第十二話
「えっ? 最低でも四人!?」
探索会社の受付カウンターで、俺の声が響く。
周りにいた人が一瞬こちらを見るけど、気にしてる場合じゃない。
「あ、忘れてましたわ」
後ろへ視線を向けると、姫様がうっかりしてたとばかりに口に手を当てていた。
「ど、どういう事っすか?」
咄嗟に尋ねると、姫様は人差し指をほおに当てる仕草で「ええと……」と考えこんでしまった。
「そういえば、この国ではそのようなものがあったな」
魔王様も顎に手を当てて、何か思い出そうとしている様子だった。
「よければ、こちらでご説明いたしましょうか?」
そんな俺たちの様子を見て、受付のお姉さん(備考:狸型の獣人類で美人)が申し出てくれた。
「お願いいたしますわ」
姫様は一瞬もためらう事なく、さらっと丸投げした。
多分、めんどくさかったんだろうな……
受付のお姉さんは、手慣れた様子で“初心者説明用”と表紙に書かれたファイルを取り出し、開いた。
「迷宮にはランクがあるのはご存知ですよね。初心者の方が挑戦できるのは、一番簡単なベリーイージー、イージーとノーマルランクまでになります」
受付のお姉さんが、開いたファイルの図柄を指差しながら説明を始めた。
この辺は流石に俺でも知ってる。
うん、と頷いて説明の続きを待つ。
「このうち、ベリーイージーと、イージーには人数制限はありませんが、ノーマルランクから未踏破の方には最低人数として四人以上という制限がかかります」
受付のお姉さんが指し示した図には、分かりやすく探索者の絵で四人からは◯、三人以下は×で示されていた。
「制限……何で?」
そういえば、迷宮攻略動画見てる時に、人数なんて気にしたことなかったな。
「効率のためですね、三人以下で挑戦してもクリアはほぼ出来ないんですよ。それなのに何度も無闇に挑戦する方々が後を立たず、破産したりするケースが多発しまして。それで探索会社側の取り決めで四人以上という条件が決められたんですね」
パンフレットには『迷宮への挑戦は計画的に、無理のない範囲でお願いします』と書かれていた。
「なるほどなー、挑戦するにもお金かかるもんね」
まあ、ノーマルランクならそれほどかからないんだけど。
ちょうど親方からもらったお金で足りるし。
これで、クリア報酬がちゃんと得られたら何倍にもなって返ってくるんだから、探索者になりたがる人が多いのも頷ける。
「これはノーマル以上のランクでも適用されます。ただし、1つ上のランクで踏破できる様になると、低いランクでの最低人数制限は無くなります」
へー……踏破したら無くなる……
……無くなる?
「えっ? 無くなるっすか? なんで?」
問題があったから制限かけたんじゃなかったの?
「その人により高難度の迷宮を踏破する実力があると証明されるからですね。ある程度経験を積んだ探索者の方は、高いランクに挑戦するか、低いランクに少人数で挑戦するかという選択肢が出てくるわけです。主に費用や報酬の分配などで有利な方を選ぶ方が多いですね」
なるほどなー。
ちなみに、逆に四人以上なら何人でもいいのかっていうとそんなことはなかった。
受付のお姉さんによると、多い方の制限は迷宮側がかけてるらしくて、迷宮によってその人数が異なるそうだ。
大体、最大六人って所が多いらしい。
あと、魔王様はもっと上のランク踏破してるからいいんじゃね? って思ったんだけど、甘かった。
迷宮に挑戦するときは、チームメンバーの中で最低ランクの人に合わせるっていうルールになってるんだそうだ。
つまり、三人の中で一番らんくが低い俺に合わせないといけない。
なので、ノーマルランクに、しかも最低でも四人以上連れて行かないといけないってわけだ。
受付のお姉さん曰く——
「高ランクの人についていくことで、実力に不相応な迷宮攻略を行う行為が不正行為とみなされる事になったからです」
という事だった。
確かに、高ランクの人のコネだの伝手だのが無い人にとっては不平等な話だろうからな。
——その後。
受付のお姉さんから一通り説明してもらった俺たちは、一旦残り一人のメンバーをどうするか話し合う事にした。
探索会社の建物を出ると、道路を挟んだ向かい側には酒場兼食堂となっている店があった。
「いらっしゃいませー、何名様どぅぇ⁉︎ ……ですか?」
一瞬、魔王様を見て怯んだ店員さんに、三人と告げる。
ぎこちない動作ながら、店の中ほどにあるテーブル席へと案内してくれた。
「それで、どうしましょう? “仲介料”くらいなら私が出しましょうか?」
自然な動作で魔王様の隣に座った姫様が話を切り出す。
会社に頼むと、適正な人員を仲介してくれるけど、仲介料がかかっちゃうって話だった。
そんな余分なお金は持ってない。
「いえ、まずはこの食堂で仲間を探してみるっす」
この迷宮挑戦には、俺の修行も兼ねてるという一面もあるんだよな。
親方から極力自分の力でやってみろと言われたし。
魔王様も、その辺りを汲み取ってくれたのか、お金については何も言わなかった。
流石に、これくらいは頼っても良い気がするけど……
やっぱり、先にやれることはやっておきたい。
俺みたいなお金に余裕のない探索者は、こういった場所で仲間を探すのが定石だって、受付のお姉さんが言っていた。
「なら、私達はここで待ってますわ」
「うっす、じゃあいってき——えっ?」
「どうかされましたの?」
……あ、俺一人で行ってこいと。
そういうことっすか。
「……いえ、なんでもないっす。行ってきます〜」
そそくさと席を立って、辺りにめぼしい探索者がいないか見まわす。
後ろから姫様と魔王様の会話が聞こえてきた。
「ウィンドさん、このお店では“巨人殺し”という名前のパフェがオススメみたいですわよ……」
「十人前と書いてあるのだが……」
「一人で完食するとタダになると書いてありますわ」
「むう……」
なんでそんな物騒な名前のパフェなんぞ作った、とかよりも……
王族が揃いも揃って食費浮かせる事に興味持つなよとツッコミたい。
けど、そんなことしてる場合じゃない。
とりあえず、周囲には手の空いてそうな探索者が見当たらないので、移動するか。
……うーん。
みんな大体、二人以上で連れ立ってるな。
単独の人って居ないのかな?
「ええて、ええて。十分役割こなせとったで。依頼者の創話神さんからも好評やったわ」
割と広い店内をうろついていると、独特の訛りで喋る声が聞こえてきた。
ちょうど店の最奥の、角になってる場所のテーブルだった。
人もまばらな店内で、わざわざそんな場所に座るなんて、人目につかないようにしてますと言ってるようなものだ。
本来ならスルーしておく所なんだけど、つい気になって目を向けてしまった。
……あれ?
あの人って確か……
「ポイント表見てみ? これであんさんも晴れてゴールドランクや。来世で主人公ライフを思う存分楽しむとええ」
そのテーブルに居たのは、先ほど探索会社の武具ショップで会った、禿げた熊の獣人類の——あの“癖の強い”装備で店にクレーム入れてた人だった。
向かい合って座っているのは……子供?
いや違う、あれは小人類だ。
小さい子供みたいな格好だけど、あれで大人なんだよね。
まあ、たまにほんとに子供だって時があるけど。
確か、九歳ぐらいで外見の成長が止まるって話だったな。
けど、こんなところに居るんなら、多分大人のはず。
「ほな、お達者でー」
——!?
小人類の男の子——いや、男性がそう言うと、向かいに座っていたクレーマーだった人が光り出した。
「……えっ!?」
思わず声を上げてしまった。
小人類の男性がこちらに気づいて、こちらを見た。
シュイィィン
奇妙な音と共に、クレーマーだった人が消えた。
「ええ!? き、消え……」
狼狽える俺に向かって、にやけた顔を向けた小人類の男性が口を開いた。
「ジャストタイミングやな」
「——はぁ?」
小人類の男性が言ったことが一瞬理解できなかった。
俺に向かって言ってる?
どういうことだ?
立て続けに理解できないことが起きて、もはや呻くこともできない俺に、小人類の男性は告げるのだった。
「まあ、そんな怪訝な顔せんと。久しぶりやな、ヨハン君」
ヨハン君——
そう呼ばれた瞬間、俺の頭の中で何かが——忘れていた何かが呼び起こされていった。




