第1038話:エンタメの女神
――――――――――一八四日目。
「いや、実はいいや。とにかく木を大きくしてよ。挿し木で増やすのを優先したいんだよね」
「ツバキは挿し木最優先でもいいであるが、果物は事情が異なるであろう? モモを実際に食べたことがあるとないとでは、説得力が違うであるぞ」
「バアルの見解ではそーか。あたしも食べてみたい気がするしな?」
今日は凄草株分けの日。
カカシ、バアルと栽培談義だ。
「ユーちゃん、大悪魔の言うことも一理あるぜ?」
「ドーラ中に速やかに広めるには、吾が主の悪魔的話術が必須であろう。その効果を高めることを優先すべきである」
「よし、大悪魔の考えに乗っかろう!」
あたしの悪魔的話術がどうこうって言われると、若干もやっとした気になるけれども。
まー褒められたと思っときゃいいか。
モモは長距離輸送が利かないってことだった。
産業にというよりも、栽培する集落における季節のお楽しみという意味合いが強くなるんじゃないかなと、今のところ思ってる。
ならば美味さを語れた方がいいか。
何よりあたしも味を知りたいしな。
もっとも『オーランファーム』みたいなレイノスから近いところや、輸送手法が進歩したりしたら別だ。
どんどん商売してもらいたい。
「残念だが、今年の花は間に合わねえ。来春の開花期までに、オイラが責任をもって木をしっかりさせとくぜ」
「うん、お願い」
来年には食べられるらしいぞ?
楽しみだなー。
さて、朝御飯だ。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「オニオンさん、こんにちはー」
「いらっしゃいませ、ユーラシアさん」
心浮き立つ魅惑のフィールド、魔境にやって来た。
今日はリリーに第一皇子が亡くなったことを知らせなきゃいけないんだが、この時間に起きてるわけないからあとなのだ。
「朝からお仕事、御苦労様です」
「アハハ。お仕事というか、レジャーだなー。上手に時間と暇を潰してくれる魔境は有能」
「ちなみに現在の石板クエストはどうなってるんですか?」
「ソロモコっていう島国なんだよ。今待ちなんだ」
「待ち、と言いますと?」
首をかしげるオニオンさん。
「帝国艦隊が攻めてくるから追い返せってことみたい。多分ね」
「えっ?」
フクロウ信仰と悪魔が魔王で、帝国が攻めてくると人類全体を巻き込む大戦争の可能性がうんぬんかんぬん。
「……で、第一皇子のお葬式が片付くまでは、さすがに帝国艦隊動かないと思うから」
「だから待ち、ですか」
「お葬式関係なく帝国艦隊が来ちゃう可能性もなくはないかな。その場合にもあたしんとこには連絡が来ることになってるけど」
「……ということは、昨日、帝国を偵察してた知り合いの悪魔の子というのが?」
「ソロモコで尊敬の感情を集めてるフクちゃん」
「関連しているんですか。これはまた大きな案件ですね!」
本当に帝国がソロモコに攻めてくるならね。
「いや、まだ帝国とソロモコが戦争になるって決まったわけじゃないんだよ? でも皆、あたしが絡んでるから攻めてくるに決まってるって言うんだ。ひどくない?」
「えっ? それは……」
どうやらオニオンさんも同様に信じてるようだ。
あたしはどこまでエンタメの女神だと思われているんだか。
「目先はガレリウス皇子の葬儀が重要ですね」
「皇位継承権一位の皇子じゃん? 何だかんだで次の皇帝だよねってことになってたのに、亡くなっちゃったからさあ大変」
「現在の皇位継承権第一位はセウェルス第三皇子ですか?」
「うん。でも性格が享楽的で皇帝陛下に好かれていないって、帝国の兵士さん達の噂だったよ」
「という言われ方をするということは、民衆の支持は薄い?」
「だろうねえ。マジでそんな人が皇帝になったなら、あんなデカい国は治まらんと思うわ」
パラキアスさんも第三皇子には大貴族の支持がないって言ってた。
もっともあたしは第三皇子に会ったことないから、どんな人だか知らんけれども。
仮に能力があったところで、ボンクラと思われてる、臣民の支持がないでは皇帝なんかムリだわ。
「となると次期皇帝有力候補としては、やはりドミティウス第二皇子が本命?」
「皇位継承順位が関係ないっていう雰囲気ならば」
皇位継承権がどれほど重要視されるのか、今のあたしじゃもう一つわからん。
でも側室の子とは言え、確かな政治実績と人脈のある第二皇子が本命。
前皇妃の子で皇位継承権の正統性から第三皇子が対抗。
現皇妃の子で皇位継承権第二位の名前知らん皇子、ウルピウス殿下の同腹の兄ちゃんが、年若ながら穴。
目立たないけど、一部に政治的手腕を評価されているプリンスルキウスが大穴、ってところだと思う。
「で、皇女リリーが超大穴かな」
「ほう、リリー皇女も候補と見ますか?」
「いやー、ないな。でも庶民の間で一番人気ってのはガチなんだよね。何かの事情で皇室の権威が失墜したりすると、人気取りに走らざるを得ないじゃない? 悪条件がメッチャ重なるとひょっとして出番があるかもしれない、ってくらい」
まあリリーにやる気がまるでないだろうから。
「リリー皇女には、ガレリウス皇子の急逝は知らせたのですか?」
「まだなんだ。ちょっと昨日はタイミングが合わなかった。今日お昼頃、塔の村へ行こうと思ってる」
「お昼頃? 何故です?」
「リリーは寝坊助だから、昼まで起きてこないの」
「ハハハ、天下泰平ですね」
今後のあり得べき展開について、メキスさんと黒服の意見も聞きたい。
「お亡くなりになった方は置いとくとして、最近の魔境マイブームはグリフォンなんだ」
「グリフォン? ああ、餌付けがどうのと……」
「最近挨拶もしてくれるし、もふらせてくれるし、羽毛も取らせてくれるんだ。グリフォンいい子だよ」
「羽毛? というともしかして布団の原料にする?」
「うん、高級品らしいじゃん? 昔羽毛布団で大儲けした人がいたって聞いたから。これ」
「あっ、櫛? 三本もあるじゃないですか」
「特注なんだ。櫛をかけてやると、グリフォンも目を細めて気持ち良さそーな顔するんだよ」
「ユーラシアさんほど魔境ライフを満喫してる人はいませんねえ。今後もおそらくいませんよ」
そーかな?
魔境いいところだから、皆も楽しんで欲しいよ。
「行ってくる!」
「行ってらっしゃいませ!」
ユーラシア隊出撃。
あ、ヴィル呼ばないと。




