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この街に、プロサッカークラブを。 ~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~  作者: いとやん
第一章 創設編

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0年目 第6話 スカウトマン

第6話 スカウトマン


岡本さんが京南FCの監督に就任した。


伊東、佐藤さんとの顔合わせも完了し、これで晴れてプロジェクトメンバーの一員だ。

これで監督は決まった、次は選手だ。


「岡本さん、選手集めていきましょう」


「せやな、どうやって集めるつもりなんや?」


「……岡本さん、伝手ないですか?」


「……ノープランかい」


岡本も少し呆れ顔だ。


「そりゃ伝手は無くはないから、聞いてみるわ。

もうちょっと早く言ってや」


「すみません、お願いします」


岡本さんの伝手に連絡してもらうと、とりあえず何人かは会えそうな返事が返ってきた。


お、これは結構選手獲得もスッと行くかも。

ビバ伝手だな。


アポ待ちの間に今までの計画も見てもらう。


「この練習場やが……」


「最初は土ですね、すみません」


「いや、土はええんやが、照明が無いで」


しょう…めい…


「確かに暗くなると使えなくなっちゃいますね、漏れてました」


他にも

「この導入予定のトレーニングマシン、サッカー向けじゃないで」

「日よけのテントもいるな」

「フットサル用の小さいゴールも欲しいな」

「グラウンド整備は誰がやるんや?」


などなど、流石は経験者というコメントを頂いた。

やっぱり専門家がいると違うな。

足りてくれよ、予算……


     ◇


最初に会ったのは、高校三年生の選手だった。


モチロン岡本さんの知り合いの高校監督からの紹介だ。

ポジションはサイドバック。


プレー映像も見せてもらった。


悪くない。

というより、かなり良いように感じる


現在の能力も、この年代としては十分高い。

そして最大値も高い。


岡本さんの評価も同じだった。


「ええ選手やと思うで。まだ荒いけど、走れるし身体も強い。ちゃんと鍛えたら面白い」


意見が一致した。


よし。


本人と話す機会を作ってもらい、京南FCについて説明した。


ノードシードの正社員として採用する。


会社で働きながらサッカーをする。


来年から京都府リーグ六部に参加する。


練習環境も整えていく。


そして将来的にはプロリーグを目指す。


給与や勤務条件についても説明した。


高校を卒業してサッカーを続けたい選手にとって、それなりに魅力的な条件だと思う。


これはいけるんじゃないか?


「ありがとうございます。ちょっと考えさせてもらってもいいですか?」


あれ?


「もちろんです」


即決するような話でもない。


当然だ。


     ◇


次は大学四年生。


こちらも能力は悪くない。


岡本さんも、


「府六部やったら、かなりやれるやろな」


と評価している。


話をした。


「すみません。他のチームからも話をいただいているので、もう少し考えたいです」


なるほど。


     ◇


さらに高校生。


「大学からも声をかけてもらっていて……」


なるほど。


     ◇


また大学生。


「他のクラブの話も聞いてから決めたいです」


なるほど。


その次も、またその次も

「他に(略)」

なるほ(略)


…………


俺は考えるのをやめた


     ◇


「今のところ選手の内定者はゼロです。」


会社の会議室。


プロジェクトメンバーの定例会で選手の獲得状況が思わしくないことを報告した。


「決まらんなぁ」


「意外ですね、ウチの給料だと結構良いと思うんですが」と佐藤さん


「条件は問題ないっぽいんだよなぁ」


何人かと話をした。


明確に断られたわけではない。


条件が悪いと言われたわけでもない。


むしろ待遇については、かなり好意的な反応だった。

学生(特に高校生)にはあまりピンと来なかったみたいだが、同席した顧問や監督はかなり推してくれていたようだ。


なのに。


誰からも「行きます」という返事がない。


「何がダメなんでしょうね?」


「もしかして」


俺は岡本さんを見る。

自分を鑑みる。


「俺たちの顔が怖いから……?」


俺は岡本さんほど怖くない。

が、幼少期から黙っていると、「怒ってる?」と聞かれたことは一度や二度じゃない。


「お前と一緒にすんな」


「いや、岡本さんは自覚してくださいよ」


「俺は子どもに人気やぞ」


「鬼のおっちゃんって呼ばれてましたよね?」


「人気やないか」


そうなのか?


「冗談はともかく、今の時期の学生だとまだ社会人に進路を確定したくない気持ちも分かりますよ。

だってまだ高校生なら夏のインターハイも冬の選手権も残ってるでしょ。そこそこの実力者ならまだプロ入りも諦めてないですよ」と伊東。


「なるほど、確かに。

伊東もそうだったのか?」


「いえ、僕は全く。でも友人でそんな子はいましたね」


今全くプロから声がかかっていない子が、一大会で声がかかる可能性は……ゼロではないか。


「確かになぁ、時期か……」


可能性があるなら、ギリギリまで上を目指したい。


当然だと思う。


「時期に加えて俺たちに全く実績がないもんな。そら不安やろな」


岡本さんが言った。


「俺らは本気でも、向こうには分かりませんもんね」


「そういうことや」


条件だけなら悪くない。


会社員としての生活も安定している。


サッカーを続ける環境も作るつもりだ。


それでも、その選手にとっては自分の人生だ。


簡単に決められるわけがない。


「良い条件があれば、もっと簡単に来てくれると思ってました」


「お前、会社のほうでもそうなんか?」


「会社の採用だと、条件を気に入ってその場でかなり前向きになってくれる人も多いんですよ」


「サッカーはまた別と考えろ」


ごもっとも。


それにしても。


困ったな。


選手を見ることならできる。


能力が見える俺と、長年サッカーを指導してきた岡本さんがいる。


どんな選手を獲得したいか。


そこはかなり分かるようになってきた。


でも。


欲しい選手が分かることと、その選手に京南FCを選んでもらうことは別だ。


選手を見つけるより。


入ってもらう方が難しいんじゃないか?


そんなことを考えていた時だった。


内線電話が鳴った。


     ◇


「はい、サッカー事業部創設プロジェクトの伊東です。はい、あ、あの永井さんですが、少しお待ちください。」


「社長、サッカー協会の永井さんです。」


「ありがとう、こっちに回してくれる?」


通常なら会議優先だが、煮詰まっていたので電話に出ることにした。


『お世話になってます。京都府サッカー協会の永井です』


「永井さん、お世話になってます」


以前、リーグ参加について相談した時に対応してくれた人だ。


『今、お時間大丈夫ですか?』


「大丈夫ですよ」


『実はですね。京南FCさんで、スカウトの方って探してないですか?』


「スカウト?」


思わず岡本さんを見る。


岡本さんもこちらを見る。


「いや、今のところ専任のスカウトまでは考えてないですね」


そもそも、まだ府六部にも参加していない。


監督が決まったばかり。


選手ゼロ。


スタッフもほとんどいない。


そんなクラブにスカウトまで必要なのかと言われると、正直そこまでは考えていなかった。


『そうですよね。ただ、ちょうど今、次の仕事を探してる方がいまして』


「サッカー関係の人ですか?」


『以前、スカウトの仕事をされていた方です』


それは気になる。


『ちょっと変わった人なんですが、人とのつながりがすごく多い方でして』


人とのつながり。


俺はさっきまでの選手とのやり取りを思い出した。


良い選手は見つけられる。


でも、来てもらえない。


「岡本さん」


「なんや?」


「スカウトの人、紹介してもらえるみたいなんですけど」


「会うだけ会ってみたらええんちゃうか?」


そうだな。


「永井さん、その方、一度お会いできますか?」


『もちろんです。本人にも聞いてみます』


こうして。


予定になかったスカウトとの面談が決まった。


     ◇


数日後。


その男はノードシードにやって来た。


「初めまして! 隠岐圭介です。今日はありがとうございます!」


第一印象。


明るく人を安心させる笑顔。(うらやましい)


そして話しやすい。


俺と同じくらいの年齢だが、若くみえる。


岡本さんと比べるとかなり小柄(誰でもそうか)で、柔らかい雰囲気の人だった。


「久世です。こちらが監督の岡本です」


「岡本です」


「いやぁ、岡本さん大きいですね!」


初対面でそこ行く?


「よく言われるわ」


岡本さんは普通に答えた。強い。


「永井さんから話は聞いてます。新しくクラブを作られるんですよね?」


「はい。京南FCです」


「京南FC。ええ名前ですね。地元密着って感じで」


そこから隠岐さんと話をした。


これまでスカウトとして仕事をしてきたこと。


高校や大学、社会人クラブなど、色々なカテゴリーの試合を見てきたこと。


各地に知り合いがいること。


監督。コーチ。選手。学校関係者。クラブ関係者。


話を聞けば聞くほど、知り合いが出てくる。


「この前も大学の監督さんと飲んでましてね」


「そこも知り合いなんですか?」


「知り合いっていうか、昔紹介してもらって。その人からまた別の人を紹介してもらって」


「顔広いですね」


「人と話すの好きなんですよ」


なるほど。


スカウトというのはこういう人なのか。


話も上手い。


こちらの話もよく聞く。


京南FCの構想を説明すると、興味深そうに質問をしてくる。


選手を社員として雇う話。


仕事とサッカーを両立する話。


地域活動をする話。


府六部からプロを目指す話。


どれも笑わず、真剣に聞いている。


それどころか。


「それ、選手に話す時は順番変えた方がええかもしれませんね」


「順番?」


「最初に府六部って聞いたら、そこで引く子もいると思うんですよ」


「ああ……」


「先に会社としてどういう環境を用意するのか。どういう働き方になるのか。クラブが何を目指してるのか。そこをちゃんと伝えてから、今いるカテゴリーを話した方がええと思います」


なるほど。


「もちろん嘘ついたらダメですよ。でも、同じ内容でも伝える順番で印象って変わりますから」


この人。


営業上手そうだな。


そう思った。


それなら。


いつものように能力を見てみる。


――そして。


俺は固まった。


……ん?


もう一度見る。


いや。


間違ってない。


スカウトとしての能力に目を向ける。

……低い。

特に、選手の能力や将来性を見極める部分が低い。


え?


この人スカウトだよな?


俺は隠岐さんを見る。


隠岐さんは笑顔で岡本さんと話している。

岡本さんも結構笑顔だ、打ち解けている。


もう一度能力を見る。


やっぱり低い。


これまでスカウトとして仕事をしてきたという話だった。


なのに。


「久世さん?」


「あ、はい」


「どうしました?」


「いや、何でもないです」


危ない。


顔に出ていたかもしれない。


俺は少し考える。


そういえば。


経歴を聞いていて、一つ気になっていた。


隠岐さんは長い間スカウト関係の仕事をしてきた。


これといった大きな実績の話が出てこない。


今回も以前の仕事が終わり、次を探している。


もしかして。


これが理由か?


この人。


選手を見る目がない。


正直。


スカウトとしてはどうなんだ、それ。


別の能力にも目を向ける。


コミュニケーション。


高い。

これは能力を見なくても分かる。現に今体験している。


交渉。


高い。


営業。


……高っ。


何これ。


さっきとは逆の意味で驚いた。

なるほど。


だからこれだけ人脈が広いのか。


待てよ。


俺は隠岐さんを見る。


スカウトとして考えるから、おかしいんじゃないか?


選手を見つけて。


能力を判断して。


チームに必要かを判断して。


交渉して。


加入してもらう。


全部一人でやる必要なんてない。


選手の能力なら俺が見られる。


サッカー選手としての評価なら岡本さんができる。


どんな選手が必要なのかも、二人で考えればいい。


そして。


俺たちが欲しいと思った選手を。


この人に口説いてもらう。


それなら。


むしろ、かなり強いんじゃないか?


「隠岐さん」


「はい」


「一つ聞いていいですか?」


「もちろんです」


「自分で選手を探して、この選手が良いって判断するのと」


隠岐さんが俺を見る。


「こっちから『この選手に来てほしい』ってお願いして、その選手と話をしてもらうの。どっちが得意です?」


「そら後者ですね」


即答だった。


「即答ですね」


「だって、会わせてもらえたら話できますから」


隠岐さんは笑った。


「本人が何を考えてるのか。何が不安なのか。何を大事にしてるのか。それ聞いて、こっちが出せる条件と合わせていく。そういうのは得意です」


なるほど。


やっぱりだ。


「ただ、選手を見る方は……」


隠岐さんが少し頭をかいた。


「正直、自信ないですね」


自覚あった。正直で良いじゃないか。


「ええ選手やと思って薦めたら全然やったり、逆に大したことないと思った選手が後から活躍したり。結構あるんですよ」


「あんた、それで大丈夫なんか?」

岡本さんも笑いながらツッコんでる。


「いや、それが、大丈夫じゃなかったんですよ」


「あかんやん!」

お、岡本さんが高らかに笑っている。

くそ、我がプロジェクトでは苦笑ばかりなのに。

かく言う俺も笑っているが。


なるほど。


大体分かった。


俺が能力を見る。


岡本さんがサッカー選手として見る。


そして隠岐さんが交渉する。


全員が全部できる必要はない。


できる人が、できることをやればいい。


会社だってそうやって作ってきた。


適材適所。


それでいい。


「隠岐さん」


「はい」


「うちで働きません?」


隠岐さんが目を丸くした。


「……え?」


「京南FCに来てください」


「スカウトとして?」


「とりあえずは」


「……とりあえず?」


「いや、こっちの話です」


まだこの時の俺は知らない。


この人を欲しがるのが、サッカー事業部だけではなくなることを。


こうして。


選手を見る目がないスカウトマン。


隠岐圭介が、京南FCに加わることになった。

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