第68話 名を捨てた道化
母親「ごめんね、ごめんね」
病に伏した母が俺に謝り続ける。
かつて母は俺の手が他の人と違うのは、俺が特別な存在で英雄だからと言った。
母親「『普通』に産んであげられなくて、ごめんね」
けれど、今は違った。
俺を英雄と呼ぶことは無くなり、俺をそんな体で産んでしまったことを後悔し続ける日々。
ベルク「母さん……」
憎かった。
こうなるまで、母を追い込んだ人間たちが。
だから、俺は――『人殺し』になった。
*
ズボッ。
俺の手が強者の胸を貫いた。
手に巻いた包帯が赤く染まる。
母の死の原因――迫害の元となった醜い化け物の手を隠し、人間の振りをする。
男「ぐはっ」
強者が血を吐いて倒れた。
もう直に死ぬだろ。
男「この俺が負けるとは……お前は何者だ?」
死にかけの強者が絞り出すような声で言った。
ベルク → ワン「我が名はワン。近い将来、最強の頂に立つことになる男だ」
俺が母の元に産まれて来なければ、母は死ぬことは無かった。
故に、俺……我はベルクの名を捨て、ワンという最強を目指す別人になった。
全ては手遅れで、もう母の死は変えられないというのに……
それでも我は……
男「最強か……。お前ならなれるかもな」
男「…………」
その言葉を最後に、強者は絶命した。
ワン「ふはは、我は誰にも負けない。善人も悪人も恐れ慄く、『ダークヒーロー』である!」
死体の前で一人大声を上げる。
我が強ければ、我と母が迫害されることは無かった。
力無き化け物の正体は、普通と違うが故に気持ち悪がれ、
人間以下とみなされた――ただの人間もどきに過ぎない。
……であるならば、ならなければならない。
迫害する気も起きないほどに。
人間に恐れられる。
正真正銘の強い化け物に。
ワン「強者との命を懸けた殺し合いのみが我に生を実感させる!」
――封印された腕が疼く。
そう言って、包帯まみれの腕を押さえた。
我は演じる。
両手の包帯に違和感を感じられないように。
孤独に……道化を。




