作者、幽霊作家をかたる4
作者は嬉しそうに今年の抱負を話し始めた。
「とりあえず、イベントに参加するわ。大丈夫よ。今回、参加のイベントは『ホラー&ミステリー』だから。ホラー要素が少なくても、私たちには江戸川乱歩の『悪霊』の解決編があるんだから。」
作者は嬉しそうに私に話す。その様子を、私は胸を締め付けられるような気持ちで見ていた。
気がついたのです。今年からの作者の目標。一年で100円を最低、小説で稼ぐ。この目標は小説を収益化していない人にはよく分からないかもしれませんが、人気ジャンル以外で稼ごうとすると結構、大変なのです。作者は100円以上自分の才能で稼ぐことに限界を感じて、貰える100円の方に価値を見出したのでした。確かに、現実世界では100円は100円の価値でしかありません。 が、しかし、インターネットの世界には電子書籍という商品は売られており、海外の著作権が切れた作品が百円で売られているのに気がついた作者はその中に、子供の頃に読みたかった作品を見つけてここに価値を見つけたのでした。
電子書籍では100円でも、ネットのなかった少女時代を過ごした作者には1万円以上の価値にある本がネットには唸っていたのです。そこで、一年に一度、頑張って作品を投稿したら、1冊の本を読者にプレゼントしてもらえる。と、いう設定を作り上げたのでした。
それは、とても可愛らしくて素敵な挑戦だと思っていました。そして、そんな素敵な物語を作者と2人で紡いで行けるものだと思っていました。
が、今、100円ではしゃぐ作者を見ていて気がついたのです。
どんな設定を設けようが、想像力を駆使しようが、100円は100円の価値であると言う事。
現実のポケットの小銭でも電子書籍は帰るのです。これに彼女が気がついたら!
今年1年で100円も稼げなかったら、作者がそれで創作活動に嫌気がさしたりしたら、100円の価値に気がついてしまうかも知れません。そうして、小説を書くのが嫌になるかもしれません。
そうなったら、私は…私たちの小説はどうなってしまうのでしょうか。
私は、現在、踏みしめているこの場所が薄氷のように脆いものだと気がついたのです。
書籍化や旅行は、叶わなくても次にチャレンジする気持ちを持てましたが、これからは、どうなるのでしょうか。
「どうしたの?」
作者の言葉にハッとした。いけません、暗い顔などしていては、作者に嫌われてしまいます。
「いえ、少し、春の夜に酔ってしまったようです。すみません。」
私は作者の心配そうな顔を見て、彼女を抱きしめたい衝動に駆られました。でも、その気持ちは知られるわけには行きません。知られてしまったら、きっと作者は混乱するに違いないのです。彼女にとって私は、空想のキャラクターの1人でしかないのです。それが急に制御不能な、『何か』だと悟ってしまったら、作者は私を恐怖にかんじるかもしれません。私にはそれが何より恐ろしい。私は作者の笑顔を見ていたいのです。
「そうね。ふふ。確かに、春の匂いがするみたい。」
作者はそう言ってソファに座る私の横に寄り添いました。作者の肩の温かさが服越しに伝わってきます。
「はい。このまま、眠ってしまいそうです。」
ああ、この静かで穏やかな感じ。このまま、時が止まったらなんて、月並みな言葉が浮かんできます。
「そう、じゃ、寝てもいいわ。私、少し話をするから。」
作者はそう言って話始めた。
『幽霊作家』を投稿したのは2025年の事ですが、書き始めたのは2024年の秋の頃でした。
確か、時代浪漫のイベントだったと思います。
長期連載の未完に関わっていた作者は、久しぶりにイベントに参加することにしたのです。
1万字の中短編で、犯人ではなく、小説の中の人物を考察するストーリーでした。
「あの時は、締切を1日間違えて、投稿できなかったのよね最終話を1話残して。で、今度は春の時代小説祭りにエントリーしたのよ。
いつも、不思議なんだけれど、なんか、この類の…長くなるものに限って自信が湧いてくるのよ。」
作者はため息をつく。
「そうですね。初めの作品を完成させてから投稿すればよかったですね。」
私がそう言うと、作者は肩をすくめた。
「そうね。でも、まあ、仕方ないわ。なんか、運命なんだと思うの。知らんけど。それに、迷ったからこそ、面白い発見もあったんだもん。確かに、今回のミステリー&ホラー イベントには2部は間に合わないだろうけれど、その代わり、没になった初めの物語について話をする機会に恵まれたんだから、頑張るわ。」
作者の声が頼もしく感じた。




