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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1034話:ンギーに到着

「あ、いた」

「ほお? 案外足取りしっかりしてるじゃねえか」

「ほんとだ。ちょっと歩くのに慣れてきたのかなあ?」

「あんたのスパルタに耐性ができてきたんだぜ」

「そーだったかー」


 アハハと笑い合う。

 魔境で一稼ぎした後、イシュトバーンさんとうちの子達も連れて、悪役令嬢の足跡を追ってきた。

 今日はンギーという自由開拓民集落に宿泊予定だ。

 クララが『フライ』を切り、フワリと降り立つ。


「こんにちはー」

「こんにちはぬ!」

「あら、ようこそ」

「あれ、どうしたの? 今日は『おサル』って言わないじゃん」


 メッチャ違和感あるわ。

 ゾワゾワっとして気持ち悪いから、いつもの調子でいて欲しい。

 何でモジモジしているのだ。


「それは……その、反省して。今まで悪かったわ」

「何だよ。もうドーラの山ザル色に染まっちゃったのかよ」

「染まってないわっ!」

「顔赤くなってるぞ? サル色はお尻も赤くしなきゃいけないからね」


 アハハと笑い合う。

 調子出てきたわ。

 まあ歩きながら話そうじゃないか。


「そちらのお爺さんは?」

「イシュトバーンさん。ドーラではかなりあちこちに顔が利く元商人だよ。あたしも西域のことはよく知らないからさ。次どこ宿泊がいいか聞いたらンギーを推薦してくれたんだ」

「御親切にどうもありがとうございます」

「よろしくな」

「で、あんたの様子を見たかったみたいで、連れてけって言うからさ」

「特筆すべきことは何もないですのよ?」


 イシュトバーンさんがこちらを見てくる。

 聞いてた話と違うぜ? あたしも戸惑ってるんだけど。何かあったか? 聞いてみる、というアイコンタクトを交わす。


「どうしちゃったの? 一日で随分と悪役令嬢らしさが抜けちゃったじゃないか」

「また貴方は悪役令嬢って……」

「カゼでも引いた?」

「引いてないわっ! でも……」


 悪役令嬢が陶酔したような表情を見せる。


「ザバンのお茶、素晴らしかったわ……」

「でしょ? あれ、『リリーのお気に入り』って名前がついてるんだ」

「ピッタリですわっ!」


 うんうん。

 帝国人にはウケそうな名前じゃないかな。

 輸出した時、名前でも注目されるといいと思う。


「で、あのお茶は基本的に全量輸出に回すつもり」

「どうしてっ!」


 昨日の話聞いてなかったのかよ。

 ドーラでお茶は売れないんだってば。


「飲茶の習慣がないってこともあるけど、一番大きいのはドーラが貧乏だから。あのお茶なら高値でも売れるはずでしょ?」

「当然ですわね。私が世界一と認めるくらいのお茶ですからね」

「でもドーラじゃ売れないわ。おまけに外貨を獲得して経済回さないと、ドーラが立ち行かないんだなー」


 これは仕方がない。

 ドーラはこれからの国なのだ。


「……ドーラにはドーラの苦労があるんですのね」

「ド田舎にはド田舎の苦労って言っていいんだぞ?」

「もう言わないのですわっ!」


 マジでどうした?

 まだ道のりは半分くらい残ってるんだぞ?

 もっと反抗的でいいのに。


「まーでもお茶については心配すんな。リリーとあんたの分くらいはあたしが譲ってやるから」

「あ、貴方は何故特別扱いなのっ!」

「お嬢さんよ。あのお茶の美味さを最高に引き出す淹れ方を見出したのは精霊使いなんだぜ」

「えっ?」


 あたしっていうか、うちの子達だけどな。


「あのお茶を最高の状態で淹れるのには、普通の水じゃダメなんだ。混じりっ気のない純粋な水じゃないと。執事さんに覚えてもらった水魔法は、本来あのお茶を淹れるために開発してもらったものなんだよ」

「お、お茶のために魔法を開発?」

「さすがに水魔法を必要とするようなお茶は、庶民じゃ飲めないでしょ? だから帝国の貴族や富豪向けなんだ」

「わかりますが……」

「ついでに言うと、器はガラスがベストだな。金属だと成分溶け出てダメ。湯を沸かしても成分飛んじゃう。美味いことは美味いけど、普通のお茶とあんまり変わんなくなっちゃうんだ。ザバンで飲んでもらったのは、水出し一二時間相当のものだよ」


 悪役令嬢が黙り込む。


「……水出しのお茶の方がおいしいことは私も気付いておりましたが、あの素晴らしいお茶にそこまでの情熱を注いでいたとは……」

「情熱はおゼゼのためであって、お茶のためじゃないぞ?」

「私、感服いたしましたわっ!」

「おいこら、話を聞け」


 まったく一行六人が尊敬の目で見てくるじゃないか。

 いや、私を尊敬するのは構わんけれども、慣れてないことは背中がかゆくなるからやめて欲しい。


「今後はあんたもドーラ人なんだから、ドーラをより良い国にするために協力しておくれよ。文化的な生活を送るためにも」

「わかったわ」

「特に帝国人の視点はあたし達にないものだからさ。これは素敵そう、あっちのはエレガントってのがもしあったら教えて」

「もちろんよ」

「もっとも既に協力してもらってるけどね」

「えっ?」

「いや、何でもない」

「何でもないぬ!」


 悪役令嬢フィフィには道中の記録を取ってもらっているのだ。

 デレるのが早かった分、後半ではトラブルに見舞われるんじゃないかとあたしのカンが告げている。

 『悪役令嬢のドーラ西域紀行珍道中(仮題)』は、帝国でどれくらい売れるかなあ。

 売れ行きよりも、ドーラに興味を持ってくれる人が多いと嬉しいけど。

 こら、そこのスケベジジイ、ニヤニヤすんな。


「ところでイシュトバーンさん、ンギーってどんなところなの?」

「ザバンより一層田舎だな。比較的水が豊富っていう特長がある」


 水が豊富って聞くと開発の余地があるっぽいが。

 カトマスまで一泊で行き来できる距離もいい。


「食べ物が美味いって聞いたんだけど」

「ん? 誰に聞いたんだ?」

「パラキアスさんだよ」

「ははあ」


 何なの? 何でそのえっちな表情がここで出るの?

 食べ物のことで裏切ったら許さないぞ!

 え、あたしは十分満足できるに違いないって?

 とゆーことは……。


「……帝国のお貴族様が食べたことのないような、ドーラのグルメってこと?」

「まあな。美味いことは間違いないぜ」

「楽しみですわね」


 あたしは楽しみだけれども、悪役令嬢にとって楽しみかどうかはわかんないぞ?

 帝国人とドーラ人では若干食べ物に関する感覚が違うから。

 近衛兵達も初め魔物肉に躊躇してたっけな。


「着いたぞー!」

「着いたぬー!」


 自由開拓民集落ンギーの門を潜る。

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