3-1 集められた子どもたち
その2年前の夏のことだった。
村長の屋敷に辺境伯の館から使者が訪れた。村長と教会の司祭が使者を出迎える。
「先般から打ち合わせしていたとおり…」
と使者が告げた。
「…14歳の子ども6人を館まで連れて行きますので、準備願いたい。対象者はこちらで間違いないですよね」
使者は名簿のようなものを村長に示した。
「この人選で間違いありません」
と村長。
「みんな、うちの教会の孤児院の子です。待機するように言ってあります。みんな、できる範囲で説明はしてありますから」
と、横から見ていた司祭が口をはさむ。
孤児院から連れてこられた6人の子どもの名前は、エリック、ミリア、トマス、フリーダ、そしてカイルとレータ。
全員が14歳で、このうちミリア、フリーダ、レータが女の子だった。
何のためにどこに行くのか、確かに前々から非常に簡単なレベルでの説明はあった。
* * *
その2週間ほど前のある日、村長は6人を集めてこう行ったのだ。
「お前たち、村を敵や災難から守りたいとは思わないか?」
6人はうなずいて、口々にこう言った。
「そりゃ、守りたいよ。」
「僕らにできるんなら。」
口には出さないが、みんな自分の亡くなった家族達のことを思い浮かべていた。
「もうすぐお前たちが活躍できる時がくるかも知れない。村のために、みんなのために役に立ちたいだろ?その時に備えて心しておきなさい。」
「どういうこと?」
「伯爵様のところで、みんなを強くするための研究をしているらしい。強くなれる魔法の術とか薬を作ってるとか聞いたぞ」
何だかおおざっぱな説明だったが、これは村長もおおざっぱなことしか知らなかったからだろう。
* * *
そしてその当日。子ども達は集められて、使者のところに連れてこられた。
まず司祭が説明する。
「前に村長からちょっと言ったことがあったと思うけど、いよいよ村のために役に立てる時がきたんだよ」
「今日出発してもらう。伯爵様のお館に言って説明を受けてくれ」
と村長。
「え、今日なの?」
とエリックが言い返す。
「孤児院の他の子には私から説明をしておくから」
と司祭。
みんな心の準備が追いつかず、ざわついた。
落ち着かない状態で、6人は言われるまま使者に付き添われて馬車に乗り込まされ、出発した。
「いつ村に戻ってくるの」
というミリアに、使者は
「1週間後くらいになると思うよ」
と説明した。
農園や森林、大きな河などを眼にしながら馬車は進んで行く。
次第に窓から見える建物や通行人の数が増えてくるのが6人にはよくわかった。そういう情景を見ているだけでも飽きなかった。
辺境伯の館のある町モスヴァンに到着した。モスヴァンの町は城壁に囲まれていて役所の庁舎、貴族や市民の邸宅が並び、田舎のベルダ村とは大違いである。
子ども達は初めて見る風景に驚き、右や左をきょろきょろ見回していた。
「すっげぇ賑やかだな」
「みんなおしゃれよね」
「うちら田舎の村人とはさすが違うね」
館の大きな玄関の前でいったん待機させられた。村で大きな建物と言えば教会施設と村長の屋敷くらいだったが、それよりもはるかに大きくて立派だった。
6人が待たされているところに、同い年くらいの貴族らしい立派な身なりをした上品な少年がこっちを見ながら目の前を通って玄関に入っていった。母親らしき女性と一緒だった。
同じ子どもでも住む世界が違うんだなあ、と6人は思う。
特に嫉妬はなかった。もともと世界がまったく違うもの同士では嫉妬は生まれようがない。
玄関前で何か次の指示を与えられるのかとみんな思っていたら、そのまま中に入れられて館の大広間のようなところに通される。
「こんなところ、俺たちが入ってもいいんだ」
「いい経験ね。村に戻ったらみんなに話してあげなきゃ」
6人は大きなテーブルの席に案内されて座る。
しばらく待つと、執事や担当の係だけでなく、何と伯爵本人が現れた。もちろん話では伯爵のことは何度も聞かされたことがあるが、実際の姿を見るのは生まれて始めてである。
村だけでなく辺境伯領全体を治める領主様。
村長や司祭よりもずっと偉い人。
外の敵と戦い、何か困ったことがあったら手を打ってくれるお方。
執事がいう。
「では伯爵様からご挨拶があります」
みんな細かい礼儀作法などはわからないけれど、孤児院で長年しつけられたとおりに何となくお辞儀はした。
「みんな、わざわざ遠いところから来てもらってすまないね。
まず今日は疲れているだろうから、身体をよく洗って夕食を取ってもらいたい。
明日になったらやることを説明する。
みんなは、自分たちの村のために役に立ちたいと思っているんだよね。明日、その話をしよう」
前に村長から聞いたのと似たような内容の話だったが、もちろんそのとおりで、みんな村のために人一倍役に立ちたいとは思っていた。
孤児院にいる自分たちは、何かと他の村人たちに世話になっていることに引け目を感じていたのだ。
少年たちは早く一人前になって、仕事をしたり、兵隊になって手柄を立てたりしたかった。
少女たちは大体が早く結婚していい家庭を持ち、また畑仕事や織物仕事などをして認められたかった(兵隊になりたい少女もいたが)。
さらにこの6人は、戦争や災難から村を守りたい気持ちも誰よりも強かった。戦争や災難で家族を失って孤児院に来たのだから、当然だった。
6人はそれぞれ男女別に風呂に入った。長旅の疲れを湯が溶かしていく。ついでに長年の汚れも洗いながした。
風呂の後で質素だが清潔な服を与えられ、再び大広間に入ると食事が運ばれた。
伯爵と一緒に食事というのは不思議だった。なぜ自分たちなんかと一緒に偉い伯爵様が同じテーブルで食事するのだろうか?
お互いに雑談もできないほど緊張してしまった子どもたちに向かって、伯爵は微笑みながら優しく声をかけた。
「もっと気楽にしていいよ。遠慮しないで。食べたいものをどんどん食べなさい。」
そう言われて、次第に子ども達の食欲が緊張感よりも強くなっていった。みんな食べたこともない上質の肉、パン、果物、チーズなどを頬張っていく。
その時、大広間のドアの外で何か会話が聞こえてきた。
「僕も一緒に入りたい」
「同席しないようにとおっしゃってますので…」
何だろうと思っていると、ドアが押し開けられて、さっき見かけた同い年くらいの身なりのいい少年が入ってきた。
みんなが一斉に注目する。
「あれ?さっき玄関で見かけた子じゃない?」
「ひょっとして、あの子は…」
「一緒に食べたらどうかしら」
身なりのいい少年が「こんにちは」と言うと、6人も何となく「どうも」「こんちわ」と言って会釈する。
そこに
「ハンス様、困ります」
と言いつつメイドや使用人が数名ほど入ってきた。
ハンス様?ということは、やはり…
「私の息子、ハンスだよ」
伯爵は少し困惑した表情をして紹介した。
「せっかくだから一緒に晩ご飯したら…」
とレータが恐る恐る言いかけると、伯爵は
「息子は今やることがあるんでね。食事は後でする予定なんだ」
と答えて、メイドたちに指図した。
メイド達は、何かぶつぶつ言っているハンスの手を引っ張ってドアから連れ出して行った。
食事が終わると
「何をするのかは明日説明するから、今日はよく寝るように」
と言われて、少年と少女でそれぞれ3人ずつに分かれて寝室に入った。




