第3話 汎用クエストとジョブクエスト
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この世界は子供の頃にプレイしていたファンタジーな世界によく似ていて、【冒険者】なる職業がある、らしい。
これらの情報は、この体の主である【クレア】の記憶から引っ張ってきたものだから、多分間違いはないと思う。
冒険者は、文字通りに世界中を旅する根無し草のことだ。
ダンジョンに潜って一攫千金を狙ったり、ギルドから受けたクエストを達成して報奨金を貰ったりすることで生計を立てている。
やってる事はファンタジーだけど、要は日雇労働者だ。
そして、今の私の職業である【ギルドの受付嬢】は、日雇労働者達に仕事を斡旋する人材派遣会社みたいなものだった。
「じゃ、俺は休憩に行ってくるから、依頼票の仕分け頼んだわ」
始業してから、ぶっ続けで対応すること2時間と少し。
漸くピークの波が引いてきた頃合いに、隣のサボリーマンが重たそうな腰を上げた。
いそいそと持ち場を離れようとする先輩の皺だらけのワイシャツを掴む。
「おっと、今年の新米は積極的だな」
「知らない業務なんで、教えてから休憩に入ってください」
しょうもない勘違いで顔を緩める先輩に、冷たい一瞥を食らわす。
だが、そんなことくらいでは、この人は堪えない。
「教えてなかったっけ?」と小首を傾げる先輩に、何度も首を縦に振る。
もしかしたら、この体で目覚める前の私は教わっていたのかもしれないけど、今の私は一つも覚えていない。
一応、クレアというこの子の記憶は私も自分の事として思い出せるのだけど、それはこの仕事に就くまで。
この仕事に就いてからの記憶は、断片的にしか覚えていなかった。
「まぁ、いいや。そんなに難しいことじゃないぜ。この依頼票の束を、汎用クエストとジョブクエストに分けるだけだ」
私達の間に置かれていた紙の束を無造作に掴みあげた先輩は、前後にヒラヒラと振る。
「窓口の職員が扱える依頼票だから、ランクもC〜E級までしかないしな。帰ってきたら、合ってるか見てやるから取り敢えずやってみな」
冒険者達はランクによって、ざっくり実力を仕分けられている。
冒険者として登録されたばかりの人達はEランクから始まって、クエスト達成を重ねていくと昇級試験を受けられるようになる。
Eランクの新米が昇級試験に受かると、次に与えられるランクはアルファベット順通りにDだ。
──どうしてこの世界はアルファベットに対応しているんだろうとか、余計なことは今は考えないようにする。
それよりも今は、先輩の説明に耳を傾けないと。
「汎用クエストっていうのは、自分と同じランクか、それよりも下のランクのクエストであれば受けられるんですよね?例えば、Eランクのクエストなら、Eランクか、それより上位のDランク以上の冒険者であれば受けられるというふうに。
それでジョブクエストっていうのは、冒険者がそれぞれ就いているジョブのこと。戦士とか魔法使い、錬金術師など。この認識で合ってますか?」
ジョブは、私の職業である【サノヴィア冒険者ギルドの受付嬢】というのとはまたニュアンスが違うらしい。
あくまでも冒険者の職業は、【冒険者】だ。
私なりの解釈だけど、多分、血液型や性別みたいなものなんだと思う。
だって、このジョブは成人式の時に神官様が神託してくれるものであって、本人達で選べるものじゃないらしいし。
「問題ない。そういや、マニュアルがあったか」
依頼票を持っていない方の手で、先輩は袖机の一番上の引き出しを引く。
引き出しの中に無造作に片手を突っ込んだ先輩は、ガサゴソと漁り出した。
「ジョブクエストの振り分けは、マニュアルを見ながらやればいい。まぁ、こっちの方は依頼人がジョブを指定してくるケースが多いから、それに則ってやればいいぜ。あと素材系は錬金術師だな──っと、あったあった」
漸く、お目当ての物を見つけたらしい先輩は、中からクシャクシャになった紙束を引っ張り出してきた。
ほぼゴミ箱一歩手前の紙束を依頼票と重ねた彼は、私の目の前に遠慮なく置いた。
「っつー感じで、上手い具合にやってくれればいいから。んじゃ、後はよろしく〜」
やることはやったとばかりに良い笑顔を浮かべた先輩は、ひらりと右手を振るや、いそいそと奥にある扉へと向かっていく。
気楽に揺れている先輩の右手を半目で見続けるのも程々にして、私は目の前に置かれた書類を見下ろした。
『ゴブリンでも分かる!クエストの仕分け方法 』
教育係って、今からチェンジできないかなぁ。
このファンタジーな世界で、生活をし始めて三日目。
私は日々の生活や仕事内容よりも、やる気のなさ過ぎる教育係に頭を痛めていた。




