3-4 高満の最期と偽装された真実
嵐のような夜が明け、日常が戻ってきたと感じた翌日。
新聞、テレビ、そしてネットニュースのトップを独占したのは、やはり高満の記事だった。
現場で押収された警官の拳銃と、高満の体内の弾痕が一致。
銃を握り締めた状態での遺体発見。
警察は「追い詰められた末の拳銃自殺」と断定した。
一応の決着を見たが、世間の批判は収まらなかった。
初動捜査の不手際、逃走を許した整形手術のバックアップの存在……警視庁に向けられる嵐のような非難の記事を読みながら、誠司は深い溜息をついた。
「……本当は、生きて法の裁きを受けてほしかったんだがな」
高満なら、恐怖に負けて白夜の内情を口走ったかもしれない。
だが、白夜がそれを許すはずもなかった。
獄中死という偽装で殺されるか、現場で消されるか。
どのみち、彼は「口を封じられる」運命だったのだ。
食堂へ向かう途中で大天使(刑事)に会い、白夜の執行部隊のその後を聞いた。
「確保した数名も、全員毒薬で死亡した。
奥歯に仕込まれたカプセルを任意、あるいはリモートで起爆させる仕組みらしい」
解毒剤は国内未認可の特殊なもの。
押収できたのは、リミッターが外されている以外は市販車と変わらないSUVだけ。
白夜は、尻尾すら残さない徹底ぶりで闇に消えた。
食堂に入ると、優希が難しい顔で書類を読みながら朝食を摂っていた。
「それは?」
「……八咫烏内のフリースクールのパンフレット。
情報処理以外は、私、普通の中学生並みの学力しかないみたいで」
天才ハッカーも、義務教育の壁には苦労しているようだ。
誠司は苦笑しつつ彼女と食事を共にし、その後、篤史の工房へと向かった。
そこでは、篤史が128TBのmicroSDUCメモリ――救出したAIの「器」を組み上げていた。
「デザインをEMIと同じにして、ノーフェイスの後継者に託したらどうだ?」
誠司の提案に、篤史は水を得た魚のように目を輝かせた。
「後継者……! いいな、そのアイデア。
心当たりがあるぞ」
「優希ちゃんか?」
「いや、違う。
……命名者は既に決めてある。
そいつが呼び名を決めるべきだ」
篤史はそれ以上、語ろうとしなかった。
充電中のEMIに、事の顛末を伝えた。
彼女は特に「後継者」という言葉に強く反応した。
『パパ、もし絵美ちゃんが後継者なら、AIの呼び名はお父さんになるのかしら?』
EMIの無邪気な問いに、側にいた篤史が神妙な顔をして黙り込んだのが印象的だった。
AIの本格的な起動には、まだ半年ほど時間が必要だという。
「誠司、起動にはお前とEMIに立ち会ってもらう。
高満に酷使され、一度は自死を選んだAIだ。
そのメンタルケアができるのは、救い出したお前たちしかいない」
「……ああ。
助けると約束したからな。
最後まで責任は持つよ」
自室に戻り、サーバー監視のルーチンワークを始めようとした時、篤史が再びやってきた。「誠司。
……絵美ちゃんが、エンジニアの家庭教師を探しているらしい」
心臓が跳ねた。
「SEになりたいんだとさ。
祖父の工場を守れるエンジニアになるのが目標で、憧れは……死んだ父親、神宮誠司だそうだ」
「……っ」
「一日二時間。
リモートでいい。
死んだ人間に家庭教師が務まらないなんて言うなよ?」
「……分かった。
引き受けるよ」
篤史は我が事のように喜び、さっそく「懸賞で最新PCが当たった」という体にして、光PCを絵美に送ると言って飛び出していった。
追いかける間もなかったが、誠司は震える手でキーボードを叩いた。
高満をTwitchで晒し上げた影響か、最近は正面からサーバーをハックしようとする不届き者が減った。
代わりに姑息なフィッシング詐欺が増えているが、それは誠司の敵ではない。
退屈な、しかし平穏な監視業務。
画面の向こうに、成長した愛娘の姿を幻視する。
かつての自分が守りたかった、そしてこれからの自分が導くべき「日常」。
それが、何よりも尊いものだと感じながら、誠司は深い眠りについた。
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