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間話11

 ここは下界と天界の間にあって、魂を選別する審判界(ハローソウル)

 死神(ワイ)の職場やねんけど、本来ならこの世界(インフィステリア)の中で天国行きか地獄行きか、生まれ変わりか……その程度を振り分けるだけで良かってん。


 まあ、それだけでも細々(こまごま)とした手続きやらなんやらあって、楽な仕事っちゅうわけでもなかったんやけどな。

 そこへ余計な仕事増やしてくれよったんが、我らがクソ創造神どもや。

 人間と魔族が増えすぎたんで、魂を他の世界に放逐してしまえっちゅう、三歳児並みの知能(すばらしいおかんがえ)のせいでワイら死神は過労死寸前や。


 死神として働いて、どれだけの年月を数えたんかなんてもうわからへん。

 そんなワイも、今の事態は前代未聞や。

 他の世界——異世界に魂を斡旋するとか……

 あんの創造神(ボンクラ)共、い《表示できない表現》たろか、ホンマに。


「ほう、ほう……えーと、あんさんらはアストリア王国の兵士で、王城の警備中に人類の敵である魔族(ノクタニス)の襲撃を受け、応戦するも三人まとめて魔族が放った“火炎魔法”に焼かれて戦死と……これで間違いありまへんか?」


 審判界・転生課の転生手続き申し込みコーナーとその待合室は今日もごった返しとった。

 ワイは自分が担当するテーブルで、死者について書かれた書類を片手に、その死者——対面に座る同じ造形の鎧を着た三人の若者に事実関係の確認を取った。

 

「ほな、これから異世界転生の手続き取りますさかい、まずはあちらの席で、この用紙に必要事項記入してきてくれます?」


 いつも通りのテンプレセリフで仕事を進めていこうとすると——


「待ってくれ」


 コイツは三人のうちの一人——マーカスっちゅう、この中でリーダー格の若者やったな。

 他の二人と比べて一回り体格が良い。

 資料によると、この三人は同じアストリア王国軍の小隊メンバーで、マーカスは小隊長って事になっとるな。


「どないしはりました?」

「城は……どうなった? 陛下や姫様は? 街もだ、俺たちがやられる前に、そっちも襲撃を受けたと聞いたが……」


 小隊長ってわりと下っ端なんやけどな、忠義とか情に厚い男みたいやな。

 ワイが居るこの“インフィステリア”っちゅう世界では、今、人類と魔族が覇権をめぐって血みどろの争いをしとる。

 そのおかげで、毎日沢山(ぎょうさん)の死者がこの審判界(ハローソウル)にやってくる。

 で、こいつらは創話神(シナリオライター)によるシナリオで、シナリオ中盤で起きた“魔族(ノクタニス)による人間の王国襲撃イベント”の犠牲者ってわけや。

 ワイのデスクの引き出しにあったシナリオ台本によると……

 魔族の王、いわゆる魔王に対抗しうる力を持つ勇者が、王国から遠く離れた土地に行っとるところへ魔族の軍勢が王国を襲撃する。

 ほんで、多数の犠牲者を出した上、王女が攫われてしまう。

 で、遅れて駆けつけた勇者が、なんか勇者をよー知らん奴から責められたり、ウジウジしたり、勇者の味方の少数派なポジションの奴に励まされて立ち直ったりして王女奪還へ動いていくと……

 まあ、そんな流れやったな。


 コラコラ、そこで(わろ)とる君、あかんで。

 創話神(シナリオライター)さんは、日々、一生懸命頑張ってシナリオ書いとるんや。

 どっかで見(テンプレ化)たような内容(したパティーン)でも、そこにはライターさんの、悩散らす業(のうちらすごう)という名の血と汗と涙が詰まっとるんや。

 暖かい目で見守るのがマナーってもんやで、ええな。


「安心しなはれ、あんさんらも含め犠牲者は多少出なはったけど、結局追い返されたそうや」

「そうか……」


 身を乗り出し気味やったマーカスが、椅子の背もたれに体を預けおった。

 安心半分、自分ら以外にも犠牲者が出て悲しさ半分といったところやな。


「まあ、王女様は攫われてしもうたけどな」


 ——しもうた、言わんでもええこと言ってもーた。


「全然ダメじゃねぇか! どうすんだ!」


 マーカス、掴みかかるのやめて、ワイにどうにかできる話やない。


「そ、そっちも安心しなはれ、勇者がちゃんと取り戻すさかい」

「なんで、そんな事わかるんだよ! 攫われて大丈夫なわけないだろ! 何されるか——」


 マーカス、ワイをガクンガクン揺らすのやめて。 

 人間と違うて肉体的ダメージとかないけど、気分ええもんやないから。


「大丈夫や、大人向けな奴やないさかい、無事に戻ってくるようなっとる」

「お、大人向け……?」

「とにかく五体満足、綺麗な体で帰ってくるさかい安心しなはれ」


 やっと、ワイを離してくれたマーカスが、椅子に座り直した。

 まだ納得はしとらんようやけど、落ち着いてもらわなどうしようもないわ。


「……僕たち、もう、死んじゃったんだね」


 そう呟いたのは、マーカスの部下のトビアスっちゅう平兵士や。

 兵士っちゅうには、ちょっと線が細い感じがするけどな。

 資料によると、マーカスと、もう一人とともに三人は元々幼馴染で仲が良かったみたいやの。

 トビアスは、やや控えめな性格、せやけどどんな時でもわりと冷静でいられるタイプとなっとる。

 見た目に反してタフな奴と、周囲は評価しとったらしい。

 とはいえ、死んでしもうたんはやはりショックみたいやな。


「こう言っても慰めにもならんかもやけど、死っちゅうのは誰にでも必ず訪れるもんや。人の生き方なんざ千差万別、たまたま若くして死んだから言うて落ち込む事ないで。これから転生して新たな人生歩めるさかい」


 こうやって転生予定者を励ますのも、死神(うちら)の仕事のうちやったりするんや。

 単純なお役所仕事だけやのうて、カウンセリングも兼ねとるねん。


「うん……ありがとう」


 こういうタイプは平気そうに見えて、意外と心に抱えとるもんが大きかったりするさかい、予断は許さへんけど……

 まあ、当面は大丈夫そうやな。


 そんで、さっきから黙りこくっとる三人目……これといって特徴のない見た目のヨハンっちゅう若者は……あ〜アカンわ、目が虚ろや。

 なんていうか、死んどる。

 いや、もう死んどるんやけど……とにかく死んどる。

 なんでこないな事になっとるんかいな……

 えーと、資料によるとヨハンは……こっちの二人と同じ村の出身やねんな。

 親は農民で、その三男坊。

 一つ年上のマーカスがひと足先にアスタリア王国の兵士となり、マーカスに誘われる形で同い年のトビアスとともに兵士になった。

 ほんで、兵士として厳しい訓練や任務をこなしながら、仕事が終わるとマーカス、トビアスと三人でしょっちゅう酒場に行っとったと。

 そこの酒場には看板娘がおって……あーなるほど。

 純情(ウブ)なやっちゃなー。

 で、コイツは殺られる直前に言ったセリフが、マーカスとトビアスの二人に向かって——


 「俺、この戦い乗り切ったらあの()に告白するんだ……」


 ——いや、あかんやろ。

 思いっきり古典的なフラグ(やつ)立ててしもとるやん。

 しかもこの後すぐ、何の(ひね)りもなくきっちり回収してしもうとるし……

 ともあれ、こいつはそん時、自分が死ぬとは微塵(1ミリ)も考えてなかったわけや。

 それでこの有様と……

 どないしたもんかなー。

 ……せや。

 ここはショック療法で行ってみよか。


「あー、ヨハン君」


 呼びかけると、ヨハンは呆然とした表情のまま、こちらに視線を向けた。

 よし、まだ意識はちゃんとあるな。


「酒場の看板娘ちゃんな。とっくの昔に騎士隊の隊長さんとデキとったんやで。君の感情はただの横恋慕や」


 死とは別の衝撃的な内容で気を()らしつつ、未練も断ち切るっちゅう完璧な作戦や。


「う……うぅ嘘だ! だって……だって……っ」


 おー、動揺しとる、動揺しとる。

 ま、これもあんさんを立ち直らせるためやさかい、堪忍したってや。


「あー、気になる女子とちょっと楽しく会話出来ただけで、“こいつ、俺に気がある”とか思い込むのは、思春期のモテない男子にありがちなやつやな。ただの勘違いやから、気をつけたほうがええで」


 ここでこうして一気に畳みかければ、ノー未練でフィニッシュや。

 死神歴ン百年のワイにかかれば、こないなもんお茶のこさいさいやでぇ。


「やめろよ! 知らないままの方が幸せだったろうが!」


「そうだよ! せっかく僕たちが言わない様にしてたのに!」


 いきなりマーカスとトビアスが怒りよった。

 ふーん、一丁前に親友のために怒りますってか?

 でもなぁ……

 君らは最初から知っとったって、資料に書いてあるで?

 ずーっと黙っとったんは、友人としてどうなん?


「いや、君らがもっと早いうちに教えてあげてたら、ここまでこじらす事ならんかったんちゃうん?」


 ……ハイ、そこ二人、目を逸らさない。

 君らも大概やからな。


「そんなこと……言えるわけねぇだろ」


「あなたは部外者だからそんな事言えるんだ……」


 二人とも、拗ねた子供みたいな事んなっとる。


「せやかて、真実を教えてあげるのも優しさのウチやで?」


 幼馴染ほどの間柄なら、わざわざ隠さんでもええやろ。

 なんで言わへんかったんや。


「あの()と目があっただけで『ヤッベ、目あっちゃった。うわー』とか言って、子供の頃みたいに無邪気にはしゃぎまくったりする奴に、なんて言えばいいんだよ!」


 ……まあ、確かにワイもそのシチュなら話切り出すのにすごい勇気いるわ。

 年長者(マーカス)の立場でも無理やったかー。


「この前なんて、お勘定の時にちょっと手が彼女の手に触れただけで顔真っ赤にしちゃって、その後も(うつむ)いたまま僕らが呼びかけてもろくに聞こえてなかったんだよ!? どうすりゃいいのさ!」


 乙女か!

 って、いかんいかん、ここは突っ込む場面やない。

 口に出さんかったワイ、セーフ。

 まあ……トビアス君も頑張ったな。

 すまんかった、ワイが間違うとったわ。

 しっかし、初心(うぶ)すぎんか、ヨハン?

 ああ、でも資料にも生まれてから兵士になって王都行くまで、女っ気ゼロって書いてあるわ。

 故郷の農村に、たまたま同年代の女子(おなご)が少なかったんがこの悲劇の元みたいやけど……

 あれ?

 ヨハン、さっきからやけに静かやない?

 一体どうし……あかん。

 ヨハン、床に突っ伏してしもとるやん。


「あっ……うん、分かったからやめたげて? もう、それ以上はやめておこう?」

 

 ワイの視線でヨハンの様子に気づいたらしい、マーカスとトビアスがあわててヨハンに駆け寄った。


「大丈夫か!? しっかりしろ、ヨハン!」

「ヨハン! ごめん、気づいた時すぐに教えるべきだったよ……」


 マーカスに抱き起こされたヨハンが掠れた声を絞り出した。


「もう……死にたい……」


 余計に悪化しとる……カウンセリング失敗やこれ。

 

「ゴメン……もう死んどるんよ、君」


 まあ……死を受け入れたっちゅう点では、ワイのショック療法は成功……やな。

 物事は前向きに考えなな、うん。

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