4年目 第5話 四年目
四年目のシーズンが終わった。
結果は、京都府リーグ三部二位。
来季の二部昇格が決まった。
これで創部から四年連続の昇格になる。
ただ、これまでとは少し違う。
一年目から三年目までは、毎年リーグ優勝をして昇格してきた。
だが今年は初めて優勝を逃した。
友近が抜けた影響は、やっぱり大きかったと思う。
勝てない試合も増えた。
点が取れない試合もあった。
守備が崩れる試合もあった。
それでも二位、昇格という結果は残した。
やはり最初に入団してくれた面々が四年鍛えられて成長していることが大きい。
新戦力も活躍してくれている。
橋本も早くこの流れに乗って活躍してほしいな。
岡本さんもうまく戦力を活用してくれている。
一部、最近はあまり出られていない選手もいるが仕方がないと思う。
さて、来年は京都府二部。
二部まで来ると、ようやくおぼろげながらその上の地域リーグが見えてきた気がする。
このままの路線で上に上がれたらいいが……
そんなことを考えながら、京南FCの四年目が終わった。
◇
そして年末。
今年も経営会議の時期がやってきた。
「では次、サッカー事業部についてです」
俺は資料を見ながら伊東の発表を聞く。
毎年恒例だ。
事業なんだからきっちり報告しなきゃな。
ただ、今年は今までよりも報告がしやすい。
スポンサー獲得が去年よりも伸びたし、単価も上がったこともあって収益がかなり改善されたからだ。
まぁまだ赤字なんだが……
「まず売上ですが、今年は約六千五百万円になりました。
スクールが約三千六百万円。スポンサーが約二千三百万円。物販やイベントなどで約四百万円です」
スクールもサブグラウンド効果もあってか順調に成長している。
来年のジュニアチーム設立に向けて嬉しい材料だ。
それよりもやはり今年は何と言ってもスポンサーだ。
スポンサー収入は、去年の約六百万円から大きく増えた。
スポンサーについては最近手応えを感じるようになってきた。
交流イベントへの出展は好評をいただいているし、採用にも少し効果が出てきている。
来年度からは合同採用イベントなんかも計画しているし、ここもまだまだ伸ばせそうだ。
さらに大きな目標である共存共栄についても少しだけ形ができ始めている。
スポンサー同士、スポンサーとノードシードの事業を組み合わせることが少しずつでき始めているのだ。
「今年の通常経費が約八千五百万円です。
通常運営での赤字は、約二千二百万円まで減りました」
俺は少しだけ胸を張り、発表していた伊東に代わり発言する。
「二年目は五千万以上赤字だったからね。二年で半分以下。どう?」
日下が資料を見ながら答えた。
「まだ二千万円の赤字ですけどね」
「いや、そこは褒めるところじゃない?」
「成長していることは評価しています」
なら最初からそう言ってほしい。
「今年はスポンサー収入がかなり伸びましたね」
「うん。来年も今のスポンサーさんに継続してもらえるようにしたいし、新しいスポンサーも増やしたいと思ってる」
スポンサー企業が増えれば、それだけ収入が増える。
ただ、今はそれだけではない。
スポンサーをすることで京南FC、ノードシードと一緒に成長していける、スポンサーになって良かった。
そう思ってもらえる企業を増やしたい。
「スクールも順調ですね」
「うん。選手の指導も好評で引き続き順調だな。
交流戦もお祭りみたいで人気だ。
来年からジュニアチームもとうとう始めることができる。
スクールの方にも良い影響が出ると思うよ」
「来年度のジュニアチーム自体の収支はほぼトントンの予定ですね。これは何故ですか?」
橋田から質問が入る。
サッカー事業部の報告になるといつもいい質問をしてくれる。
「ジュニアチームは別に儲けるために始めるわけじゃない。
第一の目的はスクールの子たちが、その先も京南FCでサッカーを続けられる場所を作ること。
第二は将来の育成のため。
ジュニアチームの活動を続けてやがて毎年トップに選手を送り出せるようになれば京南FCは継続的に強くなれるはずだ。
また、育成面だけじゃなくて、ジュニアチームが京南に根付いていくと京南の子どもたちはジュニアに入りたがるようになっていくはずだ。
トップチーム、ジュニアチームの両方で地域に根付いていきたいと考えている」
「なるほど、将来に向けての投資みたいなものですかね?」
投資、と言われると少しビジネス感が強いが……
「まぁその理解で大丈夫」
「収支的にトントンで運営できて、それだけの効果が見込めるなら問題ないでしょう。
実際のところジュニアチームに入団希望のお子さんはいるんですか?」
「はい、当初はU-10の一チーム想定でしたが、現時点で予想以上の申し込みがあり二チームできるくらい人数は揃っています」
問題になっていた指導者についても十年以上京都の南部でジュニア年代の指導をしていた方に入社いただくことになったので解決している。
保護者、子どもたちからのもっと試合がしたい、大会に出たいという要望に応えられそうで良かった。
子どもたちが成長し、上の年代に進むころにも継続できていれば、上の年代のチームを作ることも考えよう。
「ということで」
俺は資料を一枚めくった。
「サッカー事業部の赤字は、かなり減りました」
「通常運営では、ですね」
日下が言った。
「……そうだね」
そこはちゃんと言わないといけない。
今年の最終的な赤字は。
約五千五百万円。
去年より増えている。
「サブグラウンドと簡易観客席で約三千万円。ジュニアチームの立ち上げ準備で約五百万円ですね」
「そう」
通常運営で二千万円の赤字。
そこに今年の投資が三千五百万円。
合計で約五千五百万円。
数字だけ見れば二年目とほとんど変わらない。
でも中身は違う。
今は通常運営なら赤字は二千万円まで減っている。
今年赤字が増えたのは来年以降のために、俺たちが自分たちで決めて投資したからだ。
「投資については事前に承認済みのため今さらとやかくは言いません。
来年以降も事業として合理性があり、回収できる見込みがあるなら検討しますので、事前に必ず協議してください」
日下は少しだけ釘を刺してくる。
調子に乗るなってことかな。
久世は 今の言葉を ふかく心に きざみこんだ。
「会社が成長しているからできている部分も大きいですからね」
「そうだな」
そこは忘れちゃいけない。
ノードシードの本業が成長している。
だからサッカー事業部にも投資できる。
もし会社の成長が止まれば同じことを続けられるとは限らない。
それでも。
サッカー事業部が会社からお金を出してもらうだけの存在ではなくなってきている。
スクールがある。
スポンサーがいる。
イベントがある。
まだ赤字だけど。
少しずつ事業になってきている。
「AIトレーナーについても将来的に事業化できそうですね。サッカー事業部から生まれた思わぬ副産物です」
「そうそう、他のジムにも導入予定だし成長していけそうだ」
「サッカー事業部のおかげだ! なんて言わないでくださいね」
「分かってるわい!
これも他部署の、いや会社全体でのサポートのおかげだよ」
役員たちに笑いが起こる。
「分かっていれば問題ありません」
その後も細かい質問はあったが概ね問題なくサッカー事業部の報告は終わった。
これで四年、か。
少しだけ振り返る。
一年目。
サッカーチームを作った。
二年目。
スクールが一気に増えた。
三年目。
スポンサーや地域とのつながりが増えた。
四年目。
グラウンドが増えて。
観客席ができて。
交流戦が地域イベントに成長した。
順調に成長してきていると思う。
来年は五年目。
また新しい一年が始まる。
「他に議題がなければ今日は以上にしようと思います」
「あ、ちょっと待って」
俺は声を上げた。
皆がこちらを見る。
「あと、もう一つ相談したいことがあるんだけど」
皆がまたか、という顔をしている。
「農業事業部をやろうと思う」
会議室が静かになった。




