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茶色いノート  作者: ふりまじん
魔法の呪文

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作者、幽霊作家をかたる9


「基本、推理小説の謎には回答があって、小説家は読者に心地よく答えを見つけてもらえるように考えているはずなの。だから、この『悪霊』にも、ジャンルはどうあれ、一般の読者に答えが拾えるように設計されているはずなのよ。大衆小説を書いているんだもん。乱歩先生は大卒のインテリ相手に文章を書いていたわけではなかったはずよ。」

作者は嬉しそうに話す。私はその傍で物語の行先を考える。そう、この『幽霊作家』はその後の展開があるのです。

「そうですね。だから、あんなに『悪霊』を読み込んでいらっしゃったのですね?」

私の質問に作者は嫌な顔をした。

「違うわ。この小説、読めば読むほど、謎が気になるのよ。微妙に変な表現をされていて、いろんなものが見えては消えるのよ。そして、もやもやするんだわ。

ほら、はじめの附記ふきの部分には思わせぶりにN某氏を探すような文面があるでしょ?

これを横溝先生の現状を思って想像すると、この物語の原案はもしかしたら、横溝先生が渡したもので、当時の肺病って言ったら不治の病でしょ?今のがん宣告くらいの精神的なダメージがあったと思うのよ。しかも感染するから容易に近づけないし。

そんな事を考えながら読むと、横溝先生の病気を知って、2度と会えなくなるとパニックになりながら、先生同士でやり取りをした手紙を読み返してそれを使って物語を書こうとする乱歩先生の妄想が頭を占領するのよ。多分、違うと思うけれどね!」

作者は夢見がちに初めは話し、そして、最後の方では怒りながら締め括った。

「そうですね。フィクションでも、なかなか素敵な設定ですからね。作家同士の助け合いとか友情とか。

確か、貴女は横溝先生が回復されて連載の枠をもらえるように乱歩先生が無理な連載を引き受ける。なんて設定を昔書いていましたね。」

私は作者と話し合った色々を思い出す。

「そうね、本当に、いろんな話がこの短い文章には詰まっているのよ。」

作者は渋い顔で私を見た。

「アップルティでも飲みませんか?」

思わず私はそう言った。


夜は静かにふけて行きます。私は暖房をつけて少し部屋を温めました。それから、 気持ちが落ち着く曲をかけました。

やはり、こんな素敵な夜にはバタジェフスカの『乙女の祈り』をジャズアレンジで。

『乙女の祈り』は19世紀ポーランドで作曲された日本でも人気のピアノ曲です。作曲したのはテクラ・バダフジェスカ。彼女は本格的な音楽の教育を受けませんでしたが、この素敵な曲を生み出したのです。

彼女は母国ポーランドでも忘れられた存在でした、しかし、近年では再び彼女の曲に注目が集まっているようです。



「まあ、とにかく、私がエントリーするのはWEB小説のイベント。ほとんどが小説を書いた経験のある人だと思うから、『悪霊』の違和感についても私の言いたいことを理解してくれると思うの。

どんな物語だって、結末を考えないで描き始めることはないわ。まあ、長期連載とかで物語の行方が混乱することがあったとしても。とにかく、何か、言いたいこと、描きたいことが初めにあって、そこから、この語りを始めると思うの。

私ですら、書くときは結末を考えてるんだから、江戸川乱歩が考えないなんてあり得ないと思う。」

作者はアップルティを飲んだ。

「でも、未完1を描き始める頃は、結末は回復した横溝先生に任せて、適当に書いていたんじゃないかって、そんな事を話していませんでしたか?」

私は未完1の設定を始めた秋の事を思い出した。

『悪霊』という物語は、未完成でふんわりとした文章なので、どこか、おかしいと思ってみたり、作者のように物語の外からの情報で同じ文章を読んでいても印象が様々に変わってしまうのです。


「そうね、そんな事を言った気がするわ。でも、だからって、何も考えないということもないでしょ?ネットの掲示板のリレー小説じゃないんだもん。一応、推理小説なんだから、しかも、肺病を患っている作家の生活を持ち上げる為のお話って設定なんだから、自分が下地をうまく作って、そこから横溝先生を持ち上げる展開を考えないといけないんだもん。

これ、相当大変だと思うわ。まあ、横溝先生がこの話を書かないとしても、著作権でなんとか生活費が賄えるようにドイル全集を売り込む方法を考えたと思うの。

当時、横溝先生はそれほど有名じゃなかったらしいけれど、コナンドイルは人気があったし、自分の全集で出版社が持ち直した伝説がある江戸川乱歩だったからこそ、うまくやれば、横溝先生の大金をもたらせられると必死になったとか、そんな想像が暴走したのよ。

まあ、私も剛を亡くして混乱していたし、そういう気持ちに妄想が暴走したのね。

私は知らないうちに剛が死んでしまったのだけれど、肺病で苦しんでいる友達のために何かができるとなれば、それは心も乱れると思ったんだもん。

真実は私には分からないし、知ってるファンには今頃、笑われてるんだろうけれど、まあ、いいのよ。

『悪霊』は元からモキュメンタリーなんだもの。乱歩を思わせる小説家なんてメタなキャラを登場させて、現実世界とリンクしながら楽しめるように設計されているのだから、大いに楽しませてもらいたいところよ。」

作者はそう言って目を閉じて『乙女の祈り』を聴いていた。


「そうでしたね。ですから、初めは『発見者の附記』の部分に注目したのでしたね?」

私は未完1の設定の頃を思いしていた。作者は『悪霊』を面倒くさそうに読みながらぼやいていました。

「そうね。どちらにしても、密室殺人のトリックを考えてはいけないと思ったの。それを考えると謎の迷宮に迷い込むから考えてはいけないの。

で、メタの部分から、推理ファンがそれほど考えない、重箱の隅を突くことにしたの。

この話は、のちに乱歩自信が『抜け殻同然の文章の羅列』と表現しているのだから、全体的な仕掛けはないんだと考えることにしたわ。前、このセリフを聞いたときは乱歩の無念さを表現していると思ったわ。でも、今考えると 俺、密室なんて考えてないよ と、小さくぼやいてるようにも聞こえてくるわね。

本当に、こんなに多方面に話が盛れる作品って、そうはないよね?」

作者は私に同意を求めてきましたが、私はそれに応じるのを躊躇いました。私の作者は色んなものを複雑にする天才なのです。そして、複雑にするからこそ、完結できない気もするのです。

とはいえ、そんな事、口が裂けても言えません。私はこうして2人で話を考えるこの瞬間が大好きなのですから。

「どうでしょうか?でも、我々はとりあえず、熊浦編の解決を目指さないといけません。熊浦のモデルを探す。今はこれに集中しませんか?」

私の言葉に作者は頷いた。

「そうね、この話、読み込むと未完に沼にひこ込まれそうになるのよ。今回、ボツ案の披露の場をもらったんだから頑張らないとね。

まあ、本当は、一部を完結して、第二部をホラージャンルで連載予定だったのだけれどね。泣けるわ。」

作者は苦笑して『悪霊』の交霊メンバーについて話し始めた。


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