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カイルとレータ ~辺境伯領の人獣戦士~  作者: シンH
第3章 人獣戦士誕生
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3-6 ハンスの手紙

挿絵(By みてみん)


 ハンスは夕食時間になっても家族の前に姿を見せず、その後も家のどこにも見当たらなかった。


 狩りにでも出かけて遅くなっているのかとか、散策に出てなじみの農家にでも泊まったのかとか、みんないろいろ考えたが、従者を連れてもいないし、愛馬はつながれたままである。

 そもそもハンスは非常に真面目な性格で、不規則な行動をするタイプではなかった。


 何か事故でもあったかと思って館の周辺を大勢で見て回ったが、川とか穴などのような危険な箇所もない。井戸に落ちたというわけでもなかった。

 その夜は結局どうにもならず、翌朝明るいうちにまた周辺を徹底的に探索することになった。


 使用人たちはいろいろと憶測を働かせる。

「森に散歩に行ってオオカミかクマにやられたんだろうか」

「しかしうちの敷地の森にそんなのが出たことなんかないはずだけど」


 中には口と性格が悪い連中もいて、こんな心ないことをひそひそと言ったりもしていた。

「まさかベルダ村のあの子ども2人が伯爵様を恨んで、お子様のハンス様を襲ったんじゃないだろうな」

「魔法の力で獣みたいに変身するようになっんだって?ならハンス様なんか一撃だよな…」

「村の子ども6人のうち4人が術に失敗して死んだんだろ?因果なことだ。恨まれても仕方ないよね。」

「でも、いくら何でもあの2人が勝手にハンス様の部屋に行ったら、あたしらにわかるだろ。それはないよ」

「だいたい2人はもうベルダ村に帰ってたよ。関係ねえよ」


 館の周辺でハンスが見つからなかったので、翌々日は館の中を調べてみることにした。

まさかどこかに隠れて何かしているのだろうか。伯爵の部屋から使用人部屋まで、また離れも含めてすべての部屋を見てみたがどこにもいない。

 後は地下室と屋根裏だけとなった。


 結局、伯爵の居室の真下の地下室からハンスは見つかった。

 既に息絶えていたが、なぜか服を着ておらず、特に外傷らしきものは見当たらなかった。

 それと同時に手紙が1つ、ハンスの遺体の横に置かれていた。さらに魔法用の小道具がいくつか見つかった。


 伯爵夫妻はハンスの手紙を読んだ。


* * *


親愛なる父上と母上へ


 この手紙を父上と母上が読んでいるということは、僕はもうこの世にいないでしょう。

 まず何よりも、愛する父上と母上に先立つ不孝をお許し下さい。


 ベルダ村から僕と同い年の人の子どもたちが館に来るという話は何となく聞いていました。

 玄関先で見かけた時、できれば話しかけてみたかったけれど、そういう暇もなかったのが残念でした。 

 身分や立場が違っても同じ歳の子とは話してみたいと思ったのです。僕の知らない世界をたくさん知っているでしょうから。


 その子ども達が何の用でここに来たのかは、誰も教えてくれませんでした。

 さらに父上がその子ども達と一緒に夕食を取るという話を聞いたときはとても驚きました。

 父上が平民の子どもたちを館に入れて、しかも家族とではなくその子どもたちと一緒に食事をするなんて非常に珍しいことだからです。

 せっかく14歳の子ども達がいるなら僕も同席したかったのですが、使用人に止められたのは覚えておいでだと思います。


 その直後、大広間には当面近づくなと執事に言われました。


 そうは言ってもその次の朝、気になってまたこっそり見に行ってしまいました。


 そうしたら、その大広間から子ども達が眠った状態で運び出されているのが眼にはいったのです。


 おまけに父上と魔法医師の話していることも盗み聞きして、どんなことがあったのか、そして父上が何をしようとしていたのか、すべて理解しました。


 僕に魔法について学ばせるため、父上はこの魔法医師に僕の家庭教師を任せ、これまでいろいろな魔法の知識を教えてくれましたよね。

 人獣の秘術の存在は前からもう知っていました。おかげで父上と魔法医師が何をしようとしていたのかも完全に理解しました。

 それだけでなく、父上と魔法医師がやったことを再現することも僕には可能だったのです。


 父上がなぜこんなことをやろうとしたのかはもちろんわかっています。

 この領土では、外敵の侵略、犯罪集団の跋扈などがいつも領民達を脅かしています。

 父上が心を痛めてきたのも当然です。兵力にも限りがある以上、すべての対策を完全にやることはできません。手薄になって被害を受ける地域が出ることも残念ながら避けられません。


 こういう現状を少しでも何とかして世の民を救おうと思って、父上は魔法医師と相談し、さらに帝都の研究施設にも連絡を取って、古代の禁断の秘法、人獣の術を実行しようとしたのですね。


 このためにベルダ村から14歳の孤児を6人連れてきたわけでしょう。しかし人獣の術は、謎が多い。 

 完全ではないどころか成功率が非常に低そうだということも、僕は知っています。

 犠牲になる者が出るかも知れない。それも覚悟のうえで父上は実行することにしたわけです。

 父上が平民の子ども6人といっしょに食事したのも、罪の意識からか、万一を考えて少しでも良い思い出を作ってあげたいと思ったからか、まあそういうところでしょう。


 僕が父上の立場だったとしても同じようなことを考えたかも知れません。


 この術に14歳の子どもが必要だというのは僕も知っていましたが、なぜ孤児院の子どもたちを父上は選んだのか、少し考えました。


 戦争などで家族を失うつらさ、領地を守る戦いの必要性、そういうことを人一倍わかってくれるから、というのが理由だとは思います。

 でも多分それだけではなかったでしょうね。孤児院の子なら、術が失敗して死んだとしても悲しむ家族がいないから、というのも理由だったのではありませんか?


 身も蓋もない話ですが、誰かを選ばなければならないなら、そういうことを考えて調整するのも為政者の勤めなのでしょう。


 繰り返しますが、そうせざるを得なかった父上の立場はよくわかります。わかるように僕は最初から育てられてきているのですから。

 でも、頭ではわかってもどうしても割り切れず、納得できないものが僕の心に残ったのです。


 そこで自分で自分を納得させるために、一番いい方法を考え出しました。

 それは、自分で自分にこの人獣の術をかけることです。


 魔法医師の話や書物から、やり方は前から完全に理解して覚えています。

 必要な薬や道具も、館にあるものですべて自分ですぐにそろえることができました。

 呪文の詠唱は自分で自分に対して行うことも可能でしょう。それくらいは調べてあります。


 6人の14歳の平民の子どもが命をかけて術を受け、4人は実際に犠牲になりました。

 同じ14歳の僕だけがぬくぬくと安全で豊かな生活をしながら傍観していて良いわけがありません。

 そんなことはやはり許されないと思うのです。僕も命をかけて術をやります。


 いつか僕が父上の後を継いだ時、今の父上と同じように、領民を何かの犠牲にしなければならない時が来るかも知れません。自分で命を危険にさらした経験をしておけば、その時に少しは世間に胸を張って、やるべきことをやれると思うのです。


 ご存じかと思いますが、術は暗い部屋でやる必要があります。魔法医師が使った離れの暗い部屋が一番適しているのですが、僕があそこまで行くと怪しまれるので、不便ですが地下室を使うことにしました。


 もし術が成功したら、万事問題はありません。この手紙は破棄して、自分の口で直接父上と母上に事情を説明するでしょう。人獣の力を身につけた領主の跡取り息子というのもなかなかいいではありませんか。


 でもこの手紙を読んでいるということは、術は失敗して僕は死んでいるのでしょうね。

 亡くなった4人の子どもとあの世で友達になろうと思います。

 伯爵の息子も同じことをやって死んだとなれば、あの4人もあきれつつ納得はしてくれるのではないでしょうか。

 僕はあの4人の名前も知りませんので、まず名前から聞かないといけませんね。


 母上、今まで僕を産んで大切に育てて下さって、本当にありがとうございました。

 勝手な考えで行動して命を縮めて申し訳ありません。でも、どうしても他の子どもに犠牲を強いて自分だけ安全でいることが許せなかったのです。

 どうかお許しください。


 あとナタリアには今はこのことを言わないで、普通に病気で死んだとでも言っておいてください。

 いつかは説明した方がいい時が来るとは思いますが、今はまだ早いでしょう。彼女が精神的に打撃を受けないように注意してあげてください。


 最後になりますがお二人ともどうか、いつまでもお元気でいらして下さい。


                                       ハンス


*  *  *


 手紙はここで終わっていた。伯爵夫妻が長年大切に教育してきただけあって、年齢の割には非常に大人びた文章だった。


 まもなく、「伯爵家のご令息が急病で亡くなった」ということが領内で発表された。


第3章 終わり

かなり長い第3章ですが、ここまでお読みくださりありがとうございました。

ここが作品前半のヤマ場のつもりです。

作品全体の原稿は一応書いてあるのですが、いろいろと手直しや追加をしているので、この後は1日1エピソードくらいで更新していこうかと思っています。

引き続きお楽しみください。

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