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間話9

魔王がやってくる一年ほど前——


「ノーワン殿、こちらでお待ちを、まもなく両陛下がいらっしゃいます」

「おう、わかった」


 ゴールドマーシュ城の接見室に通された俺は、遠慮なくソファに腰掛けた。

 ふと傍を見れば、布を被せた——台? の様なものがおいてあった。

 なんじゃありゃ、と眺めていると……


「国王陛下、王妃陛下の御成りです!」


 守衛の声が響いた。

 そんなに大声出さなくてもわかるっつーに。

 国王と王妃がゆっくりと、風格ある足取りで入ってきた。


「苦しゅうない、楽にしてくれノーワン」


 立ち上がって会釈をしようとする俺に、国王が片手をあげて制止してきた。


「そうさせてもらうぜ。久しぶりだなウェルホーム」


 俺はそう言うと、元々座っていたソファへ座り直す。


「久しぶりですね、ノーワン」

「ああ、パインも久しぶりだ。相変わらず元気そうだな」


 俺と国王(ウェルホーム)王妃(パイン)は、旧知の間柄ってやつだ。

 ウェルホームがまだ王子だった頃、パインがただの一般人だった頃からの、な。


「最近、また腕を上げたようではないか。私の耳にまでお主の評判が届いておるぞ」

「そいつは光栄だな。まあ職人が研鑽を止めんのは、人生終える時だけさ」

「頼もしいですわ。私も最近は品種改良に余念がありませんの」

「ああ、まさか“あんなもん”改良しちまうとはな。俺も度肝抜かされたぜ」


 他愛無い世間話でどこか安心するのは、年取ったせいかな。

 

「そういえば、また何か作っておるそうではないか」

「ああ、“カンガルー用抱っこ紐(ベビーキャリア)”か、最近の発明の中では、まあ上出来な方さ」


 ウェルホームが一瞬だけ固まったのを俺は見逃さなかった。


「それは、有袋類(カンガルー)に必要なのか……?」

「必要か否かじゃない、ロマンだ。お前もそろそろロマンの一つぐらい理解したらどうだ」

「そうですよ、あなた。素敵じゃありませんの」

「そ、そうなのか? お前がそう言うなら……」


 相変わらず女房にゃ弱えんだな、こいつは。

 人の目の前でいちゃつくなっつーの。

 なんて思いながらジト目で眺めていたら、我に帰った国王(ヤツ)がコホンと、咳払いをした。


「今日、お前に来てもらったのは他でもない。我が娘、ミレイディアのドレスを作って欲しいのだ」


 ここからが本題ってわけだ。

 さて、俺をわざわざ呼んだってことは、仕立て関連の話だと思うが——

 一体何が出てくるやら……


「こいつでな——」


 国王がそう言って、控えの兵士に視線で指示を出した。

 兵士が歩いた先にあるのは、俺が待たされている間からソファの少し横にあった、布を被せてある奇妙な台だ。

 兵士がバサッとその布を取った。


「……お前さん、こいつをどうやって手に入れた?」


 コイツは、たとえ一国の王だろうと、そうおいそれと手に入れられるシロモンじゃねぇぞ。


「ふむ……お前、この前あった武闘大会を覚えていないか?」

「ああ、ソルオリジン全土から選りすぐりの戦士を集めて、皇国で一番強いやつを決めようってやつだな……なるほどな」


 そうだ、国王(コイツ)、槍持たせたら滅法強いんだよな。

 とはいえ、まさかあの大会で優勝しちまうとは思わなかったが……


優勝(そっち)の方ばっか意識にあったせいで、優勝商品がなんなのかまではスルーしてたぜ。新聞とかに載ってたか?」

「いや、これは優勝商品ではない。大会の後、ミマキ様より直接下賜いただいたものだ」

「あの陽皇(ヒノオウ)陛下からか! すげーな、おい」


 星辰夜絹(アストラル・シルク)——

 絹を生み出すシルク・クロウラーが、極めて稀な条件を満たした時にのみ、生み出すことができる霊糸素材だ。

 同じ霊糸素材でも、霊質木綿(エーテル・コットン)とはものが違う。

 見た目の美しさもさることながら、魔力の保持性能が、文字通り“桁違い”だ。

 ぶっちゃけ、ドレス一着分で城が立つと言われているほど希少価値が高い。


「しかも、こいつぁ不純物無し(フローレス)か? 混じり物が見当たらねぇ……」

「ああ、二年前の七惑星直列の夜に採取されてものだそうだ」

「……国宝級じゃね?」

「ふはは、すごかろ?」


 くっそう、あからさまに自慢してやがる。

 まあ、それだけの事をやってのけたのは確かだが……


「それでだ、作れそうか?」

「お、おう……」

「なんだ、ビビっておるのか?」

「ちがわい! いいぜ、やってやる。一端の職人として、これ以上の(ほまれ)はねぇ!」


 ここで人生賭けねぇでいつ賭けるってんだ!


「さて、ノーワン」

「どした?」

「ミレイディアのドレスについてだが……」


 俺が息巻いていると、ウェルホームの奴が何やら神妙な顔で言ってきた。

 姫のドレスの仕様について、細かく注文してきやがった。

 そいつは技術的にも厳しいが、何より星辰夜絹(アストラル・シルク)のポテンシャルを存分に活かした——いや、活かす事にだけ専念させる仕様だった。

 なんてこった。

 これだと俺のロマンが入り込む余地が()ぇじゃねぇか……


「そんな装備(ロマン)で大丈夫か?」


 俺はたまらず訊いた。


「大丈夫だ、問題ない」


 即答かよ……

 だが、頭ん中でハイヤーセルフ(よくわかんないやつ)が言っている。

 “ここで引くべきじゃない”と……


「ウェルホーム」


 俺は改めて国王に向き直って言った。


「そんな装備(ロマン)で大丈夫か?」

「一番良い(まともな)のを頼む」


*  *  *


 やれやれ……国王(あいつ)は人の話を聞かねぇからなぁ……

 国王・王妃(あいつら)との接見を終えた後、王城の廊下を歩いていた。

 さて、弟子(ヒヨシマル)の奴を回収しねぇとな。

 ついこの前弟子にしたばかりで、まだ右も左もわからねぇからな。

 工房に置き去りにするわけにもいかなくて連れてきたんだが……


「ほ〜ら、ヒヨシマル〜、落としてはダメよ〜」

「アイアイサー!」


 弟子の名前が聞こえて、中庭の方に目をやると——

 お、なんだ姫様もいるじゃないか。

 緊張でカチンコチンに固まってたのが嘘みてぇにはしゃいでやがるな。

 ……まあ、それはいいとして、ありゃ一体なんだ?

 ヒヨシマルが広げた傘を回して、そこに姫がボールを——

 おお、ボールが傘の上で回っとる。


「すごいすごい、やればできるじゃありませんの!」

「見よう見まねでやっとります〜!」


 あいつ、意外と大道芸の才能あったりしてな……

 つーか、あれじゃ姫と友達っていうより、弟……犬……いや、猿回しと猿だな。

 あの様子なら国王(こぼんのう)が目くじら立てることもあるまい。

 なんせ世間じゃ、“皇国有数の武芸者であるゴールドマーシュ国王が、ちょっと引くレベルで子煩悩”って有名だからな。

 姫に近づく男には容赦しなさそうなのが、容易に想像できる。

 姫がそろそろ縁談話の一つもあってもいいはずなのに、そういった話が出てこない原因が国王(ヤツ)だってもっぱらの噂だからな。


「ヒヨシマルー! 帰るぞー」


 まあ、それも件のドレスが完成すれば、ある程度は解決するだろう。

 元々美人で評判の姫様だからな。

 極上のドレスなんぞ着込めば、世の男共が放っておかんだろう……

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