第1042話:クルクルの印象
「なるほど、ここがクルクルか」
「何もない村だろう?」
「うーん」
肉狩りをしてから、ボニーとフレンドで自由開拓民集落クルクルにやって来た。
うらぶれた小さな村に見える。
もっとも新緑の季節だと全然印象が違うんだろうが。
ただ昨日のンギーはもっと活気があったように思えたがなあ。
やはり特産品の有無とカトマスからの距離が問題か?
「まだ悪役令嬢は到着してないね。ヴィル、ちょっと様子見て連絡してくれる?」
「わかったぬ!」
びゅーんと飛んでいき、すぐ赤プレートに連絡が入る。
『見つけたぬ!』
「あ、早いな。すぐ近くまで来てたかな?」
『でも着くまでにはまだ三〇分以上かかると思うぬ』
「一行は大丈夫かな? ちょっと誰かに代わってくれる?」
『はいだぬ!』
『ちょっと貴方! 今何やってるの!』
「おおう、悪役令嬢か。御挨拶だな。あたしも今クルクルに来たところなんだ」
『こっちは魔物に襲われたのよっ! マテウスが追い払ったけどっ!』
「どんなやつだった?」
『大きな角の生えているウサギ』
以前バルバロスさんが言ってた角ウサギってやつかな?
食べられる魔物なんだが仕方ない。
しかしこの辺に魔物が多いというのは本当みたいだ。
「ヴィル、そっちの皆をここに来るまでガードしててくれる?」
『了解だぬ!』
『こんな小さな子が護衛ってどうかしてるでしょ!』
「ヴィルはちっちゃいなりだけどレベル九九だぞ? ドラゴンくらいまでなら普通に勝てるから、心配しなくていいよ」
『ドラゴンって、ドラゴンって……』
本当だぞ?
どーも帝国の人はドラゴンに対して腰が引けてる気がする。
「じゃあヴィル、よろしくね」
『任されたぬ!』
よしよし、ヴィルがついていれば安心。
でもこの集落の現状は……。
ボニーが話しかけてくる。
「魔物に襲われたのか? 街道を歩いてるんだろう?」
「うん。話聞く限り角ウサギっぽい」
「おかしいな? 草食魔獣は臆病だから、滅多に街道には出てこないんだが」
「そーなの?」
考えてみりゃ草のあんまり生えてない街道よりも、藪にいる方がメリットあるわな。
悪役令嬢フィフィは貴重な体験をしたのかもしれない。
やはり持ってる子だな。
「ボニーと同い年のハオランっているでしょ?」
「えっ、ハオランを知ってるのか?」
「ハオランは元々カラーズ黄の民の村出身なんだ。親とともにクルクルに移住して、食っていくのが大変だからって、今は塔の村で冒険者やってるの」
「知らなかった」
「塔の村が成功すれば、街道沿いのオレの村にも恩恵があるかもとも言ってた。宿場町需要だね」
「ハオランは……村を捨てたんじゃなかったのか」
村を捨てたと思われても仕方ないだろうな。
実際に村を去る者も多いのかも。
ここクルクルに居住するのでは未来が見えにくいから。
「ハオランの姉ちゃんのインウェンっているじゃん? 彼女もクルクルを心配してるんだぞ。魔物が強くてなかなか耕地を広げられないのが問題だって言ってたけど、実際に現在の居住者の感覚としても同感なん?」
「ああ。村の境界の柵がツギハギだろう? 時々魔物に壊されてしまうから」
「おおう、アグレッシブな魔物がいるんだな。この辺で一番強い魔物は何なの?」
「マッドオーロックスだ」
「あっ、知ってる! 美味いやつだね。遭ったことないから強いってのは知らなかったけど」
苦笑するボニー。
「草食性だからさほど危険な魔物ってわけじゃないんだが、村の畑や食料庫を狙ってくることがあるんだ。私も早く一人でマッドオーロックスを倒せるくらいの実力者になりたい」
「えっ? ボニーレベル二桁じゃん。なのに勝てないんだ?」
「マッドオーロックスは、一対一だとレベル二〇でようやく追い返せるくらいだって言われてる」
レベル二〇で互角みたいな強い魔物が普通に出るのかよ?
西域って考えてたよりヤバいな。
魔物に食料庫荒らされたら飢えちゃうわ。
「これあげるよ」
「これは……魔物除けの札? 一〇枚も?」
「最近カラーズで売り出した新型なんだ。今までのやつより効果が強いの。西域には魔物除けの札があんまりないって聞いたから、これだとどうかなーと思って」
西域開発の文字通り切り札になるかもしれないアイテムだ。
「いいのか? 先輩、ありがとう」
「いや、あたしもこの札の使用感を聞かせてもらいたいんだよ。これがダメでも、さらに強力な魔除けに心当たりあるんだけどさ。ちょっと実用化が遠そうなの」
碧長石に術式を彫り付けた赤眼族の魔除けのことだ。
かなり広範囲に効きそうなんだよな。
ただし碧長石入手の目処が立たない。
「クルクルが強い魔物に苦しんでるってことはよーくわかったよ。ちょっと西にあたしの名前のついた自由開拓民集落あるの知ってる?」
「ああ。街道沿い強歩三、四時間くらいのところに最近できた村だよな。旅人の誘致に積極的だと聞いた。クルクルにも交流したいって挨拶に来たんだ」
「うんうん、いいね。内緒だけどあそこ元々追い剥ぎ村だったんだ。当時は街道に面してなかったんだけどね」
「やっぱりそうなのか。噂はあった」
「今は違うよ? 真っ当に生きようぜって、村人達がすごくやる気になってるんだ」
「……いいなあ」
羨ましそうなボニー。
ふーむ、クルクルは活気がないのが気に入らないのかな?
「ただあそこはクルクルと違って、魔物に苦しめられてるって印象ないんだよね」
「……」
むしろ洞窟コウモリ万歳な感じ。
地下遺跡が不思議なパワーで強い魔物を寄せないってことがあるのか、それとも土地が肥えてないから草食魔獣にとって魅力がないのか?
「クルクルは、ダメなんだろうか?」
「いや、畑はちゃんとしてるじゃん。魔物さえ追っ払えればどうにでもなるよ」
「そ、そうかな?」
「そーだよ。畑を土地が平らな東西に広げてさ、南の斜面は果樹園にすればいい。帝国でいろんな種類の果物の樹もらったんだ。いずれクルクルに合いそうなやつ、紹介してあげるからね」
魔物さえいなきゃ農作物には困らない。
宿場町としての需要もある。
特産品が欲しいな、カトマスやレイノスで売れそうなやつ。
塔の村に売り込めそうなものでもいい。
ただどうしても距離と魔物がネックだなー。
「何だよー、ボニー泣くなよ。宿と食堂教えて。せっかくお肉持ってきたからさ」




