第5話 現実逃避
カイト「あれ? ここは?」
気がつくと俺は空にいた。
『プカ~』
俺の体は風船。あるいは煙のように空へとぐんぐん上っていく。
カイト「うわ~。雲があんなに下に……」
このままいくと、宇宙まで行ってしまうんじゃないか?
そうなれば、俺も夜空に輝く星のひとつに……
――グイッ。
カイト「うおっ!?」
何かが俺を連れて行かせまいと引っ張った。
カイト「これは赤い糸?」
小指に結びつけられた赤い糸。その糸は地上まで伸びていた。
きっと、その糸の先にいるのは……
*
カイト「はっ!?」
俺の意識が現実に帰る。どうやら、落下の恐怖から現実逃避をしていたらしい。
落ちる恐怖に対抗して、空に昇っていく妄想をするなんて我ながら実に単純な脳みそだ。
まあ、昇りすぎて逆に恐ろしかったが……
カイト「やっぱり、地面に足をつけて生きていくのが一番だよな」
迫りくる地面を見ながら俺が言った。妄想から覚めた今も絶賛、現実逃避中である。
『ポフッ』
地面から生えてきたクッションが俺の体を包む。
カイト「やわらかい……」
俺がクッションに顔をうずめる。あれほどの高さから落ちても無傷で済むとは実に優秀なクッションだ。
マオ「カイト~……」
同じくクッションのおかげで一命を取り留めたマオが泣きそうな顔をしながら俺を見ていた。
もう、俺もマオも叫ぶ気力は残っていなかった。ただただ、意気消沈している。
アン「いや~、楽しかったですね」
レイ「そうだね。もう一回行っとく?」
アンとレイが元気に恐ろしいお話をしている。
アン「いいですね。行きましょう」
レイ「オッケー。任せてよ」
パチンッ、とレイが指を鳴らす。すると、レイとアンの体が浮かび上がった。
便利な魔法だ。全然、羨ましくはないが。
レイ「カイトとマオはどうする?」
カイト「行かない」
マオ「絶対、嫌だ」
俺とマオは、レイの誘いを力強く拒否する。
もう、屋上から落下するのはこりごりだった。




