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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1029話:働け『ネクタルの甕』

 悪役令嬢御一行とパラキアスさんは、確かレイノスではすれ違ったはず。

 今後絡みはないかもしれないけど、一応説明しておく。


「ドーラ政府のパラキアスさんと、茶農家のテオさんだよ」

「貴方がこのお茶を栽培している方ですのね? 馥郁とした香りが素晴らしいですわ」


 ドーラで一、二を争う底意地の悪いやつと、パラキアスさんを補足説明する前にお茶の話題になってしまった。

 なかなか悪役令嬢は侮れない。


「あんたから見ても、ザバンのお茶は大したもんなんだ?」

「もちろんですのよ。淹れ方は拙いですけれどもね」

「おおう、間髪入れずにディスってくるなあ」


 今飲んでるやつは超すごいお茶じゃなくて普及品だ。

 でも悪役令嬢と同様にお茶にうるさいはずのお母さんも満足しているようだ。

 ここまで歩いてきて喉が乾いてるって面はあるにしろ、ドーラのお茶は割とイケてるのかな?


「これリリーも帝国本土のものと遜色ないって言ってたんだ」

「でしょうね。皇室に納入する品と同ランクと言って差し支えないわ」

「ところがこのお茶、ドーラじゃ全然売れないの」

「な、何故?」

「ドーラにはお茶を飲む習慣がないから」


 ハーブティーや柿の葉茶を飲む習慣はあるのだ。

 単に馴染みがないと言った方がいいのかもしれない。

 まー本物のお茶は高いしな?

 価格もドーラ人感覚には合わんのじゃないかな。


「レイノスではお茶を飲む人もいるんだけど、わざわざ帝国から輸入したやつをありがたがってるんだよ。もちろん皇室御用達みたいな特級品じゃなくて、ごく普通のお茶ね」

「はあ~。おサルさんのバカ舌にも困ったものね」


 これに関しては何も言い返せないわ。


「そんなドーラにも世界一のお茶があるのでした! リリーが愛好しプリンスルキウスが驚愕し皇妃様がガブ飲みした奇跡のお茶を見よっ! スイッチオーン!」


 執事が何かに気付いたように言う。


「これ……これはまさか『ネクタルの甕』?」

「執事さんは学があるねえ。悪役令嬢にはもったいないわ」

「また貴方は悪役令嬢って!」


 悪役令嬢って言われたくなかったら、あたしを見返すだけの何かを見せてみろ。


「ところで何なの、その壺は。マテウス、知識を披露してもよくってよ」

「永遠に神酒が湧き出ると言われている、世界的な秘宝、マジックアイテムです!」

「正確には、この甕が記憶してる液体が出続けるというものなんだ。で、超すごいお茶の飲み頃のやつを覚えさせてあるの」

「超すごいお茶? 世界一のお茶と貴方が主張する?」

「そゆこと。あたしはウソ吐かないから期待しててね。飲んで腰抜かしても責任は取れないぞ?」


 胡散臭そうな難しいしてるけど、飲めばわかるわ。

 並々とお茶を湛えたところで動作が止まる。

 うんうん、仄かないい香り。


「さあ皆、遠慮なく飲んでちょうだい」

「おい、精霊使い。俺達も飲んでいいか?」

「もちろんだよ」

「「「「「「!」」」」」」


 悪役令嬢一行の驚くまいことか。

 目まん丸になってんぞ?

 おおう、ヴィルが悪役令嬢のところへ行った?


「こ、これは……」

「素晴らしい……」

「ま、まあまあね!」

「語尾が感動に打ち震えてんぞ?」


 まじまじと美しい液体を見つめる悪役令嬢。


「わ、私が世界一と認めて差し上げてもよくってよ」

「どこまでも上から来るなあ」

「来るんだぬ!」


 爆笑。

 パラキアスさんが問うてくる。


「この甕はどうしたんだ?」

「『アトラスの冒険者』のクエストで、宝箱から出てきたんだよ」

「わざわざザバンへ持ってきたのは何故だ? 中身の茶だけでよかったろう?」

「この甕ザバンにあげるから、代わりにザバンで生産するお茶、全部あたしとドーラ政府に売ってよ」

「「「「「「「「えっ!」」」」」」」」


 ヴィルがすげえ複雑そうな顔になった。

 面白いなあ。

 ぎゅっとしてあげようね。

 パラキアスさんはパラキアスさんでしたり顔してるし。


「せ、世界的秘宝ですよ!」

「まあね。この甕は結構大したもんだよ」

「せ、世界的秘宝ですのよ?」

「だから知ってるってば」

「せ、世界的秘宝なんだろ?」

「何なんだ、あんた達は。代表して誰か一人が発言してよ」


 繰り返しのギャグがなくはないけど、今のはエンターテインメントじゃなかったわ。

 あたしの琴線に触れないわ。

 パラキアスさん何?

 皆に説明してやれって?

 しょうがないなあ。


「『ネクタルの甕』は確かにスーパーアイテムだけど、あたしが持ってたって誰も得しないじゃん?」

「得? いや、でも手放したら損でしょう?」

「損じゃないよ。タダで手に入れたものだし、あたしの手元にあることで利益を生んでるわけでもないし」


 『ネクタルの甕』を使う構想がなかったわけじゃない。

 でも現状何にも使用してなかったのは事実。

 イシュトバーンさんがお宝にはお宝に相応しい仕事させてやれって言ってたことだし、それなら超すごいお茶を生み出し続ければいい。

 ザバンで働いてちょうだい。


「このお茶の淹れ方、すごく難しいんだ。でもこの甕があるなら、ザバンに来さえすれば誰でも最高のお茶が飲める。結果ザバンも旅人で潤う。生産したお茶全部回してくれれば、あたしだってドーラだって嬉しい。八方丸く収まるじゃないか」

「これがドーラの精霊使いユーラシアの考え方ですよ」


 何でパラキアスさんが得意そうなのよ?


「で、村長さんテオさん。そーゆーことでいいかなあ?」

「大変に結構ですな」

「オレにも異存はないです」

「やたっ!」

「ユーラシア、ちょっと待った」


 パラキアスさん、何?


「既にザバンが外部に販売するお茶は、全て政府に納める契約を締結済みなのだ」

「じゃあザバンが生産したお茶の二〇分の一を上限に、政府があたしに仕入れ値で売ってくれる特約つけてよ」

「ハハッ、さすがに抜かりないな。では、決まりだ」


 よーし、オーケー!


「執事さん、あしたはンギーっていう自由開拓民集落目指してくれる」

「はい。どのようなところですか?」

「あたしもお勧めされただけで、どんなところか知らないんだ。パラキアスさん知ってる?」

「強歩三時間強くらいのところだ。食べ物が美味い」


 うまい食べ物は楽しみだな。

 自由開拓民集落なら人も多くないだろうし、うちの子達も連れていこうか。


「あたし帰るね。さよなら」

「バイバイぬ!」


 転移の玉を起動し帰宅する。

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