5-2 奇襲
このままでは帝国軍は引き下がれない。果たしてどうするべきか。
こちらも大規模な艦隊を編成して再度出撃するという手がまず考えられるが、そうなると帝国の他の地域から艦船を集めてこなければならない。
だが他の地域が手薄になる危険があるし、そもそも時間がかかりすぎる。
その間に敵は防備をさらに強めていくだろう。すぐ実施できる効果的な攻撃方法はないだろうか。
司令官は考えに考え抜いて、奇策を使うことにした。
「もう一度、島に対する攻撃を行う」
と周囲に言った。
「では、艦船をよそから新たに回してもらいますか」
「敵は20隻ほどでこちらを迎え撃ちました。こっちも20か30は必要でしょうね」
「準備には何ヶ月もかかりますが…」
などと幕僚たちが言うと、司令官の答えはまったく違うものだった。
「艦隊は不要だ。何ヶ月も待つ必要はない」
「どういうことです?」
「今回は目立たないように、超少人数で攻撃する。敵の島に上陸して艦船や港湾施設を破壊し、さっさと引き上げてくる作戦だ。短時間で済ませる。スピード最優先だ」
「船は何隻くらいで行きましょうか」
「1艘で十分だ。10人程度が乗れてスピードを早くできるタイプなら、何でも構わない」
艦隊で島を占領するのとは真逆の、短時間だけの奇襲作戦というわけである。
作戦の打ち合わせをした後、優秀そうな兵士を選抜して10人の奇襲部隊のグループが編成された。この10人にカイルとレータが含まれていたのは言うまでもない。
奇襲はもちろん夜間に行うこととなった。
5日間ほどの間、10人のメンバーは徹底的な打ち合わせと予行訓練、イメージトレーニングを行った。
そして決行の日の夜になると、細長い小型の舟に乗ってみんなで漕ぎながら島に向かった。
もともと高速で進めるように設計された舟だが、変身しているカイルとレータが漕ぎ手に加わったので、かなりの速度ですいすい海の上を進んでいった。
というより、カイルとレータの力で速く舟を進められることが作戦の大前提だった。それほど今度は短期決戦に賭けていたのである。
前回は2人とも大型帆船に乗っているだけでほとんど活躍もできないまま終わってしまったが、今度こそは人獣戦士のパワーを活かすことができた。
「お前ら2人がいるおかげで、だいぶスピードが出せてるな」
と同乗した兵士たちも感嘆した。
島は帝国領から数キロ程度で、それほど離れているわけではない。
夜の間も人獣のカイルとレータは視力がきいて、かなり状況をよく見ることができたし、島の建物の明かりもかなり遠くから判別できた。
敵に気づかれないまま舟は島に接近していく。
夜の闇に紛れて港に入り、ついに一同は上陸した。この島の港の地理についてはあらかじめ説明を受けて何度もおさらいをしていたので、ある程度のイメージはみんな頭に入っていた。
あちこちにかがり火がたかれている。
奇襲隊長は言った。
「いいか。敵の船や施設にある程度のダメージを与えるのが目的だ。船の破壊目標は20隻程度をめどとする。ただし長居は無用だ」
10人は夜の闇の中を歩き、ちょうど放火や破壊活動をするのにふさわしい目標物を探し回った。船や建物ならいくらでも並んでいるが、さすがに全部破壊できるわけではない。
限られた時間で効率よく放火などができそうなところを決める必要がある。
歩き回っているうちに夜回りの敵兵数名に見つかったが、すぐに倒して黙らせた。
ちょうど良さそうな場所を決めて、停泊している艦船に次々に油をまいて火をつけていく。
これだけでも十分な損害を与えることができた。
さらに焼夷弾や火矢の材料になる可燃物の倉庫があったので、そこにも火を放つ。倉庫はものすごい勢いで爆発炎上していった。
気がついた数十名の敵兵たちが駆け寄ってくるが、こちらから矢を射かけられ、斬りつけられて次々に倒れていく。もちろんカイルとレータも爪や牙をフルに使って応戦していった。
燃え上がる炎の光の中にカイルとレータの姿を認めると、敵兵達は「人獣戦士だ!」「化け物がきたぞ!」と騒いで激しく動揺し始めた。
人獣戦士の存在は今やすっかり敵国内でも知れ渡り、恐怖のイメージに覆われていたのだ。
敵兵は混乱に陥り、30人ほどの死体を残して撤収していった。兵営に戻って人数を増やしてまた反撃してくるのかも知れない。
こちらは、カイルとレータはともかくとして、他はただの人間の兵士8名しかいない。大勢で反撃して来られたらさすがにまずい。
既に敵の艦船は15隻ほど焼き討ちで破壊できたので、成果としては悪くない。これ以上いても逆に危険だと思われた。
「よし!撤収だ」
奇襲隊長はそろそろ引き上げることにした。
そこに別な声が聞こえてきた。大勢の人間が走ってくる。
奇襲部隊のみんなは直ちに身構えた。
しかし駆け寄ってきた集団は、敵兵とは違っていた。何の武器も持っていないし、服装がえらく汚らしい。
「おーい、あんたら帝国兵か?」
「連れていってくれ」
「助けて」
それは20人ほどのみすぼらしい民間人らしい男たちだった。
なぜかみんな布の覆面みたいなのをかぶっていた。布袋に眼の穴だけが空いていて、首のあたりですぐには脱げないように紐できつく結ばれていた。
隊長は警戒しつつ尋ねる。
「お前たちは?」
「俺たちは帝国民だよ。帝国のあちこちの州の人間だ。みんな船旅の途中で敵に襲われて捕まってたんだ。こんなのかぶせられて、奴隷として働かされてた。」
「お前達以外には帝国民はいるか?」
「俺たちが知ってるのはこの20人だけだ。6年前、船を襲われて連れてこられて、いろんな仕事をやらされた。一緒にまとまって働かされていたんだよ。」
今の騒ぎでみんな、作業場の見張りの敵兵を殴り倒して飛び出してきたのだという。
グループの隊長は少し考えた。連れて帰りたいが、自分たちの小型の船にこの20人を乗せるのはもちろん無理である。かといって見捨てるわけにもいかない。
どうしたものか。
ある兵士が言った。
「使える船を盗んでいくのはどうでしょうか?」
確かに使える大型船がいくつも置かれて残っていた。
「それはいい考えだと思います。僕とレータが漕げば大きめの船でも何とかなるのでは?」
とカイルも意見する。
「よし、それでいくか」
こうして元の舟は捨てて、大型船を1つ盗んで兵士達と捕虜たちが乗り込んでいった。
変身したカイルとレータが力いっぱい懸命に漕いだので、帰りも船の進むスピードはそれなりに速かった。
帝国領の港に戻ってきて、一同は降りていく。
20人の解放捕虜たちはそのまま司令部に連れて行かれた。しばらく食事と休憩を与えられつつ帝国軍の事情聴取を受けることになった。




