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カイルとレータ ~辺境伯領の人獣戦士~  作者: シンH
第4章 仕事の始まり
13/35

4-1 2人は村の子ども

挿絵(By みてみん)

 

 伯爵の館から4人の子どもの遺体を引き取ったベルダ村は、悲しみに包まれた。

 村長と司祭は伯爵の使者を通じて、事情についていろいろ細かい説明を受けた。しかし村人たちにどうやって納得させるかは別問題だった。


「何であんなかわいい子どもたちが死ななきゃいけなかったんだ」

「強い肉体になる魔法の術だって?それで子どもを死なせるって、何の意味があるの?」

「やるなら俺を使えばいいのに。俺は家族もいないし年取ってるし、何も失うもんはないよ。え、14歳じゃないとダメだって?」

 みんないろいろな思いを言い合った。


 4人とも教会の孤児院暮らしではあったけれど、村民たちにとってみれば実の家族も同然だった。大人も子どもも嘆き悲しみ、特にエリックとミリアと仲良しだったベアタは激しく泣いていた。

 みんなで盛大な葬儀をして4人を教会の墓地に入れた。


 だがそれとは別に、村長たち指導者はすぐにまた考えなければならないことがあった。


 言うまでもなく、4人より数日遅れて戻ってきたカイルとレータのことである。

 2人は毎日のように4人が葬られた教会の墓地に行き、4人に語りかけていた。


 まずは当然、心のケアが必要だった。

 友達を失い、さらに異形の姿に変身する力が備わったということで、精神が不安定になっているはずだ。このことに配慮しなければならない。

 ここは、日ごろから2人の面倒を見てきたマルカおばさんなどに任せた。


 もう一つ、村人たち全体の反応も考えなければならなかった。

 何しろカイルとレータは、人獣の変身をするようになったのだ。そんな2人の姿を村人たちがいきなり見たらどう思うだろうか。

 ある程度は説明を聞いていても、眼で見るのはまったく違う。人間は外見で判断するものだ。怪物扱いして忌み嫌い、孤立させてとんでもないことになりかねない。 

 2人が村でまともに生活できなくなってしまうのではないかという懸念すらあった。


 この点を非常に心配した村長と司祭は、村人たちの中でも特に信頼できる連中にまず説明し、カイルとレータ自身とも相談して対策を練ることにした。


 そして一同は考え抜いた結果、ある賭けに出た。

 中途半端に隠したり曖昧にしたりするのはまったく無理だった。これから2人の力を村、さらには辺境伯領全体のために堂々と使わせるというのが伯爵の方針だからだ。

 それなら村人達に最初からすべてオープンにして、人獣の変身を当たり前のこととして受け入れさせるのがベストだと考えた。


 村長と司祭が主導して、カイル、レータ、そしてこれらの信頼できる少数のメンバーだけで徹底的に内密の計画を立てて準備を進めた。


 そしてある日、村人たちは教会に呼び集められた。全員が建物には入りきれないので、その周りまで取り囲んだ状態になった。

  

 「一体なんだ、大事な説明があるって。」

 「村長さんと司祭さんが何か伝えるそうだ。」

 「孤児院の子が4人亡くなったよな。伯爵様のところでよくわからんことやらされて。そのことかな?」

 みんなあれこれ言い合いながら集まってきた。


 村長がまず口を開く。

 「みんな、これから話すことはとても大事なことだから、しっかり聞いてくれ。」


 一同が静まりかえると、村長はそのまま話を続ける。

 「先だって6人の子どもが伯爵様に呼ばれてモスヴァンに行ったよな。エリック、フリーダ、トマス、ミリア、カイル、レータだ。そしてカイルとレータだけが無事に帰ってきて、他の4人は亡くなった。」

「それは知ってるよ!」

「なんでだったかはよくわからんけど」

と数人が口々に叫んで全体にざわつき始めた。


「今日話すのは、そのことだ。そうなったわけを説明する。」

ここでまたみんな静かになった。

「伯爵様のところでやったのは、秘密の術だ。魔法使いのお医者の先生がきて、人間の力を強くする、不思議な術を6人にかけた。みんなを強くして、しっかり働いたり、戦で負けないようにするためだ。」


 静かに全員が集中して聴いているのを確かめてから、村長は話を続ける。

「残念だがその術には副作用があった。完全にはうまくいかないことがあった。それで6人のうち4人は失敗して、亡くなってしまった。これはもう説明したよな」

「確かに何だかそんな話は聞いた。それで?」

とみんなが言う。


 村長はここで一息ついて、付け加える。

「ここからが一番大切な話だ。カイルとレータだけ、術が成功したんだ。それで無事に帰ってきた。そういうことだ。」

「じゃあ何だ、カイルとレータはすごい力持ちにでもなったのかい?」

とどこかの主婦らしい声があがる。

「まあ、そういうことだ。詳しいことは今よくわかるように見せてやるから」


 村長が合図をすると、カイルとレータがその場に出てきた。

「どんな力が身についたのかといえば、それは獣のような力だ」

「ケモノの力って?なんだそりゃ」

「カイルとレータは、獣のような姿になり、すごい力を出せるようになった。もちろん普段は普通のままだ。いざという時だけ変身できるようになったんだ」


 ここでさすがに村人達はがやがや騒ぎ出した。

「ははは、そんなバカな」

「悪魔の力なのか?怖いこと言うなよ」

「獣になるって何だ」

「くだらん冗談はやめろ」

等、みんな好き勝手なことを言い始める。


 そこで今度は司祭が割ってはいる。

「みんな、静まりなさい。獣の力といっても、悪魔とは何の関係もない。これは神様もお認めになった力です。だからこそ、この教会で説明しているんですぞ」


 みんながまた静かになったのを確認してから、村長は叫んだ。

「カイルとレータが変身するところを、みんなしっかり見なさい。これは神のご加護だ。わしらのために変身するんだぞ。さあ、2人ともやって見せて」



挿絵(By みてみん)


 ここでカイルとレータは、徐々に変身していった。

 みんなの目の前には2メートルほどの2体の人獣の姿が現れた。

「おお!」「何だこれは?」「本当に獣になった!」などという驚愕の声が次々に上がる。


 どよめいてパニックに陥りそうになった村人達を前に、司祭が叫ぶ。

「静かに!ここは教会の中だ。騒いではならん。

よく見るのだ。教会の中で、神の眼の前で2人は変身した。これは神がお認めになっている証拠だ。しっかり見なされ」


 ここで司祭は、適当な経典の聖句を唱え始めた。2人はあらかじめ指示されたとおりに司祭の前にひざまずき、わざとらしいほど頭を低く垂れて礼儀正しい態度を見せる。


「もっと見るが良い。聖句を聴いて2人はひざまずき、謙虚な姿勢を見せているではないか。カイルもレータも、悪魔ではなく神に従っていることがわかるだろう?

 悪魔や妖怪の力だったら、教会で大人しくしているわけがない。つまりこれは神の力なのだ。

 姿は変わってもカイルはカイル、レータはレータだ。今までと何も変わらん」


 もちろん聖句に何かの効果があったわけではなく、単なる思いつきの演出だった。しかしこの演出のおかげで、一同は納得した雰囲気に包まれ始めた。


「司祭様がそうおっしゃるんなら」

「神様もお認めなんだな。」


 この後、カイルとレータは再び元の人間の姿に戻った。

 マルカおばさんたちがすぐにシーツみたいなのを2人にかけてやる。


「これでわかっただろう。カイルとレータは、すばらしい力を身につけたんだ。獣の姿を借りてすごい力を手に入れ、我々の村のために働いてくれるようになったのだ。

 でも、我々にとっては2人は大切な村全体の子ども、家族の一員に変わりはない。そして、いつもはこのとおり普通の姿だ。何もかもこれまでどおりだ。これからも2人をかわいがってやってくれ。

 力仕事をしてもらいたい時には、声をかけるのもいいだろう。敵兵や盗賊と戦うためにも獣の力は使える。

…今日集まってもらったのは、この話をするためだ。以上だ。」

 村長がもっともらしく締めくくりの説明をして村人達は解散した。


*  *  *


 村人全員を一気に集めるのは無理があるので、この集会を全体で3回やることになった。


 したたかな村長と司祭の、いわば狸親父コンビのアイデアによる賭けは成功した。教会の中で、いわば神の前で変身して見せたのが効果てきめんだったのだ。


 人獣は悪魔や妖怪の類いではなく、神の秩序に従った存在だと村人達は信じた。

司祭の誘導したとおり

「悪魔や妖怪なら、教会の中にいられるわけがない。教会の中にいるってことは、神様の味方の側だ」

とみんな考えたのだ。仮に変身して見せた場所が森や野原だったら全然違う反応だっただろう。


 村の子ども達には刺激が強すぎるので2人の変身は直接は見せず、親から言い聞かせることにした。


 みんなはあまりにも納得しすぎたおかげで、カイルとレータを怖がるどころか、逆に自分たちのためにその力を使おうという気になってしまった。


「あの獣の力は、神様がお授けになったんだ」

「神様がくれた力なら、みんなで使わなきゃバチがあたるぞ」


 2人は村長を通して力仕事の相談が持ち込まれるようになった。

 集落の前に転がっている邪魔な大きな岩を動かしてほしいとか、丸太の橋を直してほしいとか、相談は次第に増えていき、とうとう村長を通さず直接頼みに来る者も出てきた。


 人獣に変身した2人は、怖がられるどころかすっかり引っ張りだこの人気者になってしまった。


「変身すれば力持ちになるといっても、身体は1つだし時間に限りはあるからな。ほかの人間でもできるような雑用までやらせるんじゃないぞ。パンクしちまう」

 と村長がみんなに苦言を言うこともあったが、カイルとレータは進んで仕事を引き受けていった。


 変身して仕事に打ち込んでいる間は、余計なことを考えないでいられたし、何よりも変身した姿でみんなが普通に接してくれるのがうれしかったからだ。


 いつの間にかカイルとレータは、変身した姿でも完全に違和感なく村人の中に溶け込んだ存在になっていった。

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