第1030話:一六歳の初日は
「サイナスさん、こんばんはー」
夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは。どうだった? 一六歳の初日は』
「何もかもが新鮮だったねえ。みずみずしさが溢れてしまうよ」
『食材の話だったか?』
アハハと笑い合う。
「聞いた? アレク達冒険者やってみるんだって」
『ああ。しかしレベル的には問題ないんだろう?』
「アレクとケスのレベルはね。ただ戦闘経験がさほどあるわけじゃないから、立ち回りはどうかな? あとハヤテがレベルも装備も劣ってるんだよね。以上二点がウルトラチャーミングビューティーの目から見た心配かな」
もうハヤテもレベル九だ。
あたしだったらケスに『薙ぎ払い』を覚えさせてレベルで強引に押し、ハヤテのレベルをさらに上げようとするだろうな。
アレク達のパーティーの一番のネックはレベル差で、強い魔物に当たると危ないから。
でも慎重にいくならアレクの『些細な癒し』を生かしてケスのワントップ。
一回の戦闘に時間がかかっても少しずつレベル上げしつつ、ハヤテの装備を充実させることを先決と考えるんじゃないか。
間違いじゃないし、むしろ後者が正攻法だろう。
『今日、レイノスへ輸送隊が出発している』
「画集どれくらい出てるかな?」
『ヘリオス氏の注文以上に出荷しているはずだ。それから札取りゲームも、かなり輸出用に回るんじゃないか?』
「いいね。アレク達も喜んでるでしょ?」
『ああ。読み書きの習得が一応終了したから、新しいことをしたいということで、冒険者活動なんだろう』
「そーかー」
読み書きの習得が終了か。
やる気があると覚えるの早いなあ。
あたしもデス爺製の新しい転移の玉のおかげで、世界樹のところへ行けるようになった。
空のスクロール生産についても考えたい。
でもアレクが忙しくなってるなら、デス爺やペペさんの意見を先に聞いておくか。
『葉を漉き入れた紙の注文があったろう? 完成したとの連絡があったぞ』
「やったね! 明日取りに行くよ」
帝国のどこぞの大貴族に納めると言ってたやつ。
黄の民に注文出してた紙を納める箱は既に完成している。
明日行こうっと。
『こっちは以上だ。ユーラシアの方は?』
「今日割と細々したことだったんだよ。まず明日の夜、チュートリアルルームでかれえパーティーやることに決まった」
『カレーは君にとっては重要かもしれないが、オレの興味を引く情報ではないんじゃないか?』
「カレーはいずれドーラ全体の関心事になると思うけどなあ。じゃ、サイナスさんの関心を引くスパイスを投入してみる」
『何だ?』
「赤眼族の子に食べさせてみようと思って」
赤眼族とバエちゃんの世界の関連について、細かいことはサイナスさんに話していないが、大体は推測してるだろ。
『……君は平地に波瀾を起こすことが好きだなあ』
「いやあ、混沌の女神だなんて」
『褒めてないからな?』
褒め言葉じゃないの?
ごまんとある長所の一つじゃなくて?
「いや、多分大したことにはならないんだ」
『何かを狙って仕掛けてるのではないんだ?』
「あたしは陰謀少女ではないから」
『それこそごまんとある長所の一つだろ』
陰謀が?
それは違うと声を大にして言いたい。
パラキアスさん好みのジャンルにまで手を伸ばそうとは思わない。
「赤眼族の子がかれえが不味い言いやがるから、本物を食べさせてやりたいだけだって。おいしいってことが広まると、赤眼族側もあたしがドーラでかれえを再現しようとしてることを、応援してくれるかもしれないし」
『ふむ、交流は大事だな』
「赤眼族の魔物除けはすごいんだよね。全然魔物寄ってこないの。西域に利用したいけど」
『確か碧長石を使うんだったか?』
「そうそう」
サイナスさんに話したんだったかな。
よく覚えてるなあ。
「ただ碧長石がどこで取れるか知らんし、こっちの魔道術式が有効なのかもわかんない」
『赤眼族に聞いてみればいいじゃないか』
「多分知らないな。知ってたら魔物除け増やして村域を拡大してると思うんだよね。向こうもあたしに負い目があるのに、あたしの要求に応えられないのは可哀そうだから聞かない」
『君がそういう心遣いをするのは意外だな? ゴリ押すだけだと思ってた』
「何を言ってるんだ。気配りのウルトラチャーミングビューティーだぞ?」
赤眼族はまだまだあたし達の知らないことを知ってそうなので、末長くお付き合いしたい。
碧長石入手の当てがないし、グロちゃんの魔物除けの札で用が足りちゃえば当面必要のないことだ。
魔物除けの札試用の結果を待ちたいということもある。
「アレク達と塔の村行ってさ、冒険者活動の初歩のレクチャーしてきた」
『うん、聞いた』
「タッカー君っていう、コルム兄の弟子が一緒だったんだ」
『ほう?』
「パワーカード製作も戦闘経験があると違うんだってね。スキルの実装とかどんな機能が求められるかの勘所とか?」
思えばコルム兄が初めてあたしにくれた『プチエンジェル』は、技術自慢のカードだった。
コルム兄もそれがわかってて、自戒の意味でくれたふしがある。
「午後はお楽しみ、悪役令嬢イベントでした」
『すっかりお楽しみなんだな?』
「エンターテインメントだねえ。でもまだおサル呼びする元気があるから、完デレするまでには時間がかかるね」
『ハハッ、そうか』
「例の超すごいお茶飲ませたら目丸くしてたよ。私が世界一と認めて差し上げてもよくってよって、声震えてたもん」
実に気分がいいなあ。
『ザバンだったんだな?」
「うん。ちょうどパラキアスさんも来ててさ。ザバンのお茶は全部政府買い上げっていう契約になった。あたしはザバン産出量の二〇分の一を限度に、政府から仕入れ値で買えることにしてもらったんだ」
『つまりドーラのお茶は、ユーラシアからしか買えない?』
「行政府は外貨獲得を優先して全部貿易に回すだろうから、当面はそーなるんじゃないかな。もしお茶が必要なことがあったら言ってよ」
もっともドーラのお茶なんて、あたしがリリーに分けたり、お土産や接待や販促に使うのが関の山だろうけどな。
『そんなところか?』
「うん、サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』
明日はカラーズへ紙を取りに行くのが先か。




