4-4 それぞれの戦争
村に帰ってくると2人は英雄の帰還のような大歓迎を受けた。村人たちは大いに盛り上がって2人に賞賛の言葉を浴びせた。
「すごい手柄を立てたんだってな」
「無事で帰ってこれて良かった」
「人獣戦士なんだから、普通は無事に決まってるだろ。敵にやられるわけない」
「お前たちは村の誇りだよ」
戦場の敵とはいえ、カイルとレータは初めて人を殺してきた。それも、何人も。
そういう自分たちをみんなが村の誇りというのは、何ともおかしな話のように2人には思われた。
しかし考えてみると、村長をはじめとして戦争に行った経験のある村人はたくさんいる。当然、人を殺した経験がある者もいるはずだろう。
ということは、こういう悩みは何も自分たち2人だけではない…とも思えてきた。
2人はそれぞれ、村の大人たちの戦争についての体験談をいろいろと聞いてみたくなった。
まずカイルが村長のところに行った。
「村長、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。村長は戦争に行って戦ったことがあるんだよね」
「おう、あるぞ。何年も兵隊に行って、あちこちで勇敢に手柄を立てたもんだ。他国どころか魔族と戦ったことさえある」
「人を殺したことあるの?」
「ないわけがないだろう。人間も魔族も殺したことはあるぞ」
「ずいぶん普通に答えるんだね」
「戦争とは殺し合いだ。別に自慢してるわけじゃない。それが現実ってことだ。勘違いしないでくれ」
「レータみたいな女の子も戦ったりしたの?」
「レータはちょっと特別な立場だろ」
「確かにそうだったね。人獣戦士だから」
「まあそれはそれとして、女兵士とか女隊長みたいなのも時々はいるよ。だいたいの国ではな」
カイルは、亡くなったミリアが戦場で戦いたがっていたことを思い出した。あれは父親の影響だっただろうが、実際に女の軍人の例がないわけではなかった。
「そういう女の人たちはどうしてるの」
「どうしてるのって、普通に軍隊で戦って殺し合うんだよ。男も女もな。もちろん殺されたり、それ以外でも酷い目にあった女兵士もいた」
「酷い目って?」
「今はまだお前さんは知らない方がいい。いずれわかるようになる」
村長は意味ありげに言ったが、カイルも何となく今はそれ以上聞かない方がいいということを理解した。
そのままもとの話題を続ける。
「自分が殺されることもあるんだよね」
「当然だろ。戦争は、どっちが死んでも不思議はない。それどころか、どっちも死ぬこともある。お互い様、恨みっこなしだよ」
「僕の親は、戦争に行って戦ったことはなかったはずだよ」
「それはカイルの家がたまたまそうだっただけだろう。タイミングの問題だよ」
「レータの家はどうだったんだろ」
「ガリエル村は前々から敵国に接している場所だった。レータの親父さんも兵隊に行った経験はあるんじゃないか。レータにどこまで話ししてたかは知らんが」
ここで村長は真面目な表情になった。
「こっち側の軍隊が、逆に敵国の領土の方に攻め込んで、あっちの住民を殺すこともなかったわけではないぞ。
この辺境伯領でも、他の領主の土地でも、敵国に行って攻撃した経験はあるはずだ。
皇帝陛下はむやみに敵の住民に危害を加えるなと言っていると聞いたが、現場はそうそう上の言ったとおりに動くとも限らん」
「じゃあ、レータたちの家族みたいに敵に殺された住民が、他の国にもいるってことかな」
「そりゃいるだろうな。当たり前だ。変な言い方だが、いなかったら逆におかしい。戦争ってそういうもんなんだから」
カイルはあの少年兵を思い出した。あの少年兵も帝国側に家族を奪われて敵討ちのつもりで攻め込んできたのかも知れない。せめて何か話をしてみたかったと思う。
一方、レータはマルカおばさんに話を聞いた。
「マルカおばさん、話したいことがあるんだけどちょっといいかな」
「何だい、あらたまって。まずその前に薪を運ぶのを手伝ってくれるかな」
こんなふうにマルカおばさんはレータやカイルを見ると、雑用を手伝わせるのが普通になっていた。もちろんレータとカイルにとってもすっかり慣れっこである。
「…で、レータ、何の話なのさ」
「マルカおばさんの旦那さんは戦争で亡くなったんだよね」
「ああ、そうだよ。突然どうしたんだい。そんな話して。…あ、あんたたちも戦争に行ってきたばかりだったね」
「うん」
「マルカおばさん、敵の国の人間を憎んだ?」
「憎んだといえば憎んだけどね。私もやることやったからね」
「やることって?」
「昔、敵兵が何人も村に侵入してきたことがあってね」
「こんな離れた南の方にも敵兵が?」
「そう。帝国の意表を突くつもりだったんだろうね。少人数のグループが入り込んできたことがあったのさ」
「みんなどうしたの?怖くなかった?」
「で、私たちはそれを見つけて、やっつけたことがあったよ」
「え!?初めて聞いた」
「宣伝するような話じゃないからさ。知ってる人は知ってるけどね」
「マルカおばさんたち、よくやっつけられたね」
「地面に罠を仕掛けて刃物を植えておいて敵兵を落とさせたり、手作りの槍で突き刺したりしたもんだよ」
「え?そんなことやったの?」
「私も若い頃は戦闘訓練をいっぱい受けたんだよ。カイルやレータくらいの頃からね。でももっとすごい話を聞いたことがある」
「すごいって、どんな話?」
「西の隣のそのまた隣の村は、昔、敵国の軍隊に2ヶ月ほど占領されたことがある。うちの村と違って、敵国からすぐ来れる場所にあったからね」
「占領されるって大変でしょ」
「そりゃそうだよ。村人たちの家に敵国の兵隊を泊まらせて、ご飯もあげなきゃいけなかった。逆らったら殺されちゃうからね」
「それで?」
「そのうちある一軒の農家では火事が起こって、そこのおかみさんも、泊まってた敵国の兵隊何人かも、みんな焼け死んじゃったとさ」
「火事?悲惨だね」
「でも噂では、おかみさんがわざと家に火をつけたんじゃないかって」
「どうしてそんなことしたんだろう」
「そのおかみさん、息子が兵隊に行って敵国との戦いで死んだのさ。それでおかみさんは頭がおかしくなって、自分で家に油をまいて火をつけて、敵の兵隊も含めて一緒に死のうと思ったんじゃないかっていう話だ」
* * *
カイルとレータは、こんなふうに何人かの大人たちに戦争に関する体験の話を聞いてみた。
何かが納得できたとか解決したというわけでもないし、悲惨な体験の話もいろいろと聞かされたが、戦争に関わって誰かの命を奪ったのが自分たちだけというわけではないという当たり前のことは理解できた。
もちろん逆に命を奪われた人たちについての話も改めていろいろと聞くことになった。
そういうふうに話を聞いて回ることで、次第にカイルとレータの心は落ち着きを取り戻し、だんだんと元の日常の暮らしの中に戻っていった。
その一方で、戦争なんかやらずに済めばそれに越したことはない、という当たり前の感覚もますます強まっていった。
もちろん2人は、4人の友達の墓に行って報告をすることも忘れなかった。




