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1-2 平和をおびやかす者

 男たちはさっそく乱暴に柵をたたき折って踏みにじり、ベルダ村、いや辺境伯領に足を踏み入れ始めた。

 国家の間の戦争ならばベルダ村に他国の軍隊がわざわざ攻め入るほどの戦略的な重要性はなかっただろうが、盗賊が略奪をするだけなら十分価値はあった。奪い取るものさえあれば良いのだ。


 盗賊にとっては、家畜、穀物、金銭、そして人間、何でも構わなかった。


「警備兵がいないからといって、油断はするなよ。あわてて駆け出したりはするな。何か仕掛けや罠があるかも知れないからな」

 リーダーが指示する。

 メンバーたちも手慣れた様子で、周囲をうかがいながらゆっくり慎重に歩いて行った。


 平凡そうな村といっても、さすがに侵入に備えて何もしていないわけではなかった。

 落とし穴や罠の仕掛けらしきものをあちこちに見つけることができた。

 それらに注意を払いながら急がずに進んで行く。こういう行動をするあたりは彼らのいろいろなこれまでの経験が生きているようだった。

 戦いの現場では、油断すると命取りにつながることは多々あったから。


 しばらくすると、村の広場で緊急の事態を示す鐘が響きわたった。

 物見櫓のハシゴから望遠鏡を手にした見張り番が飛ぶように降りてきて叫び声をあげる。

 村に警備兵はいないけれど、国境からやや離れた内側で見張り番が常時監視しているので、侵入者がいれば割とすぐわかるようにはなっていた。


「大変だ、侵入者だ。国境が破られたぞ。みんな避難しろ」

 それを聞いて伝令係があちこちに散らばって回っていく。


 警告の叫びや村人たちのざわめきを聞いて、カイルとレータもすぐに立ち上がって見張り番の男に駆け寄った。

「どんな敵が来たんですか?」

「ドクロの旗を持ってるのが遠くに見えた。あれは最近暴れている死神戦闘団とかいう野盗じゃないか。ゆっくり歩いてくる」


 死神戦闘団とは、傭兵崩れの悪名高い新興の盗賊集団だった。

 各国の国境地帯などの警備が手薄な地域を少人数で手早く荒らし回り、軍隊が追討にくる前にさっさと引き上げる。そういう身軽な行動パターンを繰り返すことで知られるようになっていた。

 あくまで周縁地域をターゲットにして、短期間で小規模な襲撃をするだけなので、各国ともなかなか対策の手が回らないというのが実情だった。


 国境から少しでも離れた場所に避難すべく、村人達が次々に移動し始めた。この種の襲撃を受けて避難する経験がみんなそれなりにあるのがわかる。

 決して野盗の襲撃を経験したのは決して今日が初めてという感じではない。動きはそれなりに機敏だった。


 カイルとレータは顔を見合わせてうなずきあい、なぜか避難していく村人達とは反対方向に、賊がきたという国境側の方に向かって走り出した。

 誰も2人を引き留めたり見とがめたりはしなかった。


 その一方で、略奪を狙う侵入者たちは、誰もいない森林や野原を抜けてしばらくゆっくり歩き続けているところだった。

 やがて街道が見えてくる。ここを通っていけば村に行ける。

 村人達から略奪して、軍隊が来る前にさっさと引き上げよう。

 逆らう者がいればぶち殺すだけだ。女子どもをさらって奴隷にしてもいい。

 みんなそう考えていた。


「ボス、誰か来ます」

 メンバーの1人が叫んだ。

 その指さした方を見ると、2人の少年少女がこちらに駆けてくるのが目に入った。


「何だ?こいつら」

「ガキか。一体何しにきたんだ」

「大人をなめてるのか」

 男たちは口々に言う。


 やがてカイルとレータが男たちから10メートルほど離れたところで立ち止まった。

 

 リーダーはにやにや笑って2人に言った。

「ガキども、何の用だ?何しにきた?」

 部下達も「子どもの来るところじゃねえぞ」などと怒鳴る。


「侵略はやめてください」

 ストレートにカイルが答え、続いてレータも付け加える。

「さっさと村から出て行って」


 リーダーと部下達は顔を見合わせて一瞬あっけにとられたような、ぽかんとした表情になったが、すぐに大爆笑に変わった。

「はっはっは。これは傑作だ」

「何言ってやがる」

「ずいぶんとふざけたガキだ。ガキにはしつけが必要だな。ちょっと痛い眼に合わせてやれ」

 リーダーがいうと、一人が駆け寄って槍の柄でいきなりカイルの頭を強く叩いた。

 うずくまるカイルを2、3人がよってたかって蹴り、殴りつける。


「殺すのはもったいない。ほどほどにしておけ。あまり傷つけすぎるな。売り物になるからな」

 一方、レータはリーダーに左腕で首をかかえられ押さえつけられてしまっていた。


 頭から血を流したカイルは地上に這いつくばっていた。


「少しは思い知ったか?」

 リーダーはいやがるレータをさらに強く押さえつけながら言う。

「お前らは奴隷として売り飛ばしてやる。特に小娘は高く売れるんだ。売る前に楽しいことを教えてやるよ。」


 カイルはうずくまりながら、憤怒のこもった眼であざ笑うリーダーを見上げた。


 その憤怒の眼が徐々に変わっていくのにリーダーは気がついた。

 何か普通ではないことが起こっていた。


 カイルの瞳が金色に変わっていく。いや、瞳だけではない。

 顔全体、身体全体に変化が起こった。

 顔と手足から次々に茶色っぽい毛が生えて、それが全身に広がっていく。

 耳がとんがり、口が左右に裂け広がって牙が伸びてくる。

 両手の指と爪が長くなり、脚ががっしりしてくる。


 さらに全身が大きくなって筋肉が盛り上がる。

 服が破れていく。


「小僧の様子が変だぞ!」

「何だ、こいつは?」

 男たちが口々に叫ぶ。


 あっという間にカイルは、人間とオオカミとヒョウか何かを混ぜたような、不思議な姿に変貌し、リーダーよりも大きくなって立ち上がった。

 背丈は2メートルくらいもあった。


「てめぇ、一体何なんだ?まさか、魔族か?」

 さすがに身の危険を感じてリーダーは叫んだ。

 魔族は北の果てに支配地域があり、リーダーも傭兵として魔族と戦った経験が少しはあった。

 しかし、まさかこんな離れた村に魔族がいるとは思えなかった。


 頭が混乱している中で、自分が左腕でレータを押さえつけていることを思い出した。

 そうだ、この小娘がいる。こいつを人質にして何とかしよう。とりあえずこの村から引き上げられればいい。


「近寄るな!近寄ったらこの小娘を殺すぞ!」

 カイルの金色の眼を見つめながら、リーダーは必死で牽制しようとして叫ぶ。

 こいつが魔族なのか別な化け物なのかは知らないが、小娘はこいつの仲間なんだから人質には使えるだろう。そう思ったのはごく当然のことだった。


 ところが、さらに驚くべきことがリーダーを待っていた。

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