第1039話:頑張った子には御褒美
フイィィーンシュパパパッ。
魔境を満喫した後、塔の村にやって来た。
もうさすがにリリーも起きてくる時間だろ。
「おーい、じっちゃーん!」
光る頭を見つけて駆け寄る。
さながら真昼の灯台だ。
「何じゃ、いつもいつも騒々しい」
じゃあここからは小さい声で。
「聞いてる? 帝国のガレリウス第一皇子が昨日亡くなったんだ」
「聞いとらん」
デス爺が一瞬眉毛を持ち上げたが、それだけだ。
パラキアスさん塔の村までは来なかったか。
あたしが来ると思ってたのかもしれないな。
「塔の村にはあんまり関係ある話じゃないんだけどさ。リリーはお葬式に出席するんじゃないかと思うんだ」
「おそらくそうじゃろうの」
「となると今後の展開でありそーなことを、メキスさんや黒服さんに聞きたいんだよね。あたしも帝国に行けるようになってからまだ日が浅いんで、事情がわかんないところあるし」
「……お主が関わっているという、ソロモコと魔王の件も絡めてか?」
あ、ソロモコについては聞いてるんだな。
ソロモコこそ塔の村に関係ないと思うんだけど。
いや、塔の村には魔王の配下であるウシ子がいるから、全く関係ないことはないのか。
ややこしいなあ。
「そうそう。もう起きてるでしょ? リリーと黒服さん連れてきてよ。あたしメキスさん呼んでくる」
◇
デス爺の小屋の前で目立たないように立ち話だ。
「ガレリウス兄様が? おいたわしい……」
「第一皇子ってどんな人だったの?」
「春風のような人だった」
「春風かー」
前皇妃系の皇子皇女の中では、最も知性派で感じのいい人ということらしい。
事実上の皇太子として、現皇妃系の皇子皇女と反目してはいられないという政治的判断であったかもしれないが。
……逆に春風ほどの存在感しか示せないということが、第一皇子の限界を表している、ってのは穿ち過ぎだろうか?
春風のような人って、きっと言い得て妙なんだろうな。
メキスさんが言う。
「逝去時の御様子はわかるか?」
「報告してくれた悪魔の子によると、自然死だろうって」
暗殺ではないかという懸念があったのだろう。
この前皇妃様の呪殺未遂事件があったところだから。
でも今日はリリーがいるから、皇帝陛下の寿命の話とか次期皇帝の話はノーサンキューね。
「亡くなったことは今日発表されて、ドーラに知らせが来るのが三日後だろうっていうのがパラキアスさんの予想」
全員が頷く。
「リリーはお葬式に出席するんでしょ?」
「もちろんだ」
「プリンスルキウスとリリーを乗せた風を装う船はドーラから出すけど、実際にはあたしが転送で皇宮まで送るよ。近衛兵長とリモネスのおっちゃんに、皇宮でプリンスとリリーの姿を晒さずに隠せるよう準備整えてって頼んできたんだ」
「罠を張るのか?」
「船が襲撃されると?」
そゆことです。
メキスさんと黒服は察しがいい。
「どういうことだの?」
リリーには説明しにくいな。
「混乱してる状況じゃん? 皇族を狙った事件も発生しやすいんじゃないかって、うちのバアルが言うんだ」
「ふうむ、物騒なことではあるの」
「リリーにとっては物騒かもしれんけど、あたしはプリンスとリリーを囮にした狩りの気分なんだよね。襲撃犯とっ捕まえるイベントはあたしの楽しみだからあげないぞ?」
笑い。
誤魔化したった。
「詳しいこと決まったら知らせに来るね。多分三日後以降になる予定だよ」
「うむ、わかった」
「で、もう一つ。今あたしの請けてるクエストに関してなんだけど」
ソロモコと帝国と魔王がどうのこうの。
黒服が驚く。
「そ……んな構図とは!」
「だからもし帝国がソロモコに攻めてきたら丁重にお帰りいただく、ここまでは既定路線ね?」
「どうするのだ?」
「その辺はどうにでも」
デス爺睨むなよ。
あたしだって帝国と揉めたくはないけど、これは仕方ないじゃん。
行政府の許可だって取ってあるとゆーのに。
「帝国にソロモコ侵攻計画があったとしても、第一皇子のお葬式があると延期になるよね?」
メキスさんと黒服が顔を見合わせる。
「常識的には一ヶ月の喪が明けてから作戦開始です」
「しかし既に艦隊が進発していたら連絡は困難だ。また一度発せられた軍令に沿う艦隊の行動は、司令官によってのみ決定されると定められている」
「とゆーことは、もう作戦行動が開始しちゃってる場合は止まらないってこと?」
「ああ」
なるほど、軍人の作戦行動は、バカバカしい横やりによって妨げられないってことか。
同時に責任の所在を明確にするという意味もあるのだろう。
やっぱ帝国はきちっとしてるなー。
参考になるわ。
「じゃ、一応艦隊の来襲もあり得るから、注意するように言っとく」
あとでフクちゃんに連絡と。
「最後に、悪役令嬢が塔の村に来まーす」
「「「は?」」」
事情を知ってるメキスさんが笑ってやがる。
「ババドーン元男爵の娘の」
「フィフィリアが? どうして?」
「だって父ちゃんがやらかして男爵位剥奪の上幽閉、爺ちゃん伯爵も見放したみたいだから。帝国内にはいられないみたいだよ」
「はるばるドーラに……気の毒であるの」
「気の毒だなんて言ってるの、リリーだけだぞ? 帝都はもちろん、悪役令嬢はレイノスでも後ろ指を指されそうじゃん? 塔の村にリリーがいるよって言ったら来るって」
「ほう、つまりユーラシアが連れてきてくれるのか。世話になるの」
実は違うんだってば。
「いや、西域街道を進行中だよ。行進中かな」
「何故だ?」
「あんなアバンギャルドなキャラを弄ってやれるのは、ドーラではあたしだけだわ。少々苦労させて万人向けに改造してるところ」
「うむ……いい経験かもしれぬの」
無礼な態度を取られてないはずのリリーでもそーゆー認識か。
メキスさんと黒服が苦笑してやがる。
「道半ばを越えたんだ。今日クルクルっていう自由開拓民集落に泊まりの予定。一日当たり強歩二~四時間くらいずつ進んでるから、天気が良ければ四日後くらいに塔の村に着くよ」
「我とはすれ違いになりそうだの」
「そーなんだよ。悪役令嬢もリリーに会うことを楽しみにしてるみたいなんだ。あたしも頑張った子には御褒美やりたいからさ。何か考えといてくれる?」
「うむ、わかったぞ」
よーし、用は終わり!
「じゃ、あたし帰るね」
「うむ、また来い」
転移の玉を起動し帰宅する。




