第73話 楽しかった日々をもう一度……
侍「君とはもっと別の出会い方をしたかった」
刀を我に向けながら、好敵手は悲しそうに言った。
ワン「殺し合いが無ければ、そもそも出会うことは無かった。これが我らの唯一無二の出会い」
我と好敵手は互いに殺し合う宿命にあった。
この楽しい殺し合いの日々がこれからも続くことを願っ……
侍「娘は絶対にやらんぞ!」
ブンッ。
ワン「一体なんの話をしている!?」
我は好敵手が振り下ろした刀を躱しながら困惑した。
せっかくの雰囲気が台無しである。
*
侍「ゴホッ、ゴホッ」
床に伏せていた好敵手が咳き込んだ。
好敵手は重い病気にかかってしまった。
侍「まさか敵である君に看病される日が来るとはね……」
好敵手が複雑そうな顔をした。
ワン「ふっ。くやしかったら早く病気を治すのだな」
侍「そうだね……」
好敵手の言葉には覇気が感じられなかった。
普段ならことあるごとに我を殺そうとしてきたというのに……。
侍「その……ニノはどうしてる?」
好敵手が心配そうに自身の娘について尋ねた。
ワン「お前の病気を治すために朝から晩まで絶賛勉強中だ。あのような親孝行な娘を持ててお前は幸せ者だな」
侍「そうか……。あまり根を詰めないように言っておいてくれ。ニノに何かあったら俺は……」
好敵手は病気でボロボロになってしまった自分自身よりも、娘のニノの身を案じていた。
ワン「……ニノを連れてこようか?」
ニノは魔法使いの弟子になったり、魔導書を読み漁ったりして、家に帰って来ない日が続いていた。
確かに好敵手の病気を治すために必要なことではあるが、大好きな娘と一緒にいられないことは病気の好敵手にはさぞ辛いことだろう。
侍「いや、いいよ。……実を言うと、少し嬉しいんだ」
ワン「嬉しい?」
侍「今まで俺の側にべったりしていたニノが自分の意思で俺の元を離れて頑張ってる。娘の成長を感じられて俺は本当に……嬉しいんだ」
好敵手が笑った。
ワン「こんなときでも娘のことか。お前は――父親というのは強いのだな」
我には父親がいなかった。
我が産まれる前に死んでしまったらしい。
ワン(もし、父親が生きていれば、我と母のことを守ってくれたのだろうか?)
淡い期待を抱いた。
そんな期待を抱いたところで現実は何も変わらないというのに。
侍「君も子供が出来れば分かるよ。……ニノのことをよろしくな」
ワン「何を言っている。ニノはお前の子供だ。お前は父親として彼女の成長を見守る義務がある」
病気のせいで弱気になり、ニノを我に託そうとしている好敵手に我がはっきり言ってやった。
侍「いや、そうじゃなくて……ううん。なんでもない。変なことを言って悪かったね」
好敵手が我に謝った。
侍「うっ」
好敵手の顔が苦痛で歪んだ。
ワン「大丈夫か!」
侍「あ、ああ。悪いね。少し……眠るよ」
好敵手がゆっくりと目を閉じた。
ワン「ああ、おやすみ。好敵手よ」
大丈夫。病気は絶対に良くなる。
病気が治ったら、前みたいに殺し合いをしよう。
それでニノに止められて……
そんな何気ない……
楽しかった日々をもう一度……




