第1032話:行政府へヴィル転移
「美少女精霊使いユーラシア参上!」
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
ぎゅっとしたろ。
いきなり知事室に転移したら、オルムスさんが呆れてること。
パラキアスさんは面白そうだけど。
「これはどういうことだい?」
「ビーコンとセットの転移装置だよ。デス爺に作ってもらったんだ。うちにはヴィルがいるから、ビーコンを運んでもらえばあたしも転移できるじゃん?」
「ヴィルの行けるところになら、ユーラシア君も転移できるようになったということかい?」
「そゆこと」
「どんどん便利になるなあ」
確かに。
特にこの新しい転移の玉は、あたしの行動範囲を飛躍的に増やせる可能性がある。
ヴィルをあちこちに紹介しなきゃいけない理由ができたな。
ヴィルはいい子なので問題あるまい。
「で、何事だ?」
「帝国のガレリウス第一皇子が亡くなったって」
「「!」」
衝撃が走る。
「ついさっき、帝国を調べてたフクちゃんから連絡が入ったんだ」
「……皇帝崩御は予想の範囲内だったが、第一皇子が先か」
「大使室へ行こう」
◇
「……兄上が。何てことだ」
呻くプリンスルキウス。
「確報じゃないんだ。フクちゃんもすぐ連絡してきて、まだその状態を典医も把握してなかったみたいだから。あとで確かな情報源を当たってくるね」
確かな情報源とは、本の世界のマスター金髪人形アリスのことだ。
パラキアスさんが言う。
「逝去の公式発表はおそらく明日か。それから早船で三日かかるとして、四日後にドーラに連絡がもたらされることになる」
大使室の全員が頷き、プリンスが沈痛な面持ちで言う。
「予とリリーは葬儀に参列せねばならん」
パラキアスさんと目を合わせる。
ははあ、パラキアスさんもその気か。
「じゃ、あたしがプリンスとリリーを帝国へ転送で送ってくから、パラキアスさんとオルムスさんは船の方用意しといてよ」
「了解だ」
「待ってくれ。どういうことだ?」
理解してない様子のプリンスに説明する。
「目撃者のいない海上はやりたい放題なのですよ。実際にはユーラシアが転送でお送りしますので危険はありません。しかし仮に大使殿下が船で帰国するとなると、危ういことこの上ないですな」
「ドーラへ流刑同然のはずのプリンスが存在感増してて、自分のやることなすことうまく行かないんじゃムシャクシャするでしょ? 憂さ晴らししたくなるなー」
「……ドミティウス兄上が予を?」
「必ずそう、とは限りませんが」
「注意しないのは間抜けだぞ?」
クリークさんが聞いてくる。
「襲撃を警戒して殿下を本土に送るのはわかる。船の用意は何のためだ?」
「無粋な暗殺者どもをおびき寄せるためですよ。そちらは私が受け持とう」
「え? いいよ。パラキアスさん自分しか飛べないじゃん。あたしんとこにはクララがいるから、もし砲撃されて沈没したら、乗組員ごと飛んで戻ってくるよ」
「ハハッ、じゃあ任せていいか?」
「うん」
「超過勤務手当ては出ないぞ?」
「うあ、心が揺らぐ」
アハハと笑い合い、急にプリンスが真面目顔になる。
「兄上が亡くなったのは突発事項だろう? これも想定内なのか?」
「とゆーわけじゃないけど、前々からプリンスが逃げられない状況下に追い込まれるのはまずいね、とは仲間内で話してたんだよ」
魔境ガイドオニオンさんは、逃げられないもしくは避けられない状況に誘導されることを警戒していた。
今回の第一皇子が亡くなるという状況は偶然だ。
しかも帝国とドーラの距離から生じる情報の時間差は準備期間の差となって有利、と向こうさんは考えてるはず。
仕掛ける側としては、願ってもないタイミングじゃないか。
「敵が大規模な兵器持ち出してくるなら逃げる、そーでないなら戦うとは決めてた。まあ軍艦引っ張ってくるわけじゃないから、どうせ小型船で急襲してくるんでしょ?」
「どういう戦いを想定してたんだ?」
パラキアスさん、愉快そうですね?
あたしが何考えてるか聞きたいって?
「特殊な固有能力がヤバいかなと思って、調べてもらってたんだ。『ストーカー』で位置を知られて、『隠密』みたいな能力で近付かれて、状態異常系の攻撃されるのが一番よろしくないかなって結論」
「私も似たようなことを考えていた。しかし今回は船で海上だから?」
「固有能力では状態異常系だけ注意してりゃよさそう。あるいは攻撃魔法か爆弾かなんかでドンパチの方がありそーだね」
「ユーラシア君がここまで準備万端考えているなら問題なさそうですな」
オルムスさんも苦笑気味。
「もし面白い人とっ捕まえたら、ドーラで飼ってもいい?」
「構わんが、責任を持って面倒みろよ?」
「やたっ! 楽しみだなー」
兵器でボカスカやられるとつまらんけど、固有能力持ちの暗殺者だったらひっじょーに面白いな。
暗殺者なんて変わった人に決まってるよ。
ドーラの人材が厚くなるかな?
「それはそれとして、ヒイラギの葉っぱを漉き入れた紙が完成しました。じゃーん!」
箱の蓋を開ける。
「おお! これは芸術的で素晴らしいね」
「それぞれの葉の形が違うのが趣きがありますな」
「箱にも気品がある」
評判は上々だ、よしよし。
追加注文があれば受けつけますんでよろしく。
「ゼムリヤ辺境侯爵と誼を通じるための品として使わせてもらうよ」
「辺境侯爵ってどんな人なの? 帝国一の大貴族とは聞いたけど」
帝国の実力者には興味あるからな。
プリンスが言う。
「皇妃様の父君だよ。大貴族に相応しい貫禄を具えておられる。辺境守備の関係があり、あまり帝都には出てこられぬ方であったから、予も二、三度しか会ったことがないのだ。マックスはゼムリヤの出身だから、詳しいことを知ってるんじゃないかな?」
「いや、身分が違いますので……いつも厳しい顔をしておられ、特に娘が皇妃として都に出られてからはほとんど笑わなくなったと聞いている。おそらく精霊使いとは気が合うと思う」
「いずれ会えるようになるフラグかな? 楽しみだなー、最近主人公補正が強くて、ほとんどフラグ回収しちゃうんだよ」
アハハと笑い合う。
リリーやウルピウス殿下の爺ちゃんならきっといい人だろう。
「じゃ、あたし帰るね。第一皇子逝去について、正確なことがわかったらヴィルで連絡するよ」
「頼んだよ」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。




