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この街に、プロサッカークラブを。 ~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~  作者: いとやん
第二章 地域定着編

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6年目 第4話 府リーグ最後の戦い

 京南FCの六年目も、いよいよ終盤に差しかかっていた。


 京都府リーグ一部。


 六年前、六部からスタートした俺たちが、ついにここまでやってきた。


 改めて考えると、なかなか感慨深いものがある。

 

 今考えても六部ってすごいよな、最短で来ても六年だもんな。


 なんて感慨に浸っている余裕があるかといえば、そうでもない。


 今年の目標は府リーグ一部で優勝すること。


 そして、地域リーグへの昇格を決めることだ。


 府リーグで優勝しただけでは、地域リーグには上がれない。

 

 地域リーグは関西地方を束ねたリーグだ。


 そのため、各府県の代表が集まる昇格決定大会を勝ち抜く必要がある。


 つまり、まだまだ先は長い。


 とはいえ、今の京南FCはなかなか強い。


 社長の俺が言うのもなんだが、地域リーグのチームにも劣らないチームになっていると思う。


 ◇


 今年の京南FCで、特に目立っているのは攻撃陣だ。


 新加入の大久保。


 そして、ここ数年でチームのエースへと成長した板垣。


 この二人が実にいい。


 大久保は、とにかくボールの扱いがうまい。


 相手のプレッシャーを受けても慌てず、周囲の状況をよく見ている。


 パスを出すタイミングも絶妙だ。


 一方の板垣は、持ち前の突破力と得点力で相手の守備を脅かす。


 以前は板垣が個人技で何とかする場面も多かったが、今年は少し違う。


 大久保が入ったことで、板垣がよりいい形でボールを受けられるようになったのだ。


 ある日の試合でも、そんな場面があった。


 中盤でボールを受けた大久保が、相手選手を一人引きつける。


 板垣は相手ディフェンダーの背後へ走り込む。


 そこへ大久保から、ぴたりとパスが通った。


 板垣はボールを収め、そのままシュート。


 ボールはゴールネットに突き刺さった。


「よし!」


 思わず声が出る。


 いやあ、今のはいい連携だった。

 

 かつての友近、板垣の連携を思い出す。


 大久保も板垣も、個人として優秀なのは間違いない。


 だが、何よりうれしいのは、二人の特徴がうまくかみ合っていることだ。


 周囲の選手たちも、二人の動きに合わせて走るようになっている。


 誰か一人が頑張って点を取るのではなく、チームとして得点できるようになってきた。


 岡本さんも、その変化を喜んでいた。


「大久保が入って、攻撃の選択肢が増えたな。

 板垣も無謀なチャレンジが減ってやりやすそうや」


「そうですね。見ていて面白いです」


「ただ、大久保に頼りすぎんように気をつけなあかんな。

 板垣も無謀なチャレンジは減りはしたが、根本的なところはまだ修正できてへん」


「なるほど、でも逆に言うと伸びしろがあるってことですね」


「うまいこと言うな」


 伸びしろ、その言葉に、少しだけ橋本のことを思い出した。


 出場機会を失い、会社も辞めてしまった橋本。


 あいつは今、どうしているだろうか。


 チームが強くなり、勝利することはもちろんうれしい。


 だが、チームが強くなることが、必ずしも全員の幸せにつながるわけではない。


 それは今年、嫌というほど思い知らされた。


 だからこそ、選手一人ひとりのことを、これまで以上に見ていかなければならない。


 そう思っている。


 ◇


 攻撃陣だけではない。


 守備陣も、ずいぶん安定してきた。


 昨年、創設メンバーの鈴木が現役を引退した。


 長年センターバックとして守備を支えてくれた選手だけに、正直なところ、俺は少し心配していた。


 新しい守備陣が、これまでと同じように機能するだろうか。


 だが、その心配は杞憂に終わった。


 今の守備陣は、鈴木がいた頃と比べても遜色がない。


 その中心にいるのが、キャプテンの長谷川だ。


「右、もう少し絞れ!」


「そこは俺が行く! 後ろ頼む!」


 試合中、長谷川の声がよく響く。


 相手がどこから攻めてきても、守備陣が連動して対応できるようになっている。


 一人が前に出れば、別の選手がその後ろを埋める。


 誰かが抜かれても、すぐに次の選手が対応する。


 誰か特定の人で対応するわけじゃなくて、守備組織として対応できているイメージだ。


 六年間、一緒に練習し、試合を重ねてきた成果なのだろう。


 そして長谷川自身も、ずいぶんと成長した。


 創設当初から頼りになる男だったが、今では自分のプレーだけでなく、周囲を生かすことも考えている。


 新しく加入した犬飼も、そんな先輩たちに囲まれて少しずつ成長していた。

 

「僕が行きます!」

 

 と持ち前の運動量を活かして積極的にプレスや味方のフォローをしている。


 まだ経験不足なところはあるが、練習でも仕事でも積極的に学んでいっているようだ。

 

 高卒で一番若く背が小さく、少し天然なところもあるので先輩からも可愛がられている。

 

 まぁ前の高卒選手は板垣という無口マンだったしな…

 

 犬飼は試合以外でも積極的に声を出したり、雰囲気を明るくしようと考えているように見える。

 

 サッカー選手としてだけじゃなくて、そういったところもちゃんと評価できるようにしたい。


 若い選手が入り、ベテランがそれを支える。


 こうしてチームは少しずつ変わっていくのだろう。

 

 まぁベテランと言っても初期メンバーの長谷川達もまだ20代。

 

 まだまだ頑張ってもらわないといけない。


 ちなみに、俺はもうすぐ四十歳になってしまう。


 サッカー事業部を立ち上げた三十代は本当にあっという間だった気がする。


 京南FCと共に俺も成長していると思いたい。


 少なくとも、子どものおむつ替えはかなり上達した。


 サッカークラブの社長として、それが何の役に立つのかは分からないが。


 ◇ 犬飼目線です


 僕の名前は犬飼和樹。


 今年からノードシードに就職し、総務とサッカー事業部で働いている。

 

 初めての社会人、かつ周囲が自分とは違い大卒が主ということで不安もあったが、

 先輩たちが優しくしてくれているので、順調に働けている。

 

 総務とサッカー事業部の兼任というものはなかなか大変だったが、最近はようやく慣れてきた。

 

 社会人になって半年ちょっとだが、最近は毎日が楽しい。

 

 仕事も少しだけ覚えてこれたし、大好きなサッカーが続けることができている。

 

 総務も京南FCの先輩たちも優しいし、何よりもサッカースクールが楽しい。

 

 自分がプレイすること以上に、子供たちがうまくなるのを見るのが楽しいのだ。

 

 子供たちにも慕ってもらえているし、本当に充実している。

 

 もしも今の仕事がダメになってしまったら、保父さんになろうかな、と思うくらいだ。

 

 さて、今日はスクールの日だ。

 

 僕と同じく高卒で加入した先輩の板垣さんと一緒にスクールに向かう。

 

「板垣さん、今日の指導楽しみですね」


「そうだな」


「あの板垣さん好きな子、どんどん上手になってますよね」


「ん……、そうだな」


 板垣さんは基本的に無口でこんな感じだ。

 

 でも試合ではそのドリブル突破、シュートで京南FCのエースとして活躍している尊敬する先輩だ。

 

 その板垣さんは意外にも──と言ったら失礼だが──スクールの子どもに人気がある。


「板垣コーチ! 見て、できるようになったよ!」


 板垣さんを慕う子どもがリフティングをして見せる。

 

 あんまり回数は続かないが、以前よりも回数は確実に多くなっている。

 

「そうだな、少し回数が多くなったな」


「えへへ、家で練習したんだ!」


 別の子どもからも


「板垣コーチ、土曜日の試合勝った?」


「勝ったぞ」


「点取った?」


「一点取ったぞ」


「えー、一点だけ?」


「……もっととれるように頑張る」


「コーチも練習頑張って!」


「任せろ」


 子どもたちが笑う。


 スクールやジュニアチームの子どもたちは近場の試合にも応援に来てくれることが多い。

 

 応援に来てくれるのはめちゃくちゃうれしい。

 

 子どもたちのためにも試合で頑張ろうとやる気が出てくる。

 

 そんな試合で点を取る姿から板垣さんの人気が高いのも納得だ。

 

「犬飼コーチは点取ったの?」


「いや、コーチはボランチだからまだ点は取ってないんだ」


「えー、犬飼コーチも頑張らないと」


「うん、頑張るよ」


「こうやってシュートすれば入るよ!」


「おお、そうか~、ありがとう」


 こうして子どもたちと話すのは楽しい。


 最初にスクールを任された頃は、教えるのって難しいなと思っていた。


 自分では当たり前にできることでも、子どもたちに説明するとなるとうまくいかない。


 何度言っても伝わらないこともある。


 でも、少しずつできるようになっていく姿を見ると、やっぱりうれしい。


 最近は、スクールに来るのを楽しみにしてくれている子も多い。


 僕のことを慕ってくれているのも、素直にうれしい。


 練習後、片づけをしていると、保護者の一人に声を掛けられた。


「犬飼コーチ、京南FCって、もうすぐ優勝なんですよね?」


「はい、そうですね。あと少しです」


「優勝したら、次は昇格決定戦でしたっけ?」


「はい。そこで勝てば地域リーグに上がれます」


「そうなんですね。じゃあ、また応援に行きますね」


「本当ですか?ありがとうございます!」


「はい、犬飼コーチがんばれって旗を用意するんだってこの子が言ってるんですよ」


「コーチ、任せといて!」


 子どもが元気よく手を上げる。


「ありがとうございます。頑張ります!」


 僕は思わず笑顔になった。


 スクールの子どもたちが、自分の試合を見に来てくれる。


 そう考えると、いつもの試合とは少し違う気がした。


 もちろん、普段から手を抜いているわけじゃない。


 でも、子どもたちの前で格好悪いところは見せられない。


 よし。


 絶対にいいプレーを見せてやろう。


 ◇


 俺は田中和弘。


 ノードシードの社員で、京南FCの選手だ。


 ただ、最近はサッカーより農業のことを考えている時間の方が長いかもしれない。


 岡本監督の実家の農地を中心に進めている農業事業も、今年でずいぶん形になってきた。


 最初は何も分からず、農家の人たちに教えてもらうことばかりだった。


 今でも分からないことは山ほどある。


 それでも、少しずつ自分たちで判断できる仕事が増えてきた。

 

 さらに当初から考えていたITの利用も少しだけ導入できたのだ。

 

 ──といってもITの導入部分は小林君にほとんどまかせっきりだけど


 来年度からの正式な事業化に向けて、準備も進んでいる。


 そんなある日。


 岡本さんの実家での仕事を終えた俺は、帰り道に植田さんの家へ立ち寄った。

 

 植田さんは農業事業の最初の研修先としてお世話になった方だ。

 

 研修自体は終わっているが、折をみて挨拶にはたまに訪れている。


「こんにちは。田中です」


「おお、田中君。久しぶりやな」


「ご無沙汰しています。今日は岡本さんのところに行ってまして、帰りにご挨拶だけでもと思って」


「そうかそうか。まあ、上がっていき」


 俺は最近の作物の状況や、今年の農作業でうまくいったこと、まだ課題が残っていることなどを植田家のご主人に報告した。


「最初の頃に比べたら、ほんの少しだけ分かるようになってきました」


「そらそうや。田中君たちみたいに真面目にやっとったら、少しずつ覚えるわな」


「でも、まだまだですね。全然うまく育たないこともありますし」


「農業はそんなもんや。毎年同じようにはいかへん」


 こうして話していると、改めて農業の奥深さを感じる。


 同じ土地でも、去年うまくいった方法が今年もうまくいくとは限らない。


 だからこそ面白いのかもしれない。


 そんな話をしていると、植田家の息子さんも顔を出した。


 研修当初は、IT企業なんかに農業できるのかよ、と顔に書いてあった人だが、

 研修を通じて少し打ち解けることができた。

 

 さらにここ最近は京南FCの試合を結構見に来てくれている。


「あ、そうだ。植田さん、この間は試合に見に来ていただいて、ありがとうございました」


「おお、なかなか面白かったで」


「ありがとうございます。実は、もうすぐ地域リーグへの昇格を懸けた大会があるんです」


「地域リーグ?」


「あー、今の府リーグの上のリーグですね。

 今は京都府内ですが、関西地方全体のリーグになります」


「へえ、昇格戦か」


「はい。まだ府リーグの優勝が決まったわけではないんですが、もしよかったら、また応援に来てください」


「そうか。そら大事な試合やな」


「日程が決まったら、またお知らせします」


「分かった。都合つけてみるわ」


 俺は礼を言って、植田家を後にした。


 農業の仕事で知り合った人が、サッカーの試合も見に来てくれる。


 考えてみれば、不思議なものだ。


 最初にノードシードへ入ったときは、まさか自分が農業に関わるなんて思ってもいなかった。


 サッカーを続けられる会社だと思って入社したのに、今では農業の仕事にやりがいを感じている。


 京南FCが地域リーグに上がれるかどうかは、俺にとっても大事なことだ。


 せっかくなら、たくさんの人に応援してもらいたい。


 そんなことを考えながら、会社へ戻った。


 ◇


 そして、京南FCは京都府リーグ一部の優勝を決めた。


 最終戦も、今のチームらしい試合だった。


 大久保を起点に攻撃を組み立て、板垣がゴールを決める。


 守備陣は長谷川を中心に最後まで集中を切らさず、相手の反撃を抑えた。


 試合終了の笛が鳴る。


 選手たちが笑顔で駆け寄り、互いの健闘をたたえ合う。


 京都府リーグ一部優勝。


 これで、六部から一部まで、すべてのカテゴリーを突破したことになる。


 六年間。


 長かったような、短かったような。


 最初の頃は、人数をそろえるだけでも大変だった。


 練習場所を確保するのにも苦労した。


 それでも、少しずつ仲間が増え、チームが強くなり、ここまで来た。


「岡本さん、おめでとうございます。とうとう府リーグの頂点ですね」


「せやな。でも、まだこれからや」


「もちろんです」


 岡本さんは、ニヤリともせずにピッチの選手たちに目を向けた。


「ここからが本番や」


 そうなのだ。


 府リーグ一部で優勝しても、地域リーグへの昇格が決まったわけではない。


 次に待っているのは、各府県の代表が集まる昇格決定大会。


 京南FCにとって、これまでで最も重要な大会になる。


 ◇


 優勝が決まると、ノードシードでも昇格決定大会に向けた準備が始まった。


 総務、広報を中心に一丸になって準備に挑むのだ。

 

 まずは試合日程の告知だ。


 会社のWebサイトに、京南FCの府リーグ一部優勝と昇格決定大会への出場を掲載する。


 サッカー事業部のページだけではない。


 社内向けのお知らせにも試合日程を載せ、希望する社員には観戦情報を案内することにした。


 もちろん、休日に応援へ行くかどうかは自由だ。


 強制的に試合参加を義務付けしたって、そんなの応援する側もされる側も意味がない。

 

 自分の意志で応援したい、と思ってもらえるチームになることが重要なのだ。

 

 さらに今回の昇格決定大会用のポスターも作ってもらった。

 

 もちろん作者は我が京南FCの専属カメラマンこと篠宮さんだ。

 

「あ、長谷川、じゃなくて篠宮さん、昇格決定戦のポスターカッコいいね」


 ──篠宮さんの猛アタックもあり、長谷川は篠宮さんと結婚していた。

 

「被写体がいいですからね、板垣君に大久保君もカッコいいですし、犬飼君は可愛いですしね~」


「旦那の写真が一番カッコいいじゃないですか」


「でしょ~、ほんとユニフォーム姿だとかっこいいんですよ」


 いつかの飲み会の日、長谷川の隣にいるだけで真っ赤だった篠宮さんも成長したものだ。

 

「でも私服が本当にダサくて困ってるんです」


「あの長谷川が!?」


 意外なところで長谷川の意外な一面を知ってしまった…


 それから、ジムの受付にもポスターを掲示してもらうことになった。


 ジュニアスクールやジュニアチームでは、保護者に試合情報を配布する。


 ノードシードが参加する地域イベントでも、チラシを置かせてもらうことにした。


 こうして並べてみると、ずいぶん告知できる場所が増えたものだ。


 六年前には、会社のWebサイトと社員へのお知らせくらいしかなかった。


 今ではジムがあり、スクールがあり、地域イベントとのつながりもある。


 サッカー事業部だけでなく、ノードシード全体の事業が少しずつ広がってきた証拠だろう。


 さらに、市役所にも相談してみることにした。


 京南市とはスポーツパークの整備でも協力している。


 せっかくなので、昇格決定大会のポスターを市役所にも掲示してもらえないか、お願いしてみたのだ。


「昇格決定大会ですか。いよいよ地域リーグが見えてきましたね」


 担当者は、そう言って笑顔を見せてくれた。


「ありがとうございます。まだ大会で優勝しないといけないんですけどね」


「市役所や市内の公共施設の掲示スペースでしたら、手続きの上で掲示できると思いますよ」


「助かります」


「最近、京南FCのことを聞かれることもあるんですよ」


「そうなんですか?」


「ええ。スポーツパークのこともありますし、サッカーをやっているお子さんの保護者の方なんかは、よくご存じみたいですね」


「へえ」


「私も、意外と盛り上がってるんだなと思っていました」


 それは、ちょっと意外だった。


 もちろん、京南FCはまだ府リーグのクラブだ。


 市民の誰もが知っているような存在ではない。


 それでも、知らないところで少しずつ名前が広まっているらしい。


 六年前、誰も知らなかったクラブが。


 そう考えると、なかなか感慨深い。


 ◇


 大会が近づくにつれて、社内でも応援の話題が増えてきた。


「社長、今度の試合、見に行こうと思ってるんですよ」


「おお、ありがとう!」


「うちの子も連れていきます」


「ぜひぜひ」


 そんな声を掛けられることも珍しくなくなった。


 スクールの保護者からも、試合会場や日程について問い合わせが来ているらしい。


 ジュニアチームの子どもたちも、トップチームの試合を楽しみにしてくれている。


 まだ大会は始まっていない。


 もちろん、どれくらいの人が実際に来てくれるのかも分からない。


 それでも、こうして応援しようとしてくれる人たちがいる。


 それが何よりうれしかった。

 

「あ、社長、ちょっとよろしいですか?」


 感慨に浸っていると伊東が声をかけてきた。

 

「社内やスクール、ジュニアチームの保護者から、応援に行きたいが会場が遠い。

 応援バスなどは出ないのか?という問い合わせが何件か入ってきています」

 

 なるほど、直近の試合会場は大阪でも南の方だ。

 京南からだと高速を使っても一時間半くらいかかるだろう。

 

 小さい子供を連れて、慣れない土地に行くのは少し厳しいだろう。

 

「なるほど、グループリーグで今から手配するのは難しいけど、

 決勝トーナメントでは応援バスを手配できるように調整してみるよ」

 

 昇格決定大会は決勝まで行けば──絶対に行くが──グループリーグで三試合、決勝トーナメントで二試合の計五試合を戦うことになる。

 

「おお、いいんですか?」


「これくらいは社長の一存で決めても許されるだろう」


 最悪ポケットマネーで呼ぶことだって出来るしな。

 

 鬼の、いや仏の奥様も許してくれるはずだ。

 

「会社の社用車では足りないだろうから、近所のバス会社に料金聞いておいてくれる?

 あと実際に申し込む人がどれくらいなのかも確認よろしく」

 

「はい、総務で社内イベントでバス手配していたので確認しておきます」


「頼んだ」

 

「ここまで来たら大応援団で盛り上げて昇格決めたいですね!」


「おう、応援の力を見せよう!」


 ◇

 

 六年前、京南FCを作ったとき。


 俺が考えていたのは、サッカーを続けたい選手たちに、その場所を作ることだった。


 そして、せっかくなら地域の人たちにも喜んでもらえるクラブにしたかった。


 あの頃は、試合を見に来てくれる人が一人増えるだけでもうれしかった。


 今では、社員が家族を連れて来てくれる。


 スクールの子どもたちが、コーチの試合を見たいと言ってくれる。


 地域の人たちにも、少しずつ名前を知ってもらえている。


 俺たちが思っていた以上に、京南FCを気に掛けてくれている人がいるらしい。


 何だか、不思議な気分だった。


 もちろん、ここで負けるわけにはいかない。


 いや、応援がなくても負けたくはないんだけど。


 でも、これだけの人たちが楽しみにしてくれているなら、なおさらだ。


 京都府リーグ一部優勝。


 六年間かけて、ようやくここまで来た。


 次に目指すのは、地域リーグ。


 そして、その先には、まだまだ長い道が続いている。


 まずは目の前の昇格決定大会だ。


 京南FCにとって、初めての大舞台が始まろうとしていた。

 

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