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1-1 平和な村

挿絵(By みてみん) 

 ガリエル村の村民が敵兵に惨殺されてから、7年ほどがすぎた。


 その日、辺境伯領の南端にあるベルダ村はいつもと変わらない穏やかな陽光に包まれていた。

 村の真ん中の街道を普段どおり人や牛馬や馬車たちがゆったりと行き交う。


 そんな光景を、道ばたの切り株の上に座った少年と少女が何となく眺めていた。

 2人とも着ている服は質素な生地で、腕や脚がむきだしになっている動きやすそうな格好だった。少し寒そうにも見える。

 少年は割と大人しそうな顔つきだったが、少女はややつり目で気が強そうである。

 少女の髪は後頭部で団子のように結んでいた。

 2人とも腕や脚部はかなり筋肉質で引き締まっているのが見て取れる。

 

「カイル兄ちゃん、レータ姉ちゃん」

 呼ぶ声がしたので2人が振り返ると、5歳くらいの女の子が母親と一緒にこちらに近づいてきた。母親のおなかが大きくなっているのが見て取れた。

 

 レータと呼ばれた少女は笑顔で「ミラ!」と女の子の名前を呼んだ。カイルと呼ばれた少年が母と子に手を振る。


 ミラははしゃぎながら

「あたし、もうすぐお姉ちゃんになるの」

と笑顔で語りかけてきた。


 母親はカイルとレータに自分のおなかを指さしながら

「来月には次の子が生まれそうなのよ」

と言った。


「元気な赤ちゃんが生まれるといいね」

とレータが答える。


 カイルが

「今日はどこにお出かけ?」

と聞くと、ミラは

「ママと市場にいくの。それじゃあ、またね」

と答えてそのまま母親と歩いて行った。


 母子連れの後ろ姿を見守りながら、カイルはレータにそっと言った。

「この平和がいつまでも続いてほしいよなあ」

「まったくだよね」

 レータは何か遠い方向を見るような眼をして答える。それは、まるで平和がはかないものであることを知っているような眼だった。


「あんたたち、暇そうにしてるね」

 そこにまた別な声が聞こえてきた。中年の女性の太い声だった。

「あ、マルカおばさん」


 マルカおばさんと呼ばれたのは村の女性のリーダー的な存在で、2人の世話も何かと焼いてくれる人である。

「暇なら後で草むしりを手伝ってほしいんだけど。市場から帰るときにまた声かけるからね」

「うん、わかった」

 レータが元気よく返事してカイルもうなずくのを見ると、マルカおばさんもそのまま歩いて行った。

 

*   *   *


 ベルダ村を含むミディア辺境伯領は、帝国の北西端を守る要衝の位置にある。その北側と西側は他の列国に直面して緊張状態のまっただ中にあった。

 とりわけ西の敵国は手強く、長年にわたって武力衝突を繰り返し、双方ともに大きな犠牲を出してきた。一方、山や谷が多い南部は情勢が比較的平穏な中間地帯に面していた。


 この土地の統治を任されていた当代の領主フリッツ・ミディア伯爵は、戦いにあっては勇猛果敢、敵に対しては容赦なく、民に対しては慈悲深い優れた統治者で、皇帝の信頼も厚かった。


 伯爵の妻ユリアナは聡明な夫人であり、夫婦には将来を期待されたハンスという息子とナタリアという娘がいたのだが、ハンスは今から2年前によくわからない不意の病で世を去っていた。


 このため継承問題が伯爵家の悩みの種だった。ナタリアが伯爵を継ぐか、または婿養子を取って次期当主にするか。皇子の中の誰かと結婚してもらうのが一番いいと思って、伯爵はそれなりに働きかけをしたりしてもいた。


 ベルダ村は、この辺境伯領の南部の果ての国境地帯の一部だった。高山と森林が多いが農業や牧畜も盛んでそれなりに栄えており、住民の暮らしぶりは可もなく不可もなしというところである。


 辺境伯の守備隊にも規模に限りがあるから、すべての国境をまんべんなく守備できているわけではない。隣国との紛争の危機に常に向き合っている北部と西部が優先されており、割と平穏な南部は手薄になりがちだった。

 とりわけこのベルダ村は、国境線の一部があるにもかかわらずまったく軍隊が駐留していなかった。戦略的にいえばベルダ村は辺境伯領の中心部からは離れており、重要性は乏しかったとはいえる。


 ベルダ村と外部を隔てる国境線は、人間の背より高めの柵を並べたものだった。その外側から見えるように看板のようなものが建てられて、ここが国境で無断立入ができないことを警告している。その柵の範囲以外の部分は山や谷や河川で、もともと軍隊などが通るのは困難になっていた。


 *  *  *


 その日、武器を手にした人相の悪い20人ほどの男たちの集団が外からこの柵に近づいていた。

 リーダーらしき大柄の髭を生やした男が柵を見てにやりとしながら言う。

「警備兵も何もいねえじゃねえか。これで国境のつもりか?俺たちをなめてるのか。笑わせるな」


 回りの男たちもそれを聞いてげらげら笑い出した。

「このあたりはまったく無防備みたいだな。めぼしいものを略奪して、軍隊が来る前にさっさと引き上げようぜ」

「それがいいな」


男たちは飢えた野獣のような目で柵の向こう側を見つめた。

そして…

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