番外編 その3 警察署での一幕
「お待たせしました〜。あなたが、ノーワン・ドンラーガさん? すごい爆発だったみたいですねぇ」
警察の奴ら、俺を取調べ室まで連れてきておいて、それから30分以上も放置しやがった。
やっと担当の警察官が来たかと思えば、開口一番、のんびりした口調でそんなこと言いやがった。
あー、なんかイラっとくるなー。もー。
「いやまあ、爆発しちまったのは確かだが……」
ため息混じりにそう返してやる。
相手は、くたびれたコートを羽織った中年の、虎型獣人の警察官。
それと付き添いなのか、若い犬型獣人の警察官が、俺とは別の机の座席に座っている。
あれは調書ってやつをとるためか。
テレビの刑事ドラマで見たのと同じ光景だ。
「いやー、ウチの女房さんがね、最近新しいクッキングヒーターを買ったんですけどね……」
なんで、いきなりオメーの女房の話がでて来んだよ!
どうでも良いわ!
ドロップキックでもかましてやろうか……いやいや、思いとどまれ俺。
相手は警察だ。
「これが最新式とやらでね、性能はいいんでしょうけどね、肝心の使い方がもうてんでワケわからなくて……」
両手を広げて、お手上げーってか?
ホント、どうでもいいから事情聴取をさっさと終わらせてくれよ。
こっちは色々忙しいんだってのに……
「はあ、そりゃあ大変ですな」
殴りたい衝動を抑えつつ、俺はほとんど棒読みに近い音程で相手をしてやる。
我ながら我慢強いと思う。
自分を褒めてやりたい。
「こないだなんて、仕事中に女房さんから電話がかかってきて、『カレー作ってたらおでんが出来ちゃった、どうしよう』とか言われちゃいましてね」
どうしようも、こうしようもねぇよ!
そりゃクッキングヒーターじゃなくてオメーの女房がおかしいんだよ!
「いやー、びっくりしましたねー、私が前の日に材料の買い出し行ったんですけどね、買ったはずのないおでんの具がしっかりと煮込まれてまして……」
「知るか! いいからさっさと聞く事聞いてくれよ! 忙しいんだよこっちは!」
とうとう我慢できなくなった俺は、机を叩きながらその警察官に怒鳴りつけた。
「あぁー、すいません、すぐ終わらせます……ところでおでんの具に“ばくだん”ってあるでしょ?」
ゆで卵を魚のすり身で包んだ奴な……って、どうでもいいわ!!
「あったがどうした! アンタはウチで起きた爆発の事を聞きたいんじゃないのか!!」
怒りが収まらねぇ。
一体、何なんだこの警察官は!
「いやー、ふつう“ばくだん”って言ったら爆発する方のやつ、思い浮かべるでしょ? 私、あなたの工房の話聞いた時にピンと来ましてね」
来んなよ! 確実に間違ってんじゃねーか!
「ピンと来たって……なにがだよ」
この後のセリフはわかりきっているが、一応聞いてみる。
「アナタ……爆弾隠し持ったりしてません?」
後ろで調書を取ってた奴が「何言ってんだ? コイツ?」って顔してる。
俺もそう思う。
心の底から。
「隠してねーよ! ただの服屋がなんで爆弾持ってんだよ! 人を勝手にテロリストにしてんじゃねーよ!」
「最近特殊な思想に感化されたとか、怪しい宗教に入ったなんて事は……」
「しつけーよ! そりゃ俺は確かに“変人”だけどなぁ! そんな危ねぇマネはしねえよ!」
……言ってからちょっと悲しくなった。
俺が、ほんのちょっとだけ変わっている人間なのはわかってるさ。
だけど、それを大げさな言い方で口にすると、心にクるものがあるな。
視界の片隅では、調書の記録つけてる奴が何度も頷きながら筆を走らせていた。
何、勝手に納得してやがんだコイツは。
「こりゃ失礼しました。あ、でもそうするとアレだな……」
中年の警察官は、頭の後ろをかきながらぼやく様にそう言った。
「……何だよ」
いきなり何を困ってやがんだ?
「爆発の原因が、私にはさっぱりわからなくなっちゃいました」
うすっっっぺらい推理力だな!
その見当違いの妄想のおかげで、無駄な時間と余計な労力を消費できたよ!
ありがとう!
「それじゃあ、この爆発の原因なんかをね。お聞きしてもよろしいですかね?」
今までのやりとりが全てなかったかの様にシレッと聞いてくる警察官に、俺の怒りは本日2度目の登頂に成功した。
「最初から普通に聞けよ! そーいう回りくどい聞き方は、“うっかり人殺しちゃったけど捕まりたくないから頑張って証拠隠滅しながら平静装ってるやつ”とかにやれよ!」
なんで隠すことも無いのに精神的動揺かけられなきゃならねぇんだよ。
いい加減にしてくれ。
「言っとくけど、隠すことなんか何もねーからな! あの爆発は、ウチに来た客が爆発したんだっつーの!」
段々息が切れて来た。体力が続かねぇ。
もう歳かな俺も。
「客が爆発? そりゃあり得ない。そこいらの魔法が暴発したってここまで吹き飛ぶなんてこたぁないでしょう。一体どんなお客さ……」
そこまで言いかけて、警察官が固まった。
「……ていうか、無事なんですか? そのお客さん」
急に真顔になりやがった
最初から最後まで、その真面目モードでお願いします。
マジで。
「そりゃ、獣人類が使う魔法でこんな大爆発起したら大変だけどな。爆発した奴は魔人類なんだよ。魔人類の中でも飛びきりアレな奴なんだよ」
「アレというと……」
「……魔王様だよ」
「……はぁ?」
「だから、魔王様だって言ってんの! ファーティルグラス魔王国の! アンタも、今この街に来てんの知ってんだろう!?」
気力を振り絞って叫ぶ。
もう、これで終わりにしてくれ。
「はぁ……で、その魔王様はどちらに?」
あっ、信じてねーなコイツ。
まだ俺のこと爆弾魔だと思ってやがるな。
つーか、魔王様が来てること知らねぇのか?
割と騒ぎになってたと思うんだけど、俺の思い違いか?
「俺の工房に居るよ。疑ってんなら論より証拠だ。ウチの工房、さっさと見てこい」
俺がそう言うと、調書を取っていた若い警察官が、年配の警察官に話しかけた。
「警部、ドンラーガ氏の言っていることは事実です。魔王様こと、ヴァイオルウインド陛下がドンラーガ氏を訪ねていらっしゃった模様です」
おう、若手の方がしっかりしてんじゃねーか。
さすが、小犬型の顔で警察官やってるだけのことはあるな。
……いや、顔は関係なかったわ、スマン。
「あらそうなの? こりゃまた失礼しました」
マジで知らねぇのかよ……
大丈夫か? この警察官。
あるいは、これもワザとかもしれねぇ。
どちらにしろ、付き合ってられるか。
「まあいい。これで分ったろう。もう帰るぞ」
もう、たくさんだ。
さっさと工房に帰ろう。
魔王様に爆発してもらったおかげで、服の材料の検討もついたしな。
早く制作に取り掛かりてぇってもんだ。
「あ、ちょっと待ってください」
立ちあがった所を呼び止められた。
「なんだよ、まだなんかあんのかよ」
もう不機嫌を隠す気もねぇ俺の返事を、軽く受け流して警察官は聞いてきた。
「あなた、伝説の職人と呼ばれてるみたいですが、一体どうやってミミズの靴下なんて作ったんです?」
コ・イ・ツ、この期に及んで聞かれたくない事を……
っていうか、なんも知らなそうな顔して、人の秘密の核心点いてくるなよ。
「企業秘密だ!」
俺は怒鳴るなり、警察官共が止めるのも聞かずにさっさと出た。
工房まで……歩くと30分はかかるな。
全く、今日はなんて日だ。




