悔い改めろ
「あなたと私は血筋上は姉妹かもしれない。でも……っ! 妹としてかわいがったことは、一度もないわ! 今までも、これからも……っ。仲良くなるなんて、絶対にあり得ない……!」
エクリーユがリシーロを、拒絶したからだ。
真紅の瞳に睨みつけられた妹は一瞬怯むが、我に変えるとすぐさま反論する。
「エクリーユはそれだけ酷いことを、私にしてきたの! 忘れたとは、言わせないわ……!」
「それとこれとは、話が別でしょ!? 私は姉様を、助けたくて……!」
「あなたと私が手を取り合う未来なんて、訪れるはずがないでしょう……!?」
何度手を差し伸べても振り払われては、このまま説得を続ける意味もないとようやく気づいたのだろう。
リシーロは鼻で笑い飛ばしたあと、負け惜しみを口にする。
「ふん……っ。せっかくわたしがとっておきの情報を、かわいそうな姉様へ教えてあげようと思ったのに!」
どんな状況であれ、エベレストよりも高いプライドを持つ妹はいつまで経っても高圧的な態度を取り続ける。
そんな彼女を哀れに思ったエクリーユは、冷たい瞳でリシーロをじっと見つめた。
「わたしの言うことを聞かなかったこと、せいぜい後悔するといいわ……!」
「――悔い改めるのは、君のほうだ」
そうこうしていると、騒ぎを聞きつけてリドディエがやってきた。
まさか彼が話に割って入ってくるなど思わず、エクリーユは驚愕で目を見開く。
「リドディエ様!?」
「遅くなった」
「これは、私たち姉妹の問題よ……! 陛下のお手を煩わせるわけには……!」
「いや。あの男に関係のある話なら、僕も当事者だ」
陛下はエクリーユを庇うように姉妹の間に割って入る。
するとリシーロは、ようやく話の分かる人がやってきたと安堵したのだろう。
彼女は再び、先ほどと同じ主張を繰り返した。
「リドディエ・ルーレンベル厶……! 姉様を、ムガルバイトに近づけないで!」
「君に言われるまでもない」
「なんですって?」
「すべてを把握した上での行動だ。あの男の異能がなんであるかについても、調べはついている」
「まさか、わざと……?」
「化けの皮が剥がれたようで、何よりだ」
彼の反応を目にした妹は、愕然とした様子で動きを止めた。
リドディエはその隙を見逃さない。
国王は成り行きを見守っていた騎士に、はっきりとした口調で命じた。
「この者を捕らえろ」
「な……っ。わたしは姉様のためを思って、教えてあげたのよ!? 拘束を受ける謂れは……!」
「たった一度の善行で、すべての罪が許されると思わないでくれ」
「そ、そんな……!」
彼女は四肢を拘束されたあと、現実を受け入れたくないと絶望したような顔をする。
そんな妹の反応を目にした陛下はリシーロに罪の重さを実感してもらうため、静かに言い放つ。
「君はエクリーユに、それだけのことをしたんだ。1人静かに、光の届かぬ場所で反省しろ」
「い、嫌よ……! 自由を奪われるなんて! それじゃ、あいつから逃げきた意味が……!」
美しい白髪を振り乱した少女は、この状況がいかに想定外なのかについて彼に向かって捲し立てる。
「わたしは白百合の君って、みんなからチヤホヤしてくれるほどの美貌を持っているのよ!? 罪人扱いされるくらいなら、あんたになんか会いに来なければよかった!」
彼女はこうしてここにやってきたのを後悔しているようで、姉に対する恨み言を力の限り絶叫した。
「地獄に落ちろ! あんたも、不幸になれ……!」
――先程まで、エクリーユの味方だと言わんばかりの態度はどこへやら。
再び姉に対して憎悪を迸らせた妹は、そんな捨て台詞を残してこの場をあとにした。
「リドディエ様……」
切羽詰まった彼女の様子に惑わされ、心を許していたなら――。
少女はきっと、後々本性を見せたリシーロから酷い目に遭わされていたかもしれない。
彼が駆けつけてくれたおかげで、救われたのだ。
(お礼を言わなければいけないと、わかっているはずなのに……)
どうしても、うまく声が出て来ない。
エクリーユは心を落ち着かせるため、婚約者から視線を外した。
「なぁん」
胸元で大人しくしている黒猫は、少女と目が合った瞬間に甘えた鳴き声を上げる。
(黒猫さんも不安に思う必要はないと、背中を押しているわ……)
小動物をじっと見つめていると、だんだん気持ちが落ち着いてきた。
エクリーユはゆっくりと顔を上げ、こちらの様子を伺う紫の瞳と視線を交わらせた。
「心配するな。もう二度と、あの女はエクリーユに近づけない」
「リドディエ、様……」
「もちろん、あの男もだ」
「わ、私は……っ」
もう不安に思う必要などないと語るリドディエに納得がいかず、エクリーユは声高らかに宣言する。
「リシーロの言葉になんて、惑わされないわ……!」
「ああ」
「ムガルバイト兄様にこちらが知らない顔があったとしても、構わない。私にはもう、関係のない話ですもの!」
己が兄を愛し、信頼していたのは過去の話だ。
今の自分にとって一番大切なのは、ムガルバイトではなくリドディエだった。
だからこそ――。
「私は何があっても、リドディエ様のそばにいたい……!」
「ああ」
現在も兄を想っていると勘違いされるのだけは嫌で声高らかに宣言すれば、彼は嬉しそうに優しく微笑んだ。
「んなぁ……」
その後、リドディエがエクリーユの細い身体を、優しく包み込む。
自分が邪魔者だと気づいた黒猫は、渋々少女の胸元からぴょんっと勢いよく飛び降りた。
「僕の隣にいることを許された女性は、君だけだ」
「リドディエ様……」
「愛している」
エクリーユは真紅の瞳から大粒の涙を流しながら、返事をする代わりに彼の唇へ口づけた。




