表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/40

3-7 亡霊の遺産(レガシー)

 ある日の午後、大天使(刑事)がアジトへ駆け込んできた。


 その顔はこれまでにないほど強張っており、緊急招集を受けたクアッドと八咫烏の実行部隊に緊張が走る。


 押収された高満のPCから、『プロジェクト・インフラストラクチャ・キラー』という物々しい名の暗号化ファイルが発見されたというのだ。


「白夜の残党がこのファイルを狙い、警察の証拠保管庫やクラウドサーバーへ激しいサイバー攻撃を仕掛けてきている」


 大天使の報告を受け、直ちに防衛体制が敷かれた。


 クアッドに与えられた任務は、ファイルの暗号解除と、万が一に備えたワクチンソフトの開発だ。


 誠司たちが解析に着手すると、バイナリデータのヘッダには「電力、水道、信号機」の制御プロトコルを強制書き換えする記述が並んでいた。


「高満の奴、まさか国家インフラのバックドアを完成させていたのか……?」


 誠司の戦慄に、篤史は「最後の悪あがきか」と顔を歪め、優希は「スケールが大きすぎて想像もつかない」と息を呑んだ。


 一方、EMIとSEIJIの二つのAIは、Wi-Fiを介して高速なパケット交換を行い、何かを精査するように沈黙を保っていた。


 ◆


 その頃、白夜側は天地をひっくり返したような騒ぎとなっていた。


 発端は、高満の遺した山荘の隠し日記だ。


 そこには『俺が本気を出せば日本が終わる』という独白と共に、究極のサイバー兵器の存在が記されていた。


 白夜はこれを信じ込み、組織の命運を賭けて精鋭部隊を動かした。


「あのオーガが遺した至宝だ。

 奪還に失敗した者は、消せ」


 冷酷な命令が下り、工作員たちが夜の街へと散る。


 ◆


 誠司は大天使に提案した。


「敵を騙すにはまず味方から。

 警察のクラウドにある本物は削除し、ダミーと入れ替えよう。

 事実を知るのは俺たち少数だけでいい。

 八咫烏の部隊には全力で防衛をさせ、白夜に『本物がある』と信じ込ませるんだ」


 そのダミー作成と攪乱工作の担当に、誠司は優希を指名した。


「リトル・フォックス。

 思う存分、暴れてきなさい」


「うん、僕、とびっきりのトラップを仕掛けてあげる!」


 優希はやる気に満ちた表情で、キーボードを叩き始めた。


 ◆


 白夜の回収部隊が物理・電子の両面から強襲を開始した。


 データセンター外では激しい銃撃戦が繰り広げられ、サイバー空間ではWAF(ウェブ・アプリケーション・ファイアウォール)を巡る攻防が加熱する。


 ここで優希の本領が発揮された。


 彼女が仕掛けたのは、古のジョーク規格を駆使した嫌がらせの嵐だった。


 攻撃側のパケットに対し、RFC 2324「エターナル・ティーポット」を返して「418 I'm a teapot(私はティーポットです。コーヒーは淹れられません)」というエラーで画面を埋め尽くす。


 さらにRFC 1149「鳥類キャリアによるIPデータグラム」を強制発動させ、「パケットを運ぶ鳩が見つかりません。鳥の餌をセットしてください」という物理的なエラーを表示させて通信を遮断した。


 白夜のハッカーたちは「なんだこのふざけた防御は!」と混乱の渦に叩き落とされる。


 ◆


 証拠保管庫でも激戦が続いていた。


 自衛隊への援護要請が検討されるほどの苛烈な銃撃戦の最中、誠司はついに暗号化ファイルの展開に成功した。


 だが、そのソースコードを数行読み進めた瞬間、誠司を襲ったのはとてつもない脱力感だった。


「……ハハッ、なんだこれ」


 誠司が力なく笑い出したのを見て、篤史と大天使が顔を寄せる。


「どうした、誠司」


「……ただのゴミだ」


「はあ?」


「コードの正体は、数年前の教科書のサンプルコードを切り貼りしただけの代物だ。

 特定の信号機を『ピンク』に変えようとしてエラーで止まるバグだらけの構文。

 唯一動きそうなのは、電力メーターのフォントをアニメ調に変えるだけの無意味な機能。

 ……あいつ、名前だけ立派に付けて、中身はただの『ハッカーごっこ』のゴミ箱だったんだ」


 そこへ、解析を終えたEMIとSEIJIが加わる。


『パパ、私達も同じ結論よ。

 リソースの無駄だったわ』


『ドクター、高満はネットで見つけたサンプルコードを見て「これさえあれば」と笑っていただけです。

 彼は本物のスクリプト・キディでした』


 優希が呆れ顔で戻ってきた。


「白夜の人たち、あんなゴミのために命懸けで戦ってたの? バカじゃないの?」


 現場では今も一進一退の攻防が続いている。


 誠司は苦笑しながら、大天使に「落としどころ」を告げた。


「証拠保管庫のダミーPCをあえて奪わせるか、会見で『実態はゴミだった』と発表して白夜の面目を丸潰れにするか……後者の方が、彼らには致命傷だろうな」


 ――後日。


 警察の記者会見により、高満の遺したツールの無価値さが世間に公表された。


 白夜側は、何の価値もないゴミクズのために精鋭部隊を消耗させ、多くの逮捕者を出したという屈辱的な事実に打ちのめされた。


「……高満め。

 死してなお、我らを舐めくさりおって」


 白夜の幹部が吐き捨てたその言葉こそが、この「亡霊の遺産」がもたらした唯一の本物の被害だったのかもしれない。

 もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、下記の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援をいただけると、執筆の大きな励みになります!


 皆様の応援が、物語を完結まで導く力になります。

  よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ