第1012話:御自由なことで
「サイナスさん、こんばんはー」
三人を帝国に送ったあと、毎晩恒例のヴィル通信だ。
今日は働いたなー。
『ああ、こんばんは』
「移民はどうなってるかな?」
今回の移民から土地代を徴収する新しいやり方だ。
文句言わずに従ってくれてるかな?
『土地の分配は終了だ』
「おゼゼ取られることに納得できてる?」
『全然問題ない。水の不安のない、肥えた広い土地をもらえて建築用の材木も支給だろう? 皆喜んでたぞ』
「よかったねえ」
初回の土地の売り上げ金は、出国税で毟られた初めの移民に回る。
次回以降の移民の土地売り上げ金は、開発に携わっているカラーズの面々と移民コミュニティで分けりゃいいだろ。
これなら開拓地運営はうまくいきそう。
『一番出資してるのは君なんだが』
「おゼゼ返してくれるってこと? あたしはいらないから開拓地で使ってよ」
『気前がいいなあ』
「……気前も女っぷりもいいんだよと返そうか、よく聞こえなかったからもう一回って返そうか迷っちゃった。褒め方が半端だからだ」
『謂れのない風評被害』
アハハと笑い合う。
『果樹とナッツの木、ありがとうな』
「いいんだよ。うちの畑番は優秀だけどね。あの数は手が回んないから、灰の民の村でも頑張って育ててよ。ドーラ中に挿し木して増やすつもりなんだ」
『君のところの畑番というのは初めて聞いたな』
「あれ、そうだっけ? 涅土の精霊カカシって子がいるんだ。寄り代タイプ。土の中の水分や肥料分を分配できるスペシャリストだから、実験的な栽培ですごく助かってるの」
うちではモモとアーモンドを育てることにした。
モモは運搬が難しいので商品として成り立ちにくいという理由から。
アーモンドはモモと種類が近く、合わせて管理するのが容易という理由からだ。
『帝国にはまだまだ様々な作物があるんだろう?』
「多分。帝国は農業国だもんねえ。あたしも帝都しか行ってないから詳しくは知らんけど」
人口も多いから、品種改良もすごく進んでると思う。
まだまだドーラは学ばなればいけないことが多いよ。
「また時々帝国に行くからさ。面白いものがあったらドーラに導入しようよ」
『農作物でかい?』
「何でもだけど、まずは農作物からだな。今来てる移民は農業に心得のある人がほとんどだし。ドーラを豊かにしたいねえ」
『夢を語るユーラシアは魅力的なんだけどなあ。そういう楽しみだけにしておけばいいのに』
「あたしは多趣味だからね。今日忙しかったから、楽しみの一つ悪役令嬢に絡めなかったんだよ」
『楽しみのレンジがえぐい』
アハハ、多趣味はエンターテインメントの極意。
『ところで忙しいというのは?』
「帝国のリモネスのおっちゃん、宮廷魔道士長ドルゴスさん、近衛兵長ヴォルフさんをドーラに連れてきてたんだよ」
『皆聖火教徒なのかい?』
「いや、違くて。おっちゃんは予定通りミスティさんに会わせたんだけど、魔道士長さんはクララの精霊専用白魔法が見たかったんだって。近衛兵長さんはプリンスと親しいし、ドーラの冒険者に興味あったみたい」
『ほう? では行政府にも?』
「行ってきた。昼御飯をたかりに」
サイナスさんが呆れたような顔をしているのを敏感に察知した。
あたしにとっては昼食の目的の方が重要なんだってばよ。
「ソロモコと魔王の件についても話してきたよ」
『納得してたか?』
「うん。この件で帝国と揉めちゃっても、あたしのせいじゃないぞーってことは」
ちょっとした笑い。
いや、あたしも積極的に揉めようとはしてないんだけれども、ソロモコ遠征の司令官の理解度次第だから。
『帝国がソロモコに攻め込むのは規定路線なのか?』
「うーん、今日の三人は軍に関することについてほとんど情報を持ってないの」
とゆーか軍に関して知る立場にない。
「だけどほこら森の村で占ってもらったら、三人に話せって言われたんだ。ソロモコに帝国が関係してくるところまでは間違いないと思う」
『幼女預言者だな? 画集にも載ってる?』
「そうそう、マーシャって言うんだ。マーシャの占いは外れないからさ」
『ふむ……』
サイナスさんは何を考えてるんだろ?
『帝国がソロモコに攻め込むとするだろう? 君はそれをどうやって察知するんだ?』
「フクちゃんからヴィル経由で連絡が入ることになってる」
『君は艦隊をどうにかすることに関しては自信があるんだな?』
「そりゃまあ。許可もらったし」
『となると、大した騒ぎにはならないのか? むしろ目的を完遂できない帝国内部が動揺する?』
いや、艦隊沈めちゃったら騒ぎになるだろ。
サイナスさんの発言にも最近大物感が漂ってきたなあ。
「帝国にソロモコ侵略をさせないところまではどうにかなるよ。でも魔王の出方がわかんないじゃん?」
『ふむ、魔王側の問題があるか』
「結局魔王が戦争やることに決めちゃったら止められないし」
問題は魔王のリアクションだ。
フクちゃんには魔王を宥めるように言ってあるけど、説得がどれほど利くかは未知数だから。
ソル君のクエストが進んで魔王と会えるようになると手掛かりが増える。
でもソル君も苦戦してるようだし。
「まーやれることはやるけど、不確定要素はどーにもならんなー」
マーシャもこの件について吉凶言ってくれなかったしな。
おそらくは今後変化し得る因子が多いんだと思う。
『行政府ではソロモコについて話してきただけかい?』
「いや、第二皇子はどーしていらん騒動を起こすのかな迷惑だなトップはプリンスルキウスがいいなーって煽ってきた」
『そりゃ御自由なことで』
「あたしが傍若無人みたいにゆーな。パラキアスさんとリモネスのおっちゃんが煽れ煽れって顔してくるんだもん」
皇帝になるにしろ摂政になるにしろ、プリンスルキウスが帝国のトップになることに関しては、ドーラとリモネスさんの利益は一致する。
近衛兵長さんはプリンスのシンパだ。
魔道士長さんは政治的な影響力はないにしろ、有力な組織の長だ。
仲間にできれば幾許かの影響力はあるはず。
「パラキアスさんが満足げな顔してたからいいと思う」
『パラキアス氏も大胆だからなあ』
「まあねえ。サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日はファイアードラゴンか。




