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この街に、プロサッカークラブを。 ~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~  作者: いとやん
第二章 地域定着編

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4年目 第6話 農業事業部を作ろうと思う

「農業事業部を作ろうと思う」


そう言った瞬間、会議室の空気が止まった。


まあ、そうなるだろう。


サッカー事業部を立ち上げたときも、似たような反応だった気がする。


ただ、今回については決して思いつきだけで言っているわけではないのだ。


いや、毎回別に思いつきではないのだが……


話は少し前にさかのぼる。


---


きっかけは、以前、岡本さんと交わした会話だった。


『たぶん今年か、遅くても来年までやな』


『何が?』


『畑や。もう閉めるつもりらしい』


岡本さんの実家は農家だ。


両親が高齢になり、以前のように農作業ができなくなってきているという。


岡本さんも時間があるときには手伝っているらしいが、監督を続けながら農業まで引き継ぐのは難しい。


そして、岡本さんはこんなことも言っていた。


『この辺、似たような家いっぱいあるからな。親が歳とって、子どもは別の仕事してて、継ぐ人間がおらん。うちなんか珍しくもないで』


あの言葉が、ずっと気になっていた。


農業従事者の高齢化や後継者不足。


もちろん、そうした問題があることは以前から知っていた。


ニュースでも何度も取り上げられているし、日本が抱える大きな社会問題の一つだ。


ただ、正直に言えば、どこか遠い場所の話だと思っていた。


京南市に住み、ここで会社を経営しているのに、俺はそのことを身近な問題として考えたことがなかった。


「……これ、うちで何かできないかな」


農業を続けたい人がいて、農地もある。


長年培われてきた技術や経験もある。


それなのに、後を継ぐ人がいないという理由で農業をやめなければならない。


だったら、企業がその受け皿になることはできないだろうか。


そう考えた俺は、企業による農業参入について調べ始めた。


すでに農業に参入している企業の事例。


農地を利用するための制度。


必要な設備や人員。


農作物の販売先や収益構造。


そして、企業が農業を継続していくうえでの課題。


調べてみると、農業は思っていた以上に難しい事業だった。


天候によって収穫量が変わる。


作物によって必要な設備も違う。


栽培の知識や経験も必要になる。


そして何より、農業を始めたからといって、簡単に利益が出るわけではない。


それでも、企業だからこそできることもあるはずだ。


資金や人材を確保し、長期的な計画を立てる。


農業を続けることが難しくなった人たちを支え、次の世代に技術や経験を引き継いでいく。


ノードシードなら、そこにITの知識や技術を生かせる可能性もある。


もちろん、何が必要なのかは現場に入ってみなければ分からない。


最初からシステムを作ることを目的にするつもりはなかった。


さらに、会社として農業に取り組むことで、新しい雇用も生み出せる。


IT以外の仕事に挑戦したい社員にとっても、京南FCの選手たちにとっても、新しい選択肢になるかもしれない。


収穫した野菜を社員食堂や保育園の給食に使ったり、子どもたちの農業体験につなげたりすることもできそうだ。


「……結構、可能性があるんじゃないか?」


会社の理念である地域貢献や、社会課題への対応という意味でも、最も分かりやすい形の一つではないだろうか。


検討する価値は十分にありそうだ。


ただし、これはあくまで構想だ。


会社として動く以上、実際に事業として成立するかが重要だ。


俺は調べた内容を整理し、事業計画のたたき台を作り始めた。


そして、ある程度考えがまとまったところで、伊東に声をかけることにした。


◇


俺は伊東と事業計画書のたたき台を作成し、日下のところに向かった。


伊東は今や俺の右腕的なポジションになっている。


新規事業や新しい取り組みを考える際に、いつも手伝ってもらっている。


本当に頼りになるやつだ。


「農業ですか」


日下は事業計画書に目を通し、顔を上げた。


「うん。地域農業の担い手不足に対して、うちでも何かできないかと考えてるんだ」


「なるほど。ただ、農業はこれまでの事業とはかなり性質が違いますね」


「そう。だから、いきなり本格参入するつもりはないよ。まずはトライアルから始めようと思ってる」


日下は資料の一ページを指した。


「こちらの人員計画ですが、農業経験のない社員をいきなり中心にするのはリスクが大きいと思います」


「そこは俺たちもそう思ってる。いきなり農業経験のある人を大量に採用するわけにはいかないしね」


そう言って、次のページを見せる。


「だから、最初は地元の農家で研修を受けてもらうつもりなんだ」


「研修先の見込みは?」


「まだ決まってない。岡本さんの実家に相談してみようと思ってる」


「なるほど……」


そう言うと、日下はパソコンを操作して画面を見せてくれた。


そこには京南市のサイトが映っていた。


「自治体でも農業の担い手の問題について動いています。明確に企業の募集という案内はしていませんが、一度相談してみるといいでしょう」


「おお! なるほど、相談してみることにするよ。って、これがスッと出てくるってことは、一度検討してみたことがある?」


「はい。新規事業案として挙がったことがありますので」


なるほど、どおりで話がスッと通るわけだ。


「そのときは実際に動かなかった理由って何かある?」


「いえ、大きな理由はありません。事業の採算性が不透明だったのと、単に優先度が高くなかっただけです」


まあ、そうなるか。


どうしても、という理由はないもんな。


しかし、なぜ今か、なぜうちの会社が、というのは役員からも突っ込まれるだろうな……


考えておかないと。


資料を見ながら日下は続けた。


「それと、収益について確認させてください」


日下は事業計画書の収支予測に目を向けた。


「今回の農業事業は、社会貢献を主な目的としているようですが、採算性についてはどうお考えですか?」


「もちろん、将来的には農業事業単体で黒字を目指す。それに、社会貢献だけが目的じゃないんだ」


「というと?」


「もちろん社会貢献、という目的が大きい。ただ、社会貢献だから赤字でもOKでは、会社として事業でやる意味がない。なので農業単体で黒字を目指す」


俺は続けた。


「ただ、最初から利益が出るとは考えてない。農業の経験もないし、設備や人材も何もない。今のサッカー事業部と同じように小さく始めて、収益を出せる構造にしていきたい」


「はい。その形がよいと思います」


「そして、二つ目の目的は将来的に農業DXにつなげていくことを考えているんだ」


日下が少し興味を示した。


「ほう、農業向けのITサービスですか?」


「そう。例えば、作業記録や栽培管理の効率化とかね。農業の現場には、ITで改善できることがあると思うんだ」


「確かに、それなら当社の強みを生かせそうですね」


「でも、最初からシステムを作って売るつもりはないよ」


俺は続けた。


「まずは自分たちで農業をやってみる。現場で何が大変なのか、どんな課題があるのか、どんな仕組みがあれば助かるのかを知る。そのうえで、必要なものを作りたいんだ」


「自社の農場を、開発したシステムの実証の場にもするわけですね」


「うん。そこで本当に役に立つことが確認できたら、それをサービスとして展開していきたい」


日下はしばらく考えてから、うなずいた。


「分かりました」


「サッカー事業で掲げている共存共栄にも、この農業DXが絡めていけそうですね」


ここまで黙っていた伊東も意見を言ってくれる。


おお、いい意見じゃないか!


「確かに、食品系の企業と共同でできることもあるだろうな」


「方向性について承知いたしました。この方針で計画書の作成を進めて、役員会に持っていきましょう」


「おう」


──数日後、俺と伊東は京南市役所を訪れた。


市としても地域の課題に対して企業が動くことになるので、歓迎してもらえた雰囲気だ。


市内で比較的大きく農業を営んでいる方に、研修の受け入れを相談していただけることになった。


◇


そして、時間は経営会議に戻る。


「農業事業部を作ろうと思う」


俺の発言を聞いた役員たちは、予想どおりの反応を見せていた。


「……農業?」


「社長、今度は何を言い出すんですか?」


「サッカー事業部も、まだ収益化には時間がかかりますよね?」


次々と質問が飛んでくる。


まあ、そうだよな。


「まあ、ちょっと待って。今回はちゃんと事業計画も用意してるから」


「今回は?」


誰かが小さくつぶやいた。


そこは聞き流す。


「日下さんは、この話をご存じだったんですか?」


一人の役員が尋ねた。


「はい。事業計画書は事前に確認しています」


日下が答えると、会議室に別の驚きが広がった。


「えっ、では、どうして事前に共有されなかったんでしょう?」


視線が俺に集まる。


「いや、せっかくなので、少し驚かせようかと」


日下が苦笑した。


「……社長、そういう演出は必要ありませんよ」


「はは、ごめん。じゃあ、真面目に説明するよ」


伊東は横で小さくため息をついていた。


気を取り直して、俺は資料を配った。


「まず、なぜ農業事業部なのか、その理由から説明するね」


俺は、岡本さんの実家の話をした。


農業従事者の高齢化。


後継者不足。


耕作を続けられなくなる農家。


そして、引き継ぐ人がいないまま失われていく経験や技術。


「農業の後継者不足が社会問題になっていることは、みんなも知っていると思う。でも、俺はそれが京南市でも起きていることを、身近な問題として考えたことがなかったんだ」


役員たちは黙って聞いている。


「うちの会社で、その手助けができないかと思ったんだよね」


一人の役員が手を挙げた。


「社長のお考えは分かりました。ただ、農業は当社の本業とはまったく違う分野です。社会貢献という理由だけで、新しい事業を立ち上げるのはリスクが大きいと思いますが」


「うん。そのとおりだね」


俺は資料のページをめくった。


「だから最初から大きく投資するつもりはない。まずは小さく始めて、どれくらいの費用と人手が必要か、本当に事業として成り立ちそうかを確かめたいんだ」


「将来的には、農業そのものでも利益を出すということですか?」


「もちろん。農業生産だけで黒字を出せる事業にしたいと思ってる。社会貢献だから赤字でも構わない、という考え方にはしたくないからね」


そこで俺は、次の資料を示した。


「それと、もう一つ。将来的には農業DXも事業に育てたいと思ってる」


「農業向けのITサービスですか?」


「うん。例えば、農作業の記録や栽培管理、出荷管理なんかだね。ただ、実際にどんな課題があるのかは、現場に入ってみないと分からない」


「なるほど。自社の農場で課題を見つけて、ITで改善していくわけですね」


「そういうこと。そこで本当に役に立つ仕組みができたら、ほかの農家にも提供できるかもしれない」


役員の一人が考え込むように腕を組んだ。


「ただ、社長。一つ疑問があります」


「うん。何かな?」


「農業DXを目指すのであれば、既存の農家と提携してシステムを開発する方が効率的ではありませんか? わざわざ自社で農業を始める必要があるのでしょうか?」


もっともな質問だ。


実際、IT事業として考えるだけなら、その方が合理的かもしれない。


「それも一つの方法だと思うよ。実際、農業DXだけを目的にするなら、そうした方が早いかもしれない」


俺は一度言葉を切った。


「でも、今回やりたいのは、システム開発だけじゃないんだ」


役員たちの顔を見渡す。


「まずは、後継者がいなくて農業を続けられなくなる人たちの受け皿を作りたい。農地や技術を引き継いで、農業そのものを続けていける会社にしたいんだ」


「なるほど……」


「そのうえで、自分たちも実際に農業をやることで、現場の苦労や課題を理解できると思ってる。農家の人たちと一緒に働いて、何が本当に必要なのかを知りたいんだよね」


俺は続けた。


「それに、うちで使って役に立った仕組みなら、ほかの農家にも自信を持って提案できると思う。もちろん、うちだけで全部分かるとは思ってないから、地元の農家の人たちにも協力してもらいたいけどね」


「つまり、農業の継続そのものが目的であり、DXはその先にある事業展開ということですね」


「うん。そう考えてる」


別の役員が質問した。


「農業DXの収益で、農業生産の赤字を補うという考え方でしょうか?」


「いや、それは違うかな」


俺は首を振った。


「農業は農業で黒字を目指す。DX事業は、また別の収益源として育てたいんだ」


そこで日下が口を開いた。


「その点については、私からも補足します」


日下は資料を開いた。


「今回の計画では、農業生産の収支を独立して管理する方針です。当初は研修や設備の準備に費用がかかるため、一定の赤字を想定していますが、将来的な黒字化を目標としています」


役員たちは資料に目を落とした。


「農業DXについては、現段階では将来構想です。具体的な開発投資や売上は、今回の収支計画には含めていません」


「つまり、今回承認するのは農業への参入だけ、ということですか?」


「正確には、農業参入に向けたトライアルの実施です」


日下はそう答えた。


「正式な農業事業部の設立や、農業DX事業への投資については、今回の結果を踏まえて改めて判断することになります」


「分かりました」


そこで伊東が、トライアルの具体的な計画を説明した。


まずは地元農家で研修を受ける。


研修で学んだことや、実際に感じた課題を整理する。


その後、岡本さんの実家と近隣二軒に協力をお願いし、合わせて約一ヘクタールの農地で栽培を試す。


地元農家の力を借りながら、社員三人を中心に進める計画だ。


「農業経験者はいるんですか?」


「新しくジュニアチームの指導に加わってもらう予定のコーチが、実家で農業を経験しています。その人にも協力してもらいたいと考えています」


伊東が答える。


「ほかの二人は?」


「一人は農業専任として配置する予定です。もう一人はサッカー事業部と兼務してもらいたいと考えています」


「三人で一ヘクタールですか」


「はい。ただ、農家の方々の協力が前提です。作業内容や栽培する作物についても、研修を通じて検討します」


もちろん、三人の配置が確定しているわけではない。


本人たちへの正式な打診も、これからだ。


続いて、費用と収益について説明した。


農業機械をすべて購入するのではなく、当初は借用や共同利用を検討する。


作物の販売だけで初年度から十分な利益を出すのは難しい。


だからこそ、期間と予算を区切り、収穫量や収支だけでなく、作業に必要な人員や時間、今後の継続可能性を検証する。


その後も、いくつかの質問が続いた。


人件費はどうするのか。


農作物が予定どおり収穫できなかった場合はどうするのか。


地元農家との役割分担はどうするのか。


サッカー事業部の運営に支障は出ないのか。


伊東と俺で答えられるものは答え、まだ確認が必要なものは課題として整理した。


その中で、また厳しい質問も来た。


「この農業事業部は、サッカー事業部の社員の新たな受け入れ先として想定していませんか?」


「それももちろんあるよ。ただ、サッカー事業部は抜きにしても、会社として意味があると思ってる」


俺は続けた。


「IT以外の仕事に挑戦したい社員の選択肢を増やせるし、新しい分野の技術を身につけることにもつながるからね」


「なるほど、承知しました」


ほっ、サッカー事業部ありきじゃないと理解してもらえてよかった。


その後も細かい質問は続いた。


最後に、俺は改めて役員たちを見渡した。


「今回の農業参入は、地域の農業を守りたいという思いから始まった話なんだ」


俺は続けた。


「でも、社会貢献だから赤字でも構わない、とは考えてない。農業そのもので利益を出して、長く続けられる事業にしたいと思ってる」


そして、もう一度資料に目を落とした。


「そのうえで、将来的には農業DXにも挑戦したい。農業の現場を知っているIT企業だからこそ作れるものが、きっとあると思うんだ」


もちろん、今の段階では構想にすぎない。


本当に事業として成立するかどうかは、これから確かめなければならない。


「まずは、その可能性を確かめるためのトライアルを始めたい。今回承認してほしいのは、そこまでだよ」


会議室が静かになった。


やがて、一人の役員が口を開いた。


「分かりました。正式な事業化は改めて判断するという条件なら、まずは試してみる価値があると思います」


ほかの役員たちもうなずいた。


そして、最終的に。


農業トライアルの開始が承認された。


「ありがとう。みんなの意見も踏まえて、慎重に進めていくよ」


日下が言った。


「社長、念のため確認ですが、今回承認されたのはトライアルまでです」


「うん。正式な事業部の設立も、農業DXへの投資も、結果を見てから判断するよ」


「承知しました。では、予算管理はこちらでも進めます」


「頼むよ」


こうして、ノードシードの新しい挑戦が動き始めることになった。


◇


経営会議が終わった後、俺は田中を呼んだ。


「社長、何か用ですか?」


「うん。以前相談してもらった件の続き」


「……はい」


「実は、新しく農業の事業を始めようと思ってるんだ」


「……農業?」


田中が首をかしげた。


「そう。まずはトライアルなんだけどね」


俺は、岡本さんの実家の話から始めた。


農業を続けたくても、後継者がいない人たちがいること。


長年培われた経験や技術が、引き継がれないまま失われてしまうかもしれないこと。


そして、ノードシードとして、そうした人たちを支える事業を作りたいと考えていること。


田中は、途中で口を挟まずに聞いていた。


「……すごい話ですね」


「そうかな」


「いや、だって、農業の事業を新しく始めるんですよね?」


「うん。簡単じゃないと思う」


「ですよね」


「でも、ちゃんと取り組めば、地域の人たちの役に立てると思うんだ」


俺は田中を見た。


「それでさ。田中にも協力してほしい」


「……俺ですか?」


「そう」


「農業に?」


「うん」


田中はしばらく黙っていた。


「社長、俺、農業なんてやったことないですよ」


「知ってるよ。田中はさ、今まで仕事でもサッカーでも、ずっと真面目に取り組んできただろ」


「……そうですかね」


「そうだよ。うまくいかないことがあっても、途中で投げ出したりしなかった」


田中は少し困ったような顔をした。


褒められることに慣れていないのかもしれない。


「農業って、きっと地道な仕事だと思うんだ。毎日畑を見て、作物の状態を確かめて、少しずつ覚えていく。簡単に結果が出る仕事じゃないと思う」


「はい」


「それに、地域の農家の人たちに協力してもらう以上、信頼してもらわないといけない」


俺は続けた。


「そういう仕事だからこそ、田中にやってほしいんだ」


「……」


「農業の知識は、これから学べばいい。もちろん、会社としてできる限り支える。でも、何に対しても真面目に向き合う姿勢って、簡単に身につくものじゃないと思うんだよね」


田中は何も言わなかった。


「俺は、田中ならできると思ってる」


そこで、一度言葉を切った。


田中の目を見て言った。


「だから協力してほしい。これから一緒に、農業事業部を作ってくれないか?」


田中は視線を落とした。


しばらく、沈黙が続いた。


「……正直、自信はないです」


「うん」


「農業なんて知らないですし、今の仕事だって、そんなにうまくできてるわけじゃないですから」


「それは、これから覚えていけばいいよ」


「でも……」


田中は少し考えてから、顔を上げた。


「社長は、本当に俺にやってほしいんですか?」


「うん。田中がいいんだ」


「……分かりました」


田中は、ゆっくりとうなずいた。


「やらせてください」


「本当?」


「はい。俺にできることがあるなら、やってみたいです」


思わず笑顔になった。


「ありがとう。頼りにしてるよ」


「ただ、本当に何も分からないんで、いろいろ教えてもらわないといけないと思います」


「もちろん。研修先も探してるところだし、農業経験のある人にも参加してもらう予定だから」


「それなら、少し安心です」


「俺も勉強するつもりだよ」


「社長も農作業するんですか?」


「そりゃあ、もちろん。ITだってサッカーだって俺はちょっとはできるんだぜ。農業だって会社の事業になるんだから、社長として少しは知っておきたい」


「……本当ですか?」


「本当だって」


田中が少し笑った。


「じゃあ、楽しみにしてます」


「……ほどほどにね」


こうして、農業事業に向けた最初の仲間が決まった。


もちろん、まだ事業部は存在しない。


農地も正式には決まっていないし、研修だってこれからだ。


そもそも、俺たちは農業について知らないことばかりだ。


それでも、一緒にやってくれる人がいる。


一人ではできないことも、仲間がいれば少しずつ形にしていける。


京南FCを始めたときも、そうだった。


きっと今回も、同じだろう。


さて。


まずは、畑仕事ができる服を買わないとな。


……スーツで行ったら、さすがに怒られるよな。

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