第5話 救済②
マイ「ねえ、お母さん。男の人と抱き合うのって楽しいの?」
マイが私に聞いてきた。
私はこの部屋で子供を授かるために、男の人とよく抱き合う……交わることが多い。
それをずっと見てきたマイがそのことに興味を持つのは当然かもしれない。
ユナ「そうね……。確かに男の人と抱き合うのは楽しいわ。でも、性別は関係ないの。……えいっ」
私がマイに抱きつく。
ユナ「どう?」
私がマイに抱かれた感想を聞いた。
マイ「心がポカポカする」
マイが抱き返す。
ユナ「それが『幸せ』。人は人に抱かれたり、人を抱いたりすると。幸せな気持ちになれるの」
マイ「これが幸せ……」
マイが私の言葉を反芻する。
ユナ「そうよ。分かってくれた?」
マイ「ううん、分かんない。だって、お母さんが男の人と抱き合ってるときはもっと激しくて声も凄かったし、もっとも~と楽しそうだったもん!」
ユナ「うっ……」
マイが痛いところをついてきた。
ユナ「そ、そうね。今、マイに教えたのは親子……家族の愛情よ」
マイ「親子の愛情……」
マイが私の言葉を噛み締める。
ユナ「それでね。マイが言う……普段、私が男の人と抱き合っているのはそれとはまた別の……男女の愛情なの」
マイ「男女の愛情……。それがお母さんが大好きな『愛情』なんだね。だって、お母さん。男の人と抱き合ってるときが一番楽しそうだもん」
ユナ「は、はわわ~」
恥ずかしさで私の顔が真っ赤に染まる。
わ、私、そんなに楽しそうにしてたのかしら……。
確かに男の人と交わるのは大好きだけど……。
マイ「男女の愛情か~。いいな~。……ねえ、次、男の人が来たら私にも男の人を抱かせて!」
マイが目を輝かせながら言った。
ユナ「駄目よ」
そんなマイの言葉をバッサリ切り捨てる。
残念ながらその愛はまだマイには早い。
マイ「どうして~!」
マイが頬を膨らませて怒る。
その表情もまた可愛い。
ユナ「マイが興味を持ってくれるのは嬉しいんだけど。男女の愛情は大人になってからじゃないとしちゃいけない決まりなの」
マイ「そうなんだ……」
マイがガッカリした顔をしてまった。
ユナ「お、大人になるのって案外すぐだから! だから、そんなにガッカリしないで!」
マイ「本当にすぐ?」
マイが疑わし気に聞いてくる。
ユナ「本当よ。人間の人生が九十年として、子供の時間はわずか十年ちょっと。残りの八十年は大人の時間……男の人と抱き合い放題なの!」
マイ「は、八十年も!?」
私の言葉にマイが驚く。
まあ、八十歳になっても性欲が残っているかは別だけど……。
そこは気にせず、大袈裟に言っておこう。
ユナ「そうよ。だから、子供の今は立派な女性になるための準備時間。いっぱい寝て、いっぱい食べて……大きくなろうね」
マイ「うん! 私もお母さんみたいな『ナイスバディ』な女になれるように頑張る!」
マイが元気よく答えた。
ユナ「な、ナイスバディ!?」
い、一体どこでそんな言葉を!?
この部屋から出たことは無いはずなのに……。
マイ「えっとね。この前来た男の人がね。お母さんが眠ったあとに色々なお話をしてくれたの!」
ユナ「そうだったのね」
娘のことまで気にかけてくれるいい人がいたみたい。
一体、誰かしら?
交わっているときはみんな優しいし……。
ユナ「う~ん」
頑張って心当たりを探すがまるで見当がつかない。
ユナ「自己嫌悪……」
男の人と交わるときは行為に夢中で、相手の人間性まではきちんと見れていなかった。……反省。
これからは自分が気持ち良くなるだけでなく、相手のこともちゃんと考えようと思った。
ユナ「まあ、考えたところで、もう会うことはないんだけど……」
この部屋に連れて来られる男の人がどうやって決まっているのかは私には分からない。
でも、これまでに同じ人がもう一度来るケースは無かった。
ユナ「ねえ、マイは将来、どんな男の人と抱き合いたい?」
私が試しに聞いてみた。
マイ「お母さんみたいにいろんな男の人と! それで、お外のことたくさん教えてもらうの!」
……これはまずい。
ユナ「そ、それはやめた方がいいわね」
私がやんわりとマイの考えを否定する。
マイ「え~、どうして~。お母さんはしてるじゃん!」
ユナ「だからこそよ。抱き合っている間――愛し合っている間は本当に楽しくて嬉しくて……ずっとこうしていたいと思うの」
私が男の人と抱き合っているときに感じていることをマイに伝える。
ユナ「でも、その時間は長くは続かなくて……お別れが来ちゃうの。そしてもう二度とその人には会えなくて……」
私の目からポツリと涙が零れ落ちる。
ユナ「マイには私と同じ目には遭って欲しくない……」
一度きりの愛を何度も味わう悲しみ。
産んだ子供を奪われる苦しみ。
そのどちらもマイには味わって欲しくない。
ユナ「マイにはずっとそばにいて、一生愛してくれる。そんな男性と……男女の関係になって欲しいの」
私がマイの頬に触れる。
ユナ「これは私のわがまま……。私がそうありたかったという……もう叶うことのない願望……」
もしかしたら、これは私の身勝手な押し付けなのかもしれない。
でも、それでも私はこの願望をマイに押し付ける。
だって、それがきっとマイの幸せにつながると思うから……
ユナ「どうか私のような『本当の意味では愛してもらえない人間』にはならないで」
私は涙を、嗚咽を押さえながらお願いを口にした。
マイ「お母さん……。うん、分かった。絶対に見つけてみせるよ。何があってもそばにいつづけてくれる男性を」
マイが私の言葉に力強く頷いた。
マイ「でも、それは私だけじゃない……。私とお母さん――『二人』を愛してくれる男性を見つけるよ」
ユナ「マイ……」
その言葉を聞いて私の顔が曇る。
これまでたくさんの子供を産んできた。
けれど、マイ以外の子供は全て取り上げられてしまった。
子供のそばにいてあげられなかった最低な親である私が……そんな幸せを手にしていいのだろうか。
私が自身の罪に苦しむ。
ぎゅっ。
そんな私にマイが抱きついた。
マイ「大丈夫だよ。お母さん。私たちはきっと幸せになれる。ううん、私が幸せにしてみせる」
ユナ「マイ……ありがとう」
マイの優しさが……。私への愛が伝わってくる。
マイの言う『マイと私の二人』を愛してくれる男性に会うのは不可能と言っていいだろう。
それは当然のことだ。
だから、マイを愛してくれる男性にさえ出会えればいい――私はそう思う。
ユナ「私はもう大丈夫よ」
マイに出会う前の私はこの暗い部屋にひとりぼっちだった。
そんな私の唯一の救いが時折この部屋にやってくる男性たちだった。
彼らとつながっている間だけは私はひとりではなく、確かな幸せを感じらることができた。
その幸せだけが私の全てだった。
でも、それはマイが産まれてきてくれたおかげで変わった。
ユナ「マイさえ……。マイさえいてくれればもう何もいらないの」
私がマイを強く抱きしめる。
私の幸せはここにある。
そして、マイの幸せのためにこの暗い部屋から逃げ出さなければならない。
私は強く強く決意した。




