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カイルとレータ ~辺境伯領の人獣戦士~  作者: シンH
第3章 人獣戦士誕生
9/15

3-3 禁断の秘術

挿絵(By みてみん)


 次の朝、6人は朝食も大広間で食べることになった。

 今朝は伯爵だけでなく、魔法医師という人が同席していた。

 眼鏡をかけて難しい研究を長年やってきたような感じの熟年の男性である。


 さらに昨夜に比べてやけに大人数の使用人たちが並んでいた。


 パンなどを軽く食べた後、伯爵はみんなに話し始めた。

「ではいよいよ何をするか、説明しよう」

 みんな静まりかえって耳を澄ませた。


 伯爵は言った。

「念のため。君たちは戦争や災害で家族や友達を亡くしたと聞いている。間違いないかな?」

 みんなうなずく。

「ぶしつけな質問ですまなかった。でも、悔しかっただろう?」

「…」

 同じようにみんなうなずいた。


「強くなりたいかね?」

「…」

 さらにうなずいた。


「もっと力がほしいと思わないか?」

「…?」

 少しみんな戸惑い始めていた。何の話をしているのだろう?


「力…って?」と聞いたのはトマスだった。


「戦争で攻め込んできた敵に負けない力。強盗が押し入ってきたらやっつけられる力。土砂崩れや洪水が襲ってきても人を助けられる力。みんなを守れる力。そういうすごい力だよ」


「そんなこと、できるんですか?」とミリア。

「きっとできるよ。私たちは、そういう力を手に入れる秘術を研究してきたんだ」

 伯爵は熱を帯びたような言い方で説くと、6人も次第に興奮し始める。


「本当ですか?」

「そういう力なら、ほしいです!」

「本当にできるんなら」

 みんな口々に叫んだ。


「君たちは、戦争や災害でひどい目にあってきた子どもたちだ。誰よりも強くなりたい気持ちが強いはずだろう?」

「はい!」

 いつの間にか6人は声を揃えて叫んでいた。


「では、そのためにこれからやることを教えよう」

と伯爵は言って使用人に何か合図した。


 テーブルのうえに各自2つずつのコップが並べられた。1つは濃い茶色の液体、もう1つは薄いオレンジ色の液体。


 不思議そうに眺める子どもたちに、伯爵は

「この薬で強い身体、強い力をみんな手に入れることができる。戦争や犯罪や災害に負けず、みんなを守れるようになるんだよ」

と語りかけた。


 魔法医師が説明する。

「今、2つずつ飲み物を並べたね。

 濃い茶色の飲み物は苦い。苦いけど最後まで飲み干してください。

 その後、すぐにオレンジ色の飲み物を飲んで。こちらは甘い。

 これからみんなが身体を強くするために必要な薬が含まれているので、しっかり飲んでね。

 強い身体は、世の中のために働くために大切なことだから」


 最後に伯爵が付け加えた。

「1つだけ注意しておく。この薬を飲んで、さらに魔法の秘術をみんなに施術することになる。

 それで成功すれば、今言ったようにすごい力を使えるようになる。

 ただし非常に特殊な技術なので、リスクはある」


「リスクって?」とレータが聞いた。

「健康上の危険、ということだ。不安があるなら、今やめて帰るのでもかまわない。

 無理に飲むように強制するつもりはないからね」


 しかし、せっかく強い力が手に入るといって盛り上がっていたのに、ここで引き下がる気になる者はいなかった。

 仮に怖くなってやめたくなっても、もう今さら誰も言い出せなかっただろう。


 さっそくみんな飲み始める。

 最初の飲み物を飲んで、すぐに「う、苦い!」「何これ?」などと口々に叫び、それでも指示されたとおりに最後まで飲んだ。

 その後、口直しのつもりか、甘いと言われた2番目の方もあわてて飲み始める。

「あ、こっちは甘いね」

などと何人かが言っていた。


 そのうちにみんな、周囲の情景がゆがんでふにゃふにゃになっていくような妙な感覚に襲われ始めた。「何か変だぞ」「眼が回る」と言いながら、みんなテーブルに倒れ込んだり、椅子にもたれかかったりして眠ったようになってしまった。


「効いたようだね」

と伯爵がいうと、魔法医師は

「薬は完全に調合してあります。本当の難しい問題はここから先ですが」

と答えた。

「どれくらいの確率で成功しそうかね?大切な子ども達だ。一人でもムダにしたくはない。みんなに期待させた通り、成功させたいよ」

「まだわからないことが多いですが、ベストは尽くします」


 この時ドアが少し開いていて、そこからのぞき込んでいる者がいたのだが、伯爵たちは気づかなかった。


 伯爵が声をかけると、使用人たちは死んだように眠っている6人を抱えて運び出した。


 6人は館の別棟の暗い部屋に運び込まれた。

 うすぐらい蝋燭だけが灯っていて全体はよくわからない。机らしいものがあり、その上には直径10センチほどの金属球みたいなものが台座に置かれていた。


 使用人たちは6人を床のうえに並べて横たえ、服を全て脱がせていった。

 魔法医師は革袋を手に持っていた。その中から緑色のピラミッド型の小さな石のようなものを取り出し、眠ったままの6人の胸の上に1個ずつ置いていく。


 すべて並べ終わると、使用人たちは退出し、魔法医師と伯爵だけになった。

 魔法医師はよくわからない言葉を詠唱し始める。

 机上の金属球が黄色く光り、そこから稲妻のようなものが6人の胸の上にあるピラミッド型の石に放たれて吸い込まれていく。伯爵はじっとその光を見つめている。

 魔法医師の詠唱が止まってもその光は6人に放たれ続けた。


 眠っていた裸の6人は激しい苦痛を感じたのか、うめき声をあげて顔をゆがめ苦悶の表情を浮かべるものの、身体を動かすことはほとんどできない。

 エリックとフリーダが一瞬眼を開けて「ああ!」と叫んだが、そのまままた眼を閉じて意識を失ってしまう。


 そのような状態が20分ほど続くと、みんなの胸の上に置かれたピラミッド型の石は消失していた。光も出なくなった。

 もう6人は全員静かになって、そのまま横たわっている。


 魔法医師は6人の脈と呼吸を確認して回った。

 レータとカイルは脈と呼吸が激しいだけでなく身体がものすごく熱くなっていた。しばらくして使用人たちに指示し、カイルとレータだけに簡単な服を着せて運び出させていった。


 それ以外の4人は、触れてみても何の反応もなかった。魔法医師は何度も触れたり軽く叩いたりするが、何も起こらない。

 そして4人の身体には熱もなくなっているどころか、急速に冷たくなっていた。

 呼吸も止まっていた。


「こちらはダメだったようです。残念ながら」

 魔法医師が伯爵に告げる。伯爵は無言だった。

 2人はその場に残されて横たわる4人に手を合わせ、頭をしばらく垂れていた。


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