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この街に、プロサッカークラブを。 ~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~  作者: いとやん
第二章 地域定着編

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6年目 閑話「外から見た京南FC」

 京都府リーグでサッカーを続けて、もう十年になる。


 チーム自体は日本にプロサッカーリーグができる以前から京都に存在している、比較的歴史あるチームだ。


 大昔は地域リーグに所属していたが、最近は府リーグの一部、二部を行ったり来たりしている。


 大学を卒業して就職するときに、サッカーを続けるために今のチームを選んだ。


 もちろんチームと会社は別々なので、二足の草鞋を履いているような体制だ。


 平日は仕事。

 練習は業務後に週に二回集まって実施。

 試合は土日。


 仕事が忙しければ練習に参加できないし、グラウンドが確保できなければ練習そのものが中止になることもある。


 仕事との両立はやはり厳しく、ほとんど試合にしか来られないメンバーや、仕事を優先してチームを離れるメンバーも多かった。


 そのため、メンバーの入れ替わりは激しい。


 自分も含めた古参のコアメンバーがチームの中心になり、何とか一部に残留できている状態だ。


 それでもサッカーを辞めようと思ったことはない。


 仲間とボールを蹴って、試合に勝つ。


 結局、それが楽しいのだ。


 そんな俺たちの次の対戦相手は、今年一部に昇格してきた京南FCだった。


「京南FCって知ってます?」


 練習後、若手の一人が話しかけてきた。


「今年上がってきたところだろ。五年連続昇格だったか?」


「そうです。六部から一度も止まらずに上がってきたらしいですよ」


「そりゃすごいな」


 府リーグの下のカテゴリーには、人数を揃えるだけでも苦労しているチームがある。


 ただ、そんな中でも毎年昇格するというのは、簡単なことではない。


 みんなサッカーが好きで、真面目に取り組んでいるチームが大半だからだ。


「しかも、選手が全員、ノードシードってIT企業の会社員らしいんですよ」


「ノードシード?」


 どこかで聞いたことがある会社だ。


「はい、あれですよ。あの駅前のジムでAIトレーナーってやってるじゃないですか。あのシステムを作った会社らしいです」


 ああ、あのAIトレーナーの会社か。


 自分はまだ使っていないが、使っている人の話は聞いたことがある。


「そんな会社のサッカー部ってわけか」


「そうですね。サッカー部の選手として採用して、普段は会社の仕事もしてるらしいです。当たり前ですが、専用のグラウンドやトレーニング設備も持っているみたいですね」


「なんでそんなに知ってるんだ?」


「いや、Webサイトがやたらと充実してて、検索したらすぐに出てきました」


 なるほど。


 IT企業のサッカー部ということか。


 それ自体は珍しい話ではない。


 ただ、AIトレーナーなどのトレーニング設備まで自社開発しているとなると、非常に珍しい。


 それだけで本気度がうかがえる。


 こっちは仕事帰りに集まって、限られた時間で練習している。


 グラウンドの使用料も、ユニフォーム代も、できるだけ節約している。


 それが同じ府リーグの相手には、専用の練習設備にAIトレーナー。


 ずいぶん違うものだ。


「そんな環境で練習できるなら、俺も一回くらい行ってみたいな」


「一回どころか、入団したくなりません?」


「おいおい。俺はまだこのチームでやるつもりだぞ」


 そう返すと、若手は笑った。


 もっとも、羨ましいと思ったのは本当だった。


     ◇


 試合当日。


 京南FCの選手たちは、試合前からよく声を出していた。


 若い選手が多い。


 おそらく大卒や高卒の選手を新卒採用して、鍛えているんだろう。


 ただ、若いだけではない。


 ウォーミングアップの動きが揃っているし、ボールを使った練習もテンポがいい。


 よく練習しているチームだというのは、それだけで分かった。


「思ってたより、ちゃんとしてますね」


 隣でアップしていた若手が言った。


「当たり前だろ。五年連続で昇格してきたんだぞ」


「いや、そうですけど」


「油断するなよ。向こうだって一部で勝つつもりで来てるんだから」


 そう言いながら、俺も相手の選手たちを眺めた。


 若手も同じように相手を見ていたのだが、ぼそっとつぶやいた。


「あれ?」


「どうした?」


「いや、あいつ……」


 京南FCの中盤にいる選手を指差している。


「大久保寿也じゃないか?」


「誰? 有名なやつなのか?」


「大学サッカーで結構名前が知られてた選手ですよ。大学時代に対戦したことがあります。あいつはてっきりプロに行くと思っていたんですが……」


「おお、そんなレベルのやつがいるのか……」


「もしかして、あの会社が連れてきたんですかね」


「だろうな」


 プロ入りしてもおかしくない選手が選ぶレベルの会社ってことか。


 これはいよいよ油断ならないな。


     ◇


 試合が始まると、その予感はすぐに当たった。


 京南FCは、思っていた以上にボールを動かすのがうまかった。


 後ろから丁寧につなぎ、中盤で受けて、前線へ運ぶ。


 無理なパスを出さず、相手が寄せてくれば別の選手に預ける。


 個人のうまさももちろんあるが、よく練習できているんだろう。


 連携が非常にスムーズだ。


 ただ、こちらも簡単にやられるつもりはない。


 長く府リーグで戦ってきた意地と経験がある。


 序盤はしっかり守って、何度かカウンターにも持ち込んだ。


 だが、時間が経つにつれて、京南FCの攻撃に手を焼くようになった。


 特に厄介だったのが、事前に聞いていた大久保と、板垣というFWだ。


 大久保は、ボールを持ってから考えていない。


 受ける前から何度も首を振って、周囲の状況を確認している。


 こちらが寄せる頃には、もう次のプレーを決めている。


「右、切れ!」


 味方に声をかける。


 大久保は右へ出すような素振りを見せた。


 俺もそちらへ体重をかける。


 その瞬間、逆方向にいた板垣へパスを通された。


「くそっ!」


 振り向くと、板垣が前を向いている。


 慌てて戻ったが、重心の逆を突かれて突破され、そのままシュートまで持ち込まれた。


 幸い、ボールはゴールの横を抜けた。


「今の、うまかったな……」


 思わず声が漏れた。


 大久保は派手なドリブルをするわけではない。


 だが、嫌なところに顔を出して、嫌なタイミングでボールを動かしてくる。


 守る側からすると、実に面倒な選手だった。


 前半の終盤、とうとう京南FCに先制点を許した。


 大久保が中盤でボールを受け、こちらの守備が寄ったところで前線へパス。


 抜け出した板垣に決められた。


 きれいに崩された形だった。


 ハーフタイム、俺たちは守り方を話し合った。


「あの大久保ってやつ、やっぱりうまいですね」


「そうだな。でも、あいつ一人を見てても駄目だ」


 京南FCは、大久保だけのチームではなかった。


 周りの選手もよく動く。


 パスを受ける位置を考えているし、ボールを失ったあとの切り替えも速い。


 DF陣もあのキャプテンを中心によくまとまっていて、隙がない。


 あの環境で、普段からしっかり練習しているのだろう。


 そう思わせるだけのものがあった。


 後半、俺たちも意地を見せた。


 相手のパスを奪ってカウンターから同点に追いつく。


 ベンチも含めて大騒ぎになった。


 やっぱり、こういう瞬間がたまらない。


 だが、喜びは長く続かなかった。


 京南FCは慌てなかった。


 また自分たちの形でボールを動かし始め、こちらを押し込んでくる。


 そして試合終盤。


 相手のキャプテンを起点にした攻撃から、もう一度ゴールを奪われた。


 結局、試合は一対二。


 俺たちの負けだった。


     ◇


「いやあ、強かったですね」


 試合後、若手が疲れた顔で言った。


「そうだな」


「やっぱり、練習環境が違うんですかね」


「それもあるだろうな」


 京南FCの選手たちが、向こうで片付けをしている。


 俺たちと同じ会社員。


 だが、サッカーを続けるための環境は大きく違う。


「いいですよね、ああいうの。会社がサッカーを応援してくれて、設備まで用意してくれるなんて」


「羨ましいか?」


「そりゃ羨ましいですよ」


 若手は即答した。


「俺ら、先週なんかグラウンド取れなくて練習できなかったじゃないですか」


「ああ、そうだったな」


「仕事で遅れるやつもいるし、全員揃うことなんてほとんどないし」


「まあな」


「俺も、もっと練習できる環境があったらなって思いますよ」


 その気持ちはよく分かった。


 俺だって、もっと若い頃にあんな環境があったら、と思わないわけではない。


 だが、今日の敗戦を全部環境のせいにするつもりもなかった。


「でも、あいつらが強いのは環境だけじゃないぞ」


「え?」


「大久保は確かにうまかった。でも、周りの選手だって相当なものだったろ」


「そうですね」


「いい環境があるからって、勝手にうまくなるわけじゃない。あいつらもきっちり努力してきたんだよ」


 若手は少し考えてから、うなずいた。


「……確かに」


「それに、会社がサッカーを応援してくれるといっても、無償の応援じゃないだろう。俺たちと同じように、仕事とサッカーを両立する苦労もあるはずだ」


「そんなものですかね」


 俺たちだって、何年もこのリーグで戦ってきた。


 仕事が忙しい日も、雨の日も、仲間と集まってボールを蹴ってきた。


 限られた環境で続けてきたことに、誇りがないわけじゃない。


 だからこそ、今日の負けは悔しかった。


「京南FC、今年も昇格しそうですね」


 若手がぽつりと言った。


「どうだろうな。まだリーグは始まったばかりだぞ」


「でも、あの強さなら……」


「府リーグで優勝できても、その先の昇格決定戦を勝ち抜けるかどうかだな」


「どうでしょうね」


 俺は、遠くで仲間と話している京南FCの選手たちを見た。


 六部から五年連続で昇格してきたクラブ。


 立派な練習環境を持ち、プロを目指す選手まで集まってくるクラブ。


 正直、羨ましい。


 だが、それ以上に思うことがあった。


「次に当たるときは、勝とうぜ」


 若手がこちらを見た。


「勝つつもりですか?」


「当たり前だろ」


 俺は笑った。


「こっちだって、好きでサッカーを続けてるんだからな」


 環境が違っても、カテゴリーが同じなら対戦相手だ。


 そして、ピッチに立てば、勝ちたい気持ちは変わらない。


 京南FC。


 あのチームがこの先、どこまで上がっていくのかは分からない。


 だが、少なくとも今日、一つだけはっきりした。


 今年の府リーグ一部は、簡単には終わりそうにない。



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