回出荷の画集のイシュトバーンさんの取り分ね」
『おう。でも面倒だから、こっち来た時まとめてでいいんだぜ?』
「じゃ、今度からそーする」
いい女に会うことと絵を描くことが目的で、画集の儲けはどうでもいいみたいだな。
あたしも実験的な商売に関われること自体が楽しいので、画集による儲け自体にはあんまり。
微々たるものだし。
「今回出荷した中には帝国への輸出分も含まれてるはずなんだ。でもある程度部数が揃うまで、向こうでは販売されないと思うけど」
ドーラの様子見れば、メッチャ売れるのはわかりきってるもんな。
買い占めでも起きると騒ぎになっちゃうかもしれない。
くだらないことで発売禁止になったら目も当てられんわ。
『帝国でどれほど売れるかも楽しみだな』
「心配しなくても本の歴史を塗り替えるくらいは売れるわ。ところで画集第二弾帝国美人版を出版してくれって言われたらどうする?」
『お? あんたから見ていい女はいるか?』
「んーまだ候補は二人だな。リリーの母ちゃんとひゃい子」
『皇妃様はパスだぜ』
「えっ? 何で?」
見た目若々しい人だよ?
『他人のものは描く気がねえんだ』
「おおう、実にイシュトバーンさんらしい理由だった」
『ひゃい子って何だ?』
「あたしに『ウルトラチャーミングビューティー』って二つ名をつけてくれた子だよ」
『ほお? 相当変わり者だろ』
「わかる? 他では見たことないタイプの子だなー。強いて言えば精霊っぽい」
あがり症で赤面症で人見知りらしいし。
『一段落ついたら、そいつに会わせろよ』
「ひゃい子がイシュトバーンさんにどんな二つ名つけるか興味あるな。ヴィルもつけてもらいたいって言ってたからもう一度行きたいんだけど、機会がないんだよね」
状況が許さないのだ。
誰だ、あたしがトラブルメーカーだからなんて思ってるのは。
『で、お楽しみタイムだ』
「まったく流れるように楽しまれちゃうよ」
『エンターテイナー冥利に尽きるだろ?』
「何だかそんな気もしてきたけれども」
アハハと笑い合う。
「今日皇宮行ってきたんだ。第一皇子のお葬式が五日後だって」
『五日後か。早いな』
「本当だよ。おかげでこっちの温泉イベントがパー」
『おい、その温泉イベントについて詳しく』
「言うと思ったよ」
イシュトバーンさんの習性は、温泉とゆーえっちな響きを聞き逃さないからなー。
「今日悪役令嬢が自由開拓民集落ユーラシアに泊まりなんだ。ここ昔はバボって呼ばれてたとこ」
『バボって村は知らねえな。街道沿いなんだろ?』
「あっ、昔は違ったな。位置的にはクルクルから強歩三、四時間くらい西だけど、街道から少し南に入ったところだった。今は旅人呼び込むために街道まで村域広げてるけれども」
『皇女殿下が絡まれた盗賊村か?』
「わかる? 鋭いねえ」
何か知ってるのかな?
『その辺りで盗賊村の噂はあったな。なるほど、本当だったのか』
「今は村人が皆やる気になってるから楽しみなんだ」
『ハハハ、わざわざあんたの名前つけさせたのか?』
「違うって。旧名が盗賊村として知られてたからさ。名前変えろって言ったら、村人があたしの名前にしちゃってたの」
あたしも関知してない部分なんだってばよ。
予期せぬエンターテインメントだった。
『で、温泉イベントについて詳しく』
「悪役令嬢の西域珍道中で、明日がポーンってとこに泊まり。明後日が……」
『ノヴォリベツか』
「うん。温泉のあるとこだって聞いた」
マークしてたかー。
「多分帝国から早船が来るの明日でしょ? 明後日には襲わせる用の偽装船出さなくちゃいけないから、あたしは温泉イベントに参加できないんだよね」
『ははあ』
「すげえ迷惑だよ。楽しみにしてたのに」
『じゃあ温泉、いつかオレと行かねえか?』
「えーと、ノヴォリベツの温泉って混浴?」
『混浴だぜ』
「あたしの神々しい裸身を見せると、イシュトバーンさんの目が潰れちゃうからやめとく」
『オレの眼力はそんなことに決して負けたりはしないんだぜ』
面妖な異種格闘技戦になってしまった。
『湯浴み着を貸してくれるから問題ないぜ』
「むーん? じゃあ行こうか」
『楽しみにしてるぜ』
あたしも温泉は楽しみだなー。
『悪役令嬢はどうなんだ?』
「順調過ぎてつまらん感じだよ」
『どうせあんた、何かやらかしてるだろ?』
「能動的にしたわけじゃないって。でも魔法の葉食べさせたら『おげげげげげげげげげげ!』って大喜びだった」
『ひでえなあ』
本人が興味津々だったんだってばよ。
「プリンスにも魔法の葉青汁飲ませたこと教えてやったら、高貴な身分の方に対する尊敬の念が足りない言いやがるから、ドーラ人にそんなもんあるかって言ったった」
『ハハハハハ!』
あれ、こんなところでバカウケだぞ?
『あのお嬢も、まさかドーラみたいな田舎国で理不尽な口を叩かれる身分になるとは、三ヶ月前には思いもしなかったろうぜ』
「今や立派にドーラの山ザルの仲間入りだよ」
イシュトバーンさんはフィフィの心情を察しておかしがってたのか。
三ヶ月って短いようで長い。
あたしが冒険者になってからを振り返ってみるとよくわかる。
最初の転送魔法陣が設置されてから飛空艇落とすまでに、何と一〇〇日経ってないもんな。
イベントは次から次へやってきた方が面白いけれども。
「とゆーことで、天気が良ければ悪役令嬢は三日後に塔の村到着予定なの」
『しかし皇女殿下は第一皇子殿下の葬儀に参列で、帝国本土行きだろ? ちょうど悪役令嬢と入れ替わりじゃねえか』
「まあねえ。リリーに会いたいだろうに、若干可哀そうな気がなきにしもあらず」
『情が移ってるんじゃねえか?』
「いや、あたしは元々親切で包容力あって慈悲深いじゃん?」
『誰でも思ってることなんだから、自分で言わなきゃいいんじゃねえか?』
「言っちゃいたい気分なの」
アハハと笑い合う。
「とゆーわけでちょっと慌しくなりそう。偽装船イベントは愉快に転がる予感がするから、帰ってきたら話すね」
『おう、楽しみにしてるぜ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』




