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ネコミミよ、この世界のしるべとなれ  作者: 金子ふみよ
第三章

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推論、とはいえはかりかねている

「とするとそのビクチャーというのは、ネコミミの適応者を探すために人を拉致したと? てかさ、そういう情報はもっと前に言ってもらわないと、伏線が甘いとか弱いとか言われるんだから」

「フク? ……まあ、いいや。あくまで推論だ。ビクチャーが本心で何を考えているか考えていたかなんて、この国にはいないさ」

 春日大が唐突に浮上した下手人と思しき元隊長様の人となりや当時の状況を聞いてみれば、まさに頭脳明晰の騎士と見て間違いない。静かな食堂には、現在の治安維持部隊の部隊長もいる。その顔は渋くなった。

「彼はビクチャーから武闘のいろはから部隊の作戦指示まで指導を受けていたのだ。他にもそういう人間はたくさんいるが、彼はビクチャーに敬意すら抱いていたからな。ビクチャーがいなくなった後は気落ちしていたが、自分が継承者としてまとめるのだと決意も新たに部隊を統率していたのだ。だから、今になって消息の手掛かりが出て来たと思ったら、まるで敵として暗躍していたともなれば彼の衝撃は小さくはないだろう」

 現ネコミミ部隊は憔悴の治安部隊長をねぎらう。とはいえ、ビクチャーなる人が暗躍していたとしても、誰一人として否定どころか異議申し立てさえしない点からすると、まだ論拠に乏しい推論や仮説レベルでさえ、さもありなんと納得できる言動があったと思われる。

「あのさ、なぜ大臣はあの姿になっていたんだ?」

 春日大から提示された疑問は、実は誰からも解答を求めているとは思われなかった。

「それは……ん? いや、むしろダイはなぜそんなことを言い出すんだ?」

「ネコミミの模造が成功しているか失敗しているかは今のところ置いておく。必要なのはあの姿を大臣がしていた、という点にある」

「何を言っているんだ? なぜ、そんなことが必要なのだ? ビクチャーにとってはネコミミ作成の実験過程で大臣を拉致し、私たちを動揺させるのが目的なのだ」

「だとしたら、ずいぶんお粗末な元部隊長さんと言うことになる。だが、聞けばかの人は随分思慮深い」

「だからこそ自分は身を潜めて実験を続けていたのではないか」

「それは確かにそうだ。だが、ネコミミ部隊が現在の形態でなければ負けていたかもしれないほど強い相手だったんだぞ。それが成功なのかまだ実験中の完成形には至ってないとしても、大臣へと浄化できると踏んだんだろう」

「無茶苦茶じゃないか。まったく筋が通ってないぞ。実験ならば完成しないことには全く意味がないじゃないか」

「そうさ。だから目的が違うんだ」

「目的が違う?」

「ああ、ビクチャーの目的は彼が関与していることを勘づかせるためだ、おそらく」

 カトゥンが困惑しながら問うているのを、春日大はあっさりとしていた。デイザンもイングロードも室長でさえも眉をひそめた。ウキヨは表情を変えずに横目で春日大を見、イトラスは無言を保ったままだ。

「その先は、……その先に一体何を求めてそんなことをしているんだ?」

「それに、だとしたら大臣を拉致した際に何らかの証拠でも残している方が合理的じゃないのか?」

「どうしてこんな手間のかかることを?」

 ようやく口を開いたネコミミ部隊は疑問を叩きだすのみ。

「知らん。俺よか、お前たちの方がビクチャーの心理を読むことができるだろ。ただ言えるのは大臣を拉致した時に痕跡を残しておくのは意味がないと思ったんだろ。それを手間と思っているのか思ってないのかは知れないがな。あるいはこっちの方が手間がかからないと考えていたのかも」

 再び無言になる。

「それと確認しておくことがある。ビクチャーはネコミミを本当に持ち去ってないんだな」

「ああ、ビクチャーが使っていたネコミミは私が使用しているから」

 カトゥンは久しぶりにきっぱりと断言した。

「発見されてないネコミミは?」

「それを言い出したらきりがない。ビクチャーほどの人間なら何らかの方法で発見していたとしても不思議はない」

 室長としてもビクチャーの裁量は心得ているのだろう。

「その線は残るわけか。あと、ネコミミは誰でも装着できるというわけではないんだよな」

「ああ、そのはずだが」

 カトゥンを皮切りに、ネコミミ部隊それに室長も一点を注視した。

「はあ、お前たちは研究に取り組んできたのではないか」

 ウキヨが嘆いた。そんなわけではなかろうが、事情通が語るのに越したことはない。

「ネコミミは邪心のある者には装着できない。断言する」

 ウキヨが言うくらいだ。それは間違いないことだろう。

「ということは、ビクチャーは《災悪》みたいなものになるような、そんなネコミミを模造とか細工したってことか」

 室長はやはり研究っぽい見識にかけては鋭い。

「それに、今回の単発事件だけがビクチャー絡みとは考えにくくなったとも言える」

 ネコミミ部隊全員が静かに首肯した。ここまで重ねた推論から省みればそれもありえなくはない。

 そこへ。

「失礼いたします。大臣が覚醒いたしました。しかし、いまだ意識は混濁しており事情聴取は後日になる模様」

 一人の兵士がやって来て報告して、瞬く間に去って行った。ほっとする一同。

「カトゥン。ビクチャーの身辺調査をやり直した方がいいんじゃないか?」

「そうだな。活動報告書の見直しも含めて、もう一度再考するか」

 決意が新たに下された。途端である。誰ともなく始まった輪唱がある。空腹である。まずは腹ごしらえは、日本だろうがピコライトだろうが変わらないことだった。


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