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3-3 真夜中のカーチェイスとビターコーヒー

 白夜のワゴン車が、急停止した高満の車を囲むように停車した。


 直後、深夜の高速道路に乾いた銃声が一回、響き渡った。


 篤史がサイドミラーを凝視しながら、低く呟く。


「……終わったな、誠司」


「ああ。

 ……俺たちの仕事は、ここで終わりだ」


 ミラー越しに、高満の車を取り囲む黒い影が見える。


 高満の断末魔は、走り去るインテグラの排気音にかき消されて消えた。


 だが、安堵の時間はなかった。


 高満の死を確認したSUVの群れが、獲物を変えてこちらへと加速してきたのだ。


「EMI、オービスとN・Tシステムの無効化を『俺たちだけに』適用できないか?

 追っ手のSUVはそのままにしておけ」


『了解、パパ。

 ……あいつらだけ「証拠」をばら撒かせてあげるわ』


「交通機動隊に任せるってこと?」


 優希が不安げに尋ねる。


「ああ。

 ……ここからは警察の仕事だ。

 EMI、大天使(刑事)への連絡は?」


『完了済みよ。

 三十分後、指定座標で接触。

 相手は「悪質な煽り運転の現行犯」として御用となる手はずよ』


「聞いたか篤史、あと三十分だ。

 凌げるか?」


「任せておけと言いたいところだが、数が多い。

 誠司、優希ちゃん、奴らのECUをハックして足止めしろ!」


「やってみよう」「任せて!」


 二人のハッカーがキーボードを叩く。


 五分後、先行する一台の出力を強制制限し、時速四十キロまで落とすことに成功した。


 だが、残りは六台。


『パパ、私のリソースをそっちに割く?』


「いや、EMIは広域偽装に専念してくれ。

 これ以上の負荷はかけられない。

 自力で何とかする」


 手に汗握る攻防が続く。


 接触予定まであと五分。


 その時、執拗に追ってきた最後の一台が、前方の赤い回転灯を検知してか、急旋回してUターンしていった。


 前方から、数台のパトカーがサイレンを鳴らして近づいてくる。


「助かったのか……?」


「そうみたいね。

 でも、油断はできないわ」


『警察の無線を傍受。「白い車両を保護、追跡中のSUV群を危険運転致死傷未遂で確保せよ」とのことよ。

 パパ』


「篤史、スピードを落とせ。

 ……もう大丈夫だ」


 誠司は、熱を帯びたEMIのサングラスを外した。


 フルフェイスの状態では警察に怪しまれるからだ。


 設定はこうだ。


「父(誠司)と娘(優希)を、友人の篤史が静岡の実家まで送る途中、見知らぬSUV集団に執拗な煽り運転を受けた」


 駆け寄ってきた高速機動隊員に対し、三人は設定通りの芝居を打った。


「生きた心地がしなかった」と震える優希の演技は完璧だった。


 EMIが事前に「都合の悪い部分」を消去・加工したドライブレコーダーのデータを証拠として提出すると、警官たちはSUVを追うべく慌ただしく持ち場へ戻っていった。


 入れ替わりで、一台の覆面パトカーから大天使(刑事)が現れる。


「やあ、間一髪だったね。

 ……ご苦労さん。

 この先にPAがある、そこで少し休んでいくといい」


 言われるまま、三人はパーキングエリアに車を止めた。


「……終わったんだよな?」


 篤史が、エンジンを切った静寂の中でポツリと言った。


「ああ。終わった」


「何だか、安心したら喉が渇いちゃったわね」


 優希の言葉に、誠司が苦笑いして車を降りた。


「そうだな。

 ……コーヒーを奢るよ。

 流石に祝杯をあげるわけにはいかないからな。

 篤史をパトカーの世話にするわけにはいかない」


「ハハッ、そいつは助かる。

 ……じゃあ、ブラックを頼む。

 飛び切りビターな奴を。

 今夜はこれくらい苦くないと、目が冴えちまって眠れそうにねえ」


「優希ちゃんは甘いのだったな?」


「……ううん、私も今日はビターで」


 誠司は自販機のボタンを三つ押した。


 ガコン、ガコン、と無機質な音を立てて落ちる三つの缶。


 立ち上る湯気を吸い込み、一口すする。


 三人は顔を見合わせて、思わず苦笑いした。


「……苦っ! なんだこれ、泥水か?」


「……ああ。

 だが、悪くない味だ」


 優希は渋い顔をして、何も言わずその苦さを噛み締めている。


 東の空がわずかに白み始め、夜明けが近いことを告げていた。


 アスファルトに伸びる三人の影が長く重なり、ようやく「日常」が戻ってきたのだと、誠司は実感した。

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