第1028話:今日は余裕があるみたい
フイィィーンシュパパパッ。
「カトマスへようこそ! お、美少女精霊使いと悪魔ちゃんか。」
「こんにちはー、イケてるおっちゃん!」
「こんにちはぬ!」
悪役令嬢フィフィをからかう本日のノルマだ。
カトマスを出立し、自由開拓民集落ザバンに向かっているはずだが?
ザバンへ行くためには、ほこら守りの村の方が近い。
でもあえてカトマスにやって来た。
「悪役令嬢って、いつ頃村を出たかな?」
「ハハッ、やはりその件か。一〇時少し前くらいだったかな。意気揚々と出て行ったぜ」
お? 今日は余裕があるみたいだな。
人間やる気が大切だとは常々あたしが思っていることだ。
まずはよしよし。
「しばらくあの子を遊んでやろうと思ってるんだ」
「西の果ての塔の村まで行くんだったか? 最近冒険者活動が活発で有名な場所だよな」
「いや、悪役令嬢も冒険者やりたいんだって」
「ええ? 無謀だろ」
一人ならばね。
「あの子の執事が中級冒険者くらいのレベルがあるんだ。それから下男が『頑強』っていう固有能力持ち」
「『頑強』か、盾役お任せのやつだな。なるほど、パーティーならば……でもあのお嬢が足引っ張るだろ」
おっちゃんは懐疑的だね?
でも今までのやり取りから、悪役令嬢は適応力がかなり高い気がしている。
ステータスや固有能力には恵まれてないかもしれないけど、気質は冒険者向きなんじゃないかなあ?
「まず塔の村まで無事にたどり着けるかが問題なんだよね」
「辛抱の利かない性格だもんなあ」
「まー性格については西域街道を転がせば丸くなると思ってるの」
「おお、美少女精霊使いは可憐さに似合わない豪腕だな」
「似合わなかったかー。でもパワープレイはあたしのごまんとある長所の一つなんだよね」
「長所ぬよ?」
アハハと笑い合う。
「今日はザバンを目指せって言ってあるんだ。お嬢の足でもボチボチ着く頃かなーと思って。今から追いかける」
「ザバンか。喧騒からは遠い、いいところだよな」
うむ、確かに。
西域への入り口ってこともあって、あんまり魔物も出なさそうだし、のんびりとしたいい村だ。
「あんたは飛行魔法使えるんだったか? でもかなりの大荷物じゃねえか。大丈夫か?」
「大丈夫だよ。じゃあね、イケてるおっちゃん」
「バイバイぬ!」
『遊歩』を起動しザバンへ。
◇
「あっ、いた」
飛んでる最中に悪役令嬢一行を発見。
まだ自由開拓民集落ザバンには到着していなかったが、もう門は見える位置だ。
今日は足取りがしっかりしているから全然問題なさそうだな。
フワリと着地する。
「こんにちはー」
「あっ、おサルさん!」
「まだそれ言うのか。まあまあ余裕があるねえ。少しはサルの国に慣れた? そろそろお尻が赤くなってきたんじゃない?」
アハハと笑い合う。
うむ、今日はメンタルも大丈夫だ。
昨日のカトマス到着前なんかボロボロだったけどな。
悪役令嬢が不思議そうに聞いてくる。
「そちらの正装の子はどなたですの?」
「おお? 正装の子って表現した人は初めてだな。悪魔のヴィルだよ」
「悪魔?」
執事が一瞬緊張したが、すぐヴィルのレベルを悟って諦めたようだ。
うんうん、警戒したってムダだからね。
「うちの偵察と連絡を受け持ってくれてるの。普通の悪魔と違って好感情を欲しがるいい子だから、心配いらないよ」
「よろしくお願いしますぬ!」
「あら、いい子ね。よろしく」
ふうん、悪魔と知っても全然動じないのな。
意外と大物なのか、あるいは自己中心主義だからか?
ますます冒険者向きの性格に思えてきたなあ。
悪魔と悪役令嬢は同一カテゴリーなのかもしれない。
「貴方がお持ちの大きな壺は何ですの?」
「これ今日の仕込みなんだ。きっと驚くと思うよ。期待してて」
ザバンへゴー。
執事が話しかけてくる。
「ドーラには高位魔族が多いのですか?」
「多くはないよ。でも目的地の塔の村にはウシ子っていう悪魔がいる。道具屋で『ザガムムのお守り』っていうアイテム売っててさ。塔のダンジョンで強い魔物に襲われてピンチの時なんかにそれ使うと、ウシ子が駆けつけて助けてくれる契約になってるの」
「なるほど、いい関係であると」
「うーん、利用し、利用される関係かな。ヴィル以外の悪魔は基本的に人間を見下してくるから、どうにかしてこっちを認めさせないと付き合えないよ。でもウシ子も契約を反故にするほど愚かじゃないんだ」
ウシ子も同様だが、普通の悪魔にはまずこっちの実力を理解させないと、話にすら乗ってこないものだ。
ただし物事は例外もある。
……帝国の第二皇子は、悪魔の方から近付きたがる人間らしい。
メッチャ希少なんじゃないかな。
「ザバンにとうちゃーく! リフレッシュ! よく頑張ったね」
ホッとした顔になる一行。
「ここザバンはね、おそらくドーラ唯一のお茶の産地なんだよ。あと砂糖も結構産することで有名」
「お茶? ド田舎にしては優雅でありますこと」
まだド田舎言いやがるのか。
ドーラは間違いなくド田舎だけれども。
「村長さん、こんにちはー」
「精霊使い殿、こんにちは。今日は大勢ですな。どうされましたかな?」
「街道を下って塔の村を目指してる、帝国の悪役令嬢御一行様だよ。今日はザバン泊まりになるから連れてきたの」
「また貴方は悪役令嬢って!」
「あんたがおサルのド田舎のって、好き勝手ほざきやがるからだぞ?」
「ハハハ。さよう、ド田舎の何もない村ですが、ごゆるりとどうぞ」
村長は心が広いなあ。
あたしはやられたら倍くらいはやり返さないと気が収まらないのに。
軽食屋へ。
店員が声をかけてくる。
「よう、精霊使い」
「えーと、この赤毛ソバカスのスリの名前は……」
慌てながらコソっと言うソバカス男。
「シルヴァンだシルヴァン! スリって言うな、親父に聞こえるだろ!」
「そーだった、ごめん」
どーもあたしはモブの名前を覚えられない。
とゆーか貴重な美少女精霊使いの脳みそのリソースを、余計なことに使いたくない。
注文を取ったあとにシルヴァンが言う。
「ついさっき、誰かが茶畑の方へ飛んでったぜ? おそらくパラキアス氏だと思う」
「お茶の契約関係かな? 呼んでくる!」
「わっちも行くぬ!」
よしよし、ヴィルはいい子だね。
茶農家テオさん家へ急ぐ。
今日の仕込みはパラキアスさんにも知っといて欲しいことだからね。




