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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1044話:イベントの並びとしては好都合?

「サイナスさん、こんばんはー」

『やあ、いらっしゃい』


 夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。

 いや、今日はクルクル行ったあとに魔境でもう一働きしてたわけだが。


「いらっしゃいだって。サイナスさんが冒頭からボケてきたぞ? 新しいエンターテインメントを模索中なのかな?」

『単に間違えただけだよ』

「何だそーか。あたしの篤行が天意にかなうがための、古今稀なる瑞兆かと思った」

『普段使わない言葉をここぞとばかりに使ってくるなあ』


 アハハと笑い合う。


『画集の売り上げ届いてるよ』

「ありがとう。ヴィル持ってきてくれる?」

『わかったぬ!』


 うん、順調かな。

 ちゃんとお使いをこなしてくれるヴィルはいい子だ。

 ここへ来たらぎゅっとしてやろう。


『そろそろ春蒔き作物の忙しい時期だろう?』

「うん」

『ユーラシアは何を植えるんだ?』

「あたしが聞かれる側なの?」


 今日のサイナスさんは意表を突いてくるなあ。

 兼業冒険者のあたしに聞いてどうなるもんでもないと思うが。


「去年作ったもの以外で、お宝ダイコンと魔境クレソンがあるじゃん? うちが野菜で困ることはないな。魔境で取ってきた香辛料やハーブ関係、帝国で買ったトウガラシがあるから、そーゆー違った味覚に訴える系の作物を作りたい」

『ふむ、なるほどな?』


 ドーラの食文化を発展させるためには、調味料香辛料ハーブの類を充実させなくちゃいけない。

 各種トウガラシだけの店が成立する帝都はマジですごいなー。

 ショウガも作るつもりだったが、聖火教徒が作ってることがわかったから買えばいい。

 リソースを違うことに回そう。


「移民がどんどん来る内は、とゆーか今年灰の民の村は腹に溜まるもの作るので精一杯でしょ? あたしが異なる方向でやっていこうかなと思ってるの」

『未来を見据えてか。果樹もその一環か?』

「そうそう。木は時間かかるからね。早めに仕掛けていかないと。バアルのお宝で、メチャメチャ花が多くて油がたくさん取れるツバキってのもあるんだ。これもドーラ全土に広めるつもり」

『油は腐らないからいいな』


 ……何だかサイナスさん、今日変じゃない?

 考え事でもしてる?


『いや、アレクにトマト作ってくれって言われてるんだ』

「あっ、トマトはあたしが頼んだの」

『何故? 保存が利かない野菜の優先順位は低いんだぞ?』

「アレクは話してないのか。けちゃっぷっていう、まよねえずと同じ異国の調味料があるんだよ。煮潰したトマトに塩入れて水分飛ばしたようなやつ。試作してみようかと思って」

『塩? なるほど、保存が利くから……』


 灰の民では、ニンジンやトマトのような可食部の色の濃い野菜は健康の元と信じられているのだ。

 トマトが保存できるとなれば意味は大きい。


「他に混ぜ物してもいいと思う」

『わかった。大体味の見当はつく。今年は多めにトマトを作ってみよう』

「よろしくお願いしまーす。炒め物や蒸し肉によく合うよ。最初お弁当に採用してみて、話題になったところでどーんと売り出せばいい」

『ハハハ、そうしよう』


 けちゃっぷも目処が立ったぞ。

 まよねえずと合わせて、ドーラの味覚新時代の始まりだ!


「塔の村行ってきたんだ。第一皇子が亡くなったことを知らせに」

『昨日じゃなくて今日行ったってことは、大した用件ではないと君は見てるんだな?』

「大した用件じゃないとまでは言わないけど、まあ。急いだからって生き返るわけじゃなし。葬式あるからわかっててね、くらいだもん」


 何らかの準備がいるだろう行政府や皇宮とは違う。

 リリーを連れてくだけ。


「お葬式があるから、ソロモコ侵攻はあるとしても遅れそう」

『もっともだな。するとレベルが上がって『威厳』の効果の強く出るであろうルキウス殿下の帝国臣民への披露が先で、その後主席執政官殿下御執心のソロモコ遠征が失敗しちゃうわけか』

「合ってるけど、言い方がえっちだな」


 アハハと笑い合う。

 しかしイベントの並びとしては好都合か?

 うまいこと運べば、プリンス待望論が帝国で大きくなる気もする。


『ソロモコ遠征失敗後の現政権への批判の煽りは、パラキアス氏の担当なのか?』

「多分。悪いやつだから陰謀みたいの大好き」


 あたしはあたしの担当をこなすだけだな。

 明日は皇宮へ行ってこなければ。

 葬式の日程くらい決まってるだろ。


「で、お楽しみの悪役令嬢だけれども」

『君だけじゃないか? 楽しみにしてるの』

「そんなことないよ。おサルのド田舎の言わなくなってきてるし、今日なんか大分デレてたもん。向こうだってあたしが行くの楽しみにしてるに違いないなー」


 塔の村行くまでにどれくらい懐いてくるかな。


「今日クルクルっていう自由開拓民集落泊まりなんだ。寂しい村だなって思った」

『やはり魔物が多いのか?』

「うん。クルクル出身の『アトラスの冒険者』がいるんだけどさ。あの辺で一番強い魔物がマッドオーロックスってやつなんだって」

『どんな魔物だ?』

「肉饅頭にするととってもおいしい。ザバンで食べたことあるんだ」

『そうでなくて』


 いや、戦ったことないから詳しくは知らんし。


「一対一だと、レベル二〇でようやく追い返せるくらいだって言われてるそーな」

『ほう? かなりの魔物だな』

「だよねえ。その冒険者の子も、早く一人でマッドオーロックスを倒せるくらいになりたいって言ってたよ。よく効く魔物除けの札一〇枚置いてきたから、どれくらい効果あるか知りたいな」

『魔物がいなければどうにかなるのか?』

「なるねえ。とゆーかドーラは温暖だし土壌も肥沃じゃん? 魔物さえいなければ西域もいいところだと思うよ。でもおいしい魔物はいてもいい」

『問題のマッドオーロックスも美味いんだろ?』

「美味いね」


 こら、乙女の悩みを笑うなんて失礼だろ。


「悪役令嬢も最初出発した時はどうなることかと思ったけど、ここまで来ちゃうとどうってことないな」

『おっ? フラグを立てるね』


 えっ? ここから何かあると?

 あればあったでエンターテインメントだけど、追い剥ぎ村だけは洒落にならんから注意しとかないといけないな。


「サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。じゃあ売り上げを持ってきたら通常任務に戻ってね」

『はいだぬ!』


 明日は皇宮か。

 あんまり早く行くと失礼なのかな?

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