5-3 帰ってきた男
解放された捕虜たちのことが気になって、カイルが軍人たちに
「あの人たちはこれからどうなるんですか?」
と質問すると
「もちろん、いずれはそれぞれの故郷に戻すよ。ただ、まずは敵国に捕まっていたときのいろいろな情報を聞き出しておかないとな。貴重な情報源なんだから」
ということだった。
捕虜たちの中には、軍事や産業の情報を得ていた者もいたのである。
これらの情報から、帝国はかなり有益な知識を手に入れることができた。
それらの敵国から捕虜が持ち帰った情報の中で、とりわけ帝国の政府や軍の注目を集めたことが1つあった。それは、人獣戦士に関することだった。
この2年以上もの間、カイルとレータの人獣としての活躍は、敵国でもすっかり知れ渡り恐怖と警戒の対象になっていたが、敵も敵で、さすがにただ単に恐れているだけではなかった。
人間を改造して強化し戦わせる秘術を、何と敵国も同じように研究しているというのである。
魔法使いや文献学者等の専門家を集めて、ありとあらゆる実験を繰り返しているということだった。
今どの程度まで成果が上がっているのかはわからないが、人間だけでなく猿などの動物の改造もいろいろと試しているという。
この情報は政府や軍だけでなく、伯爵にも伝わった。伯爵は帝国で唯一、人獣戦士を作り出して自分の配下として従えている立場の要人だったから、この件は伯爵の立場をますます高めることにもつながっていた。
* * *
ともあれ、司令官は作戦終了を宣言した。カイルとレータのおかげで、短時間に想定以上の成果を上げることができた。
奇襲によるリベンジは大成功と言えた。
最初の海戦で勝った敵は、帝国側が何ヶ月もかけて大艦隊を編成し直してから再度攻撃してくるだろうと思って油断していたのである。
少人数の部隊がたった1艘の舟で夜中に斬り込んでくるなど、まったく予想もしていなかったのだ。
もはや帝国の部隊をずっとここに貼り付けておく必要もあまりなくなったので、状況を見ながら他の地域に展開させることになった。
カイルとレータは任務を解かれて、ベルダ村に帰って良いことになった。任務が終わると変身も解いて普段の姿に戻った。
2人が戻ってくると、村長たちは
「またまた大活躍だったそうだな。伯爵様もお喜びだろう」
と言って胸を張った。
「初めての海での戦いだった。敵も強くて、かなりピンチだったよ」
とカイルが言う。
「へえ。お前さんたちでもピンチになることがあったのか?人獣に変身したら無敵だと思ってたけど」
「船をやられて海に飛び込んで、そこに石をぶつけられたりして、大変だったの」
「お前さんたちはそれくらい平気じゃないのか。特にレータは不死身に見えるが」
「何言ってるの、私たちだって溺れたら死んじゃうよ!」
実際にピンチになったわけだが、今なら冗談で言える話題になっていた。
こうして2人は、また畑仕事をしたり家畜の面倒を見たり、子ども達と遊んだりする平穏な日々に戻っていった。
* * *
カイルとレータが戻ってきてからおよそ2週間後。村では新たな大騒ぎが起こった。
死んだと思われていた男が1人帰ってきたのである。
それは、あの人獣の秘術の犠牲になった4人の子どものうちの1人、フリーダの父親だった。
名前はパウル。6年前に娘のフリーダを残して商売のため夫婦で都市同盟に船で渡る途中、敵国に襲われて消息を絶っていた人物だった。
村ではパウル夫妻はとうに死んだものとして扱われていた。
そこでフリーダは孤児という扱いになり、孤児院に入れられて、後にカイルたちと一緒に人獣の秘術を受けさせられ、パウルが知らない間に命を落としたわけである。
パウルの話によれば、妻は敵国の捕虜にされてすぐに亡くなっていた。敵兵にどんなことをされたのか大体みんな想像はついた。
パウルだけ生き残り、いろいろな奴隷仕事をさせられながらあの島で生き延びて、今回偶然にもあの20人の捕虜の中の一員として救出されたのだった。
そんな過酷な状況の中でパウルの生きる支えになったのは、娘のフリーダに何としてでもまた会いたいという想いだった。
ともあれパウルは、先日の島の奇襲作戦の成功のおかげで、捕虜状態から救出されて帝国領の拠点に連れて来られた。
そして帝国軍による事情聴取も終わり、守備兵がちょうどベルダ村に連れてきたところだった。
パウルは、レータともカイルともお互いによく知った仲だった。とりわけカイルと仲良しのフリーダの父親だったのだから、カイルとは非常に親しかった。
ただ、島で救出されたあの時は夜の闇の中で大勢の中に紛れていたし、覆面をさせられていたので、パウルがいることはカイルにもレータにもわからなかった。
逆にパウルの方も、島に攻め込んできた人獣戦士がカイルとレータだということは当然、知らなかった。2人とも作戦中はずっと変身したままだったから、本来の顔をパウルに見せてはいない。
つまり2週間後の今になって初めて、お互いが島で顔を合わせていたことを知ったのである。
到着して村人たちに囲まれたパウルの姿が眼にはいると、カイルは思わず「パウルさん!」ではなく「フリーダのお父さん!」と声をかけた。かつてはそういう呼び方をしていたからだ。
声をかけてから、カイルは思わずはっとした。
「そうだ。フリーダは?フリーダ、フリーダはどこにいる?」
とパウルはしきりに言った。
周りの人間に尋ねるが、なぜか誰も答えようとしない。みんな顔を伏せて暗い表情を浮かべるばかりだった。
「どうしたんだ、フリーダは?」
といらだって声が荒くなる。
「パウル、ちょっと来てくれんか。いろいろと説明したい」
村長が声をかけた。




