間話7 後編
『では、ルールの説明に入らせていただきますねー。こちらの迷宮は、フィールド対戦・タイムアタック型となっております。クリア条件は単純明快、ボスモンスターを倒せばオッケー! ただし、エリア中央にどっしり構えるボスに辿り着くまで、雑魚モンスターがわんさか湧いて妨害してくるゾ! もちろん、迷宮の名に違わず、フィールド地形も上へ行ったり下へ行ったり、迷いまくること間違いなし! 報酬はクリアタイムでランク分け! 内容は、あちらのパネルをご覧ください!』
ハイテンションな妖精の女の子がどこか上の方を指差す。
今になって気がついたが、そこは普通の洞窟の中みたいだった。
明るい照明で隈なく照らされてしまっている点を除けば、壁も床も剥き出しの岩肌だった。
入り口はどうやらちょっとした広間になっているようだ。
奥の方に大きな扉が見える。
探索者たちが見上げているのは大きな電子……いや魔法のパネルらしい。
「ちょっと一時停止するで。書かれとる内容見てみよか。ちゃんと、あんさんの使っとる言語に合わせとくさかい、読めるはずやで」
死神がスクリーンに手をかざすと、そのパネルが拡大された。
一応読める……えっと……
クリアタイム30分以内のSランクは、???の文字とシルエットだけ。
50分以内のAランクは、“精錬月光鋼のインゴット”90キログラム。
75分以内のBランクは、“レディッシュブラウ魔鉱石”300キログラム……
といった感じで、Cランク以降も鉱石関係の素材と思われるものがずらっと並んでいた。
「あんな風にな、探索者は迷宮をクリアすると、報酬として資源をもらえる様になっとんねん。まあ、迷宮ごとに内容が丸ごと変わるさかい、こんなんもあるって程度で見とくとええ。ちなみに報酬は同じ迷宮でも探索ごとにランダムで変わる」
死神が再び手を振ると、スクリーンの映像が再び動き出した。
『過去にはなんと、Sランク報酬であの伝説の金属、“アル・セイヴス鋼”が出たことがあるとかないとか! これはもうSランク取るしかないっしょー! 気合いはどうですか?! リーダーのアピアフィニッシュ選手!』
妖精の女の子が、リーダーと思われる犬?型の獣人類の男性にマイクを向けた。
『フッ、SランクもAランクも関係ねぇ! 俺たちの目標はただ一つ! クリアできるかどうかだぜ!』
リーダーの男性が不敵に笑い、カメラに向かって右手の親指を立てた。
『めっちゃ消極的なのに自信満々なコメント! ありがとうございました! それでは、探索者のみなさん、準備をお願いします!』
探索者たちが顔を見合わせ、お互いに頷きあった。
『『『『『『変身!!』』』』』』
探索者たちが叫び、光に包まれたかと思うと、それぞれが戦士や魔法使いと思われるような格好になった。
どこから出したんだ……?
「探索者が装着しとる装備は迷宮内でのみ使えるもんなんよ。そういう魔法やと覚えておけばええ。ちなみにあの変身な、一部の高位探索者やアイドル探索者なんかは、金かけて独自の掛け声にしたり、変身バンク制作したりするんやで」
……えっと……ちょっと待って、理解するのに時間がかかる。
そんなの作ってどうするんだ?
誰も見てないだろ?
「撮影しとるやろ、ほらここ」
死神がスクリーンの一部を指差すと、奥の方に小さく案内妖精とよく似た妖精が、カメラっぽい機材を探索者たちに向けているのが見えた。
「あれは、撮影妖精や、見ての通り、迷宮内の一部始終を撮影しとる」
それは一体何のために……?
「撮られた映像はな、後で編集妖精がきっちり映像作品に仕上げて出演者……もとい探索者に提供されるねん」
死神がスクリーンに手をかざすと、映像が切り替わった。
画面が二つに分かれ、片方は案内妖精と同じ様な妖精が、もう片方には探索者と思われる人物が机の上にあるモニターを見ている……
色や細かい形は違うけど、どう見てもパソコンだ、アレ。
「この世界にも、あんさんの世界で言うインターネットに当たるもんがあってな、編集された映像はオンラインストレージを通じて探索者に届けられるねん。そんで探索者はその映像を自分で問題ないかチェックしてからネット動画サイトに投稿する……で、映像がバズったらその探索者の収入になるねん。早い話があんさんの世界でいうユーチューバーって奴やな」
いやいやいや……
いきなり話が飛躍しちゃったぞ。
インターネットあるの?
オンラインストレージも?
文明進みすぎじゃない?
自分が知ってる“魔法の世界”とものすごく違うんですけど?
「あんさんに出来るのは考えることやない、受け入れることやで」
こっちの戸惑いを気にすることなく、死神が手を動かしてスクリーンの映像を元に戻した。
「さて、さっきの続きや」
『それではみなさん! いっきまっすよぉー! 3、2、1、スターットぉー!!』
案内妖精の掛け声とともに、広間の奥にあった扉が開いた。
探索者たちが一斉に駆け出し、扉を潜り抜けた。
そこはまさに屋外の野原だった。
青い空の元、少し先には小高い丘や森があちこちに見え、奥の方までは見渡せなくなっていた。
探索者たちはそのまま一直線にかけ出すかと思いきや、右に曲がってかけていった。
『おおっと! チーム・サンプルズ、迂回を選択だー! 初めてのくせに最もモンスターが多い正面を避けるこの動き、どう見ても予習してますねー。コイツら絶対、『迷宮踏破のコツは事前の情報収集だ』とか後輩にえらっそうに上から目線で言っちゃうタイプだー! 駄菓子屋菓子屋……じゃなかった、だがしかし! ハードランクの迷宮はそんな甘いもんじゃない! 早速洗礼がいくぜー!』
相変わらずハイテンションな案内妖精。
探索者たちが1つの丘の麓を回り込んで、カメラの視界から消えた。
カメラが上空から探索者を映そうと動いた瞬間——
ドォォオオオオン!!
と、大きな音と共に、探索者のリーダーとかいう男性が宙を舞った。
『アピアフィニッシュ選手! ふっとばされたー!!』
スクリーンが2つになり、片方は宙を舞う男性が、もう片方は男性が吹き飛ばされた場所と思われる地点を映している。
地面からボクシングのグローブをはめた腕みたいなものが生えていた。
どうやら、罠が作動したらしい。
空中でぐるぐる回っている男性を見ると、横に長い棒の様なものがついている。
棒は色分けされており、左側が黄色で右側が赤になっていた。
「あれはHPゲージや。ダメージ受けると赤の部分がどんどん増えていって、HPが0になると赤で塗りつぶされる」
それって、死んでしまうってこと?
「いや、死にはせんで。リタイヤとなってスタート地点に戻されるだけや。そんときHPは満タンに戻る。ただし、探索者全員の合計回数でHP0が数回起きると探索失敗になるねん。回数は迷宮ごとに変わるけど、ここやと3回みたいやな」
『リーダーが吹っ飛ばされて狼狽えるチーム・サンプルズ! 立ち止まってる場合じゃないぞー! ほら来た奇襲だー! チーキィ選手の額に矢が突き刺さった! これは……やっぱりダメだったー! チーキィ選手がスタート地点に戻されます! さあ! ピンチだ、チームサンプルズ! ここから体勢を立て直せるかー!?』
探索者の一人である小人類の女の子がパタっと倒れた。
HPゲージとやらが一気に真っ赤になって、姿が消えていった。
『こちらの右翼エリアは、モンスターは少ないけれど、その分凶悪なトラップ満載の難攻エリアとなっております! さあ、今、湧き出てきたモンスターがチーム・サンプルズに襲いかかる! 盾役のナックフォアウィザード選手が後衛の二人を庇うように前に立ってモンスターを牽制! リーダーにして物理攻撃役のアピアフィニッシュ選手が救援に駆けつけようと囲みの外からモンスターに仕掛けます……! が、モンスターを倒せない! ノーマルランクのそれとは訳がちがうゾ!』
どうやら、探索者たちはあっという間に劣勢になったらしい。
このまま失敗するのかな?
『おおっと、ここでようやく魔法攻撃役の出番だー! ハルドシッパ選手の火炎魔法が——モンスターを包み込んだー!」
獣人類の説明の時に、魔法を使うところは見せてもらったけど。
改めて見ると、やっぱりすごいな。
あっという間にモンスターの群れが焼かれていった。
「迷宮内でも魔法は外と同じように使えるねん。今、ウサギの獣人類のねーちゃんが使うた様にな。もちろんモンスターにも有効や」
死神が補足してくれた。
なるほどなー。
武器や防具なんかの装備は迷宮限定だけど、魔法の能力は違うってことか。
『これは、一気に形成逆転か!? 治療役のイナドヴァーテン選手の精霊が治癒の魔法を……おやぁ?』
精人類って、精霊という超自然的存在を使役して様々な秘術を使うんだったか。
簡単な説明だけで、まだ詳しく聞いてなかったな。
ん?
なんか様子がおかしい……
『ちょっと、精霊さーん! そっちはモンスターですよー!? ど、どうやらイナドヴァーテン選手、うっかり精霊の標的指示を間違えた模様! モンスターがどんどん回復していってます!』
えええ……
そんなのってあるの?
「あるでー。治療役でも駆け出しでメンタルの弱いやつとか、疲労が重なって集中力欠いとる時とか、むしろ治療役あるあるやでー」
案内妖精がハイテンションで喋ってるせいだろうか。
死神の解説は、トーンは変わってないのに、妙にやる気がない様に聞こえてしまう。
『ナックフォアウィザード選手が逝ったー! 回復なしの盾役なんて無理すぎだったー! トラップでHPを削られていたアピアフィニッシュ選手もあっさり倒され、これで合計3回リタイヤ! 迷宮攻略は失敗!! チーム・サンプルズの皆さん、お疲れ様でしたー!!』
回復して勢いを取り戻したモンスターの攻撃で、あっという間に一人、また一人とリタイヤとなった。
残った探索者たちの姿も消えていった。
スクリーンの映像が、最初の洞窟の中っぽい広間に戻った。
やさぐれた顔で舌打ちしてそうな感じの小人類の女の子。
呆然と遠くを眺めている様な顔の精人類の男性。
頭を抱えている獣人類の女性。
盾を持ってる体の大きな——巨人類(?)の男性は、特に変わった様子はなく……
リーダーの獣人類の男性は、四つん這いの格好で項垂れていた。
『そんなに落ち込むなってー! 初めてのランクで失敗なんて、あ・た・り・ま・え! ハードランク以上で最初から上手くいく探索者なんて、まず居ないから安心して! 映像は後日、ストレージに送られるから、反省会でもネタ動画としてアップロードでもなんでもしてね〜、それじゃあ、オ〜トトイキヤガレ〜!』
相変わらず元気いっぱいな案内妖精に励まされ、探索者たちがトボトボと洞窟の出口へと消えていった。
“おとといきやがれ”は見送りのセリフとしてどうなのか……
と、思っていると、『え!? あれって“また来てね”って意味じゃないの!?』という案内妖精の声をマイクが拾っていた。
なので、まあ、そういうことなんだろう……。
「ま、こんな感じでな。この世界では迷宮という名の“アトラクション“をクリアして資源を得とるねん」
とうとうアトラクションって言っちゃったよ死神。
どう見ても、遊んでる様にしか見えないんだけど、この世界大丈夫なの?
こんなのでよく成り立ってるな。
「そこは、あんさんにとっては異世界やからな。常識で考えたらアカンで」
……それはまあ……そうなんだろうけど。
死神の話がひと段落して、ふっと気が抜けた。
黄色い空と白い床が目に入る。
……まあ、楽しそうな世界ではあるかな。
何もない遠くを見ながら、なんとなくそう思った。




