第22話 落下
カイト「お兄さん!」
俺がベルク――『旅人のお兄さん』に声をかけた。
ベルク(旅人)「君は……」
カイト「俺だよ。カイトだよ。十年前にお兄さんに出会って……」
ベルク(旅人)「カイト……? えっ、ああ、覚えて……、いえ、覚えてますよ」
カイト「良かった」
お兄さんの言葉に俺が安堵する。
カイト「驚いたよ。まさか、旅人のお兄さんが大魔導士ベルクだったなんて」
ベルク(旅人)「黙っていてごめんなさい。どうしても、名前を明かすことは出来なかったんです。私は死んだことになっていなければいけなかったので」
お兄さんが申し訳なさそうに謝った。
ベルク(旅人)「本当にごめんなさい。私はあの子を……あの子の大切な人たちを守ることができませんでした」
お兄さんの目から涙が零れ落ちた。
カイト「お兄さん……。ううん、違うんだ。お兄さんのせいじゃない。それに俺の方こそお兄さんを助けられなかった。……ごめんなさい」
謝っても許されることではない。それでも謝らずにはいられなかった。
ベルク(旅人)「あなたは……一体……」
カイト「お兄さん?」
お兄さんが困惑している。どうしたのだろうか?
『グラッ』
地面が揺れた。
ベルク(旅人)「あっ」
お兄さんの足元の地面が崩れた。
カイト「危ない!」
俺がお兄さんの腕を掴む。
ベルク(旅人)「離しなさい。あなたも落ちてしまいます」
カイト「嫌だ。もう二度とレイと……彼女が大切にしているものを失わせてなるもんか!」
ベルク(旅人)「レイ……。ああ、そうでしたね。それが今のあの子の名前でした」
*
□□□「あれ? ここは?」
さっきまでとは打って変わって、真っ白な空間に俺はいた。
レイ「■■……。お兄さん……」
レイが泣いていた。
□□□「レイ!」
俺がレイの手を取る。
レイ「あなたは誰?」
□□□「俺は……」
――君の名前は■■■だ。
カ■■?
カ■ト!
カイト。
カイト「俺はカイト。お前の弟だ」
レイ「僕の弟?」
カイト「ああ、そうだ。覚えてるだろ? この十年間を」
レイ「十年……」
レイが思い出す。この十年間の日々を。
レイ「そうだ。たくさんの人たちに出会った」
何もなかった真っ白な空間がどんどん色づいていく。
レイ「君がずっとそばにいてくれた」
レイが俺の手を握りしめる。
レイ「これからもそばにいてくれる?」
カイト「ああ、当然だろ。だって、俺はお前の――」
*
青空が広がっていた。
ベルク(亡霊)「やあ、戻ってきたみたいだね――『ヒーロー』」
お兄さんが俺を迎え入れた。
カイト「えっと……ヒーロー?」
お兄さんにヒーローと呼ばれ、困惑する。
ベルク(亡霊)「自分で名乗ったんじゃないか。『ベルを助けにきた英雄』だって」
お兄さんがおかしそうに笑いながら言う。
カイト「そ、そうだったね」
自分で言い出したことなので、俺は素直にヒーローと呼ばれることを受け入れることにした。
『ゴゴゴゴゴゴゴッ』
世界が激しく揺れた。
カイト「うわっ!? 一体に何が……」
揺れに耐えきれず、俺が地面に膝をつく。
ベルク(亡霊)「そろそろ終わりが来たみたいだ……」
激しい音が鳴り響き、世界が崩れていく。
カイト「お兄さん!」
俺はなんとか立ち上がり、お兄さんに手を伸ばそうとするが、それはできなかった。
なぜなら、俺の両手は……
ベル「カイト……」
ベルが俺の左手を握る。
レイ「カイト」
レイが俺の右手を握る。
ベルク(亡霊)「分かったかい? 君がつなぐ手は俺じゃない」
お兄さんの足元の地面が崩れた。
ベルク(亡霊)「ベルと、■■■のこと……。よろしく頼んだぜ」
そう言い残すと、お兄さんは深い深い穴の底へと落ちていった……




