4年目 第2話 成長する会社と事業部
今日は京南FCスクールの交流戦だ。
ただの交流戦ではない。
去年から計画していたサブグラウンドと簡易観客席のお披露目なのだ。
これで混雑問題が解消したら良いと思うが、どうだろうか。
最近のスクールは京南市内だけではなく、近隣地域にも増えてきた。
普段はそれぞれの地域で練習している子どもたちが集まり、別の地域のスクール生と試合をする。
最初は本当にそれだけのイベントだった。
でも。
「これが進化した姿か……」
なんて大袈裟に言ってみる。
サブグラウンドの周りには、いくつものテントが並んでいる。
食べ物を売る屋台。
スポンサー企業の商品を紹介するブース。
ノードシードの企業紹介ブースまである。
少し離れた場所では、まだスクールに入っていない子どもたち向けにサッカー体験も行われていた。
ボールを蹴った子どもが笑いながら走り、その後ろをスタッフが追いかけている。
メイングラウンドでは、もうすぐ交流戦が始まる。
新しくできた観客席には、子どもたちの家族が座り始めていた。
「これ、もう交流戦っていうより地域イベントだな……」
「実際、そんな感じになってきてますね」
伊東が笑う。
去年までは人が増えるたびに、場所が足りない、駐車場が足りない、ゴミ箱が足りないと問題ばかり増えていた。
もちろん、全部解決したわけじゃない。
でもサブグラウンドが一つ増えただけで、かなり違う。
「作って良かったな」
「三千万円かかってますけどね」
「……それは今言わなくていいよ」
伊東が笑った。
伊東と話をしていると、一人の男性に声をかけられた。
「久世社長、お久しぶりです。
伊東さん、こんにちは」
「あ、お久しぶりです。」
「中西さん!来てくれたんですね」
中西さんは京南市役所の職員だ。
サッカー事業部立ち上げのときから何かとお世話になっている。この間の地域イベントの件でもお話を頂いた間柄だ。
「伊東さんが何度も一度見に来てくれって言うからじゃないですか。課長を説き伏せて来ましたよ」
「それはありがとうございます!
今日はいろいろ見ていってくださいね」
おお、伊東と何だか仲が良さそうだ。
結構長い付き合いになるもんな。
「ずいぶん大きくなりましたね。市としても、こうやって子どもたちがスポーツに触れる機会が増えるのはありがたいです」
「ありがとうございます。子どもたちからも好評で人数が予想以上に多くなっちゃったんで、グラウンド増設したりしたんですよ」
俺は新しく作ったサブグラウンドを見る。
「なるほど、ノードシードさんも苦労されてますね。しかしサッカーだけじゃなくて地元企業の出展もあるのが市としても嬉しいですね」
「ありがとうございます。お陰様で地元企業様にもご支援いただけるようになりました」
「素晴らしいですね。またスポーツに触れる機会については、市としても少し考えていることがありまして」
「そうなんですか?」
「はい。また一度、ゆっくりお話しできればと思います」
「分かりました。ぜひお願いします」
◇
交流戦が始まった。
「行けー!」
「頑張れー!」
観客席から声が飛ぶ。
普段は違う場所で練習している子どもたちが、今日は同じユニフォームを着て戦っている。
──ちなみにビブス問題は、皆が持ち回りで平等な回数になるように配慮されている。
俺は試合を少し見たあと、伊東と一緒にブースを回った。
「こんにちは」
「あ、久世社長」
スポンサー企業の担当者が笑顔で迎えてくれる。
「どうですか?」
「いいですね。思っていたより人が多いです」
担当者は周囲を見る。
「普段、地域の方と直接話す機会って意外と少ないんですよ。こういう場所があるのはありがたいです」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
別のスポンサーからも似たような話を聞いた。
商品を実際に手に取ってもらえる。
会社を知ってもらえる。
子どもやその家族と直接話ができる。
「次回もぜひ参加させてください」
そんな言葉まで出てくる。
少し前まで。
スポンサーといえば、俺の中ではお金を出してもらう存在だった。
ユニフォームにロゴを載せる。
ホームページに会社名を載せる。
でも今は少し違う。
京南FCに人が集まる。
その人たちとスポンサー企業がつながる。
スポンサー企業同士が話をする。
そこから新しい仕事が生まれることもある。
あの時。
俺たちがスポンサーを集めるために考えた言葉。
共存共栄。
少しずつだけど。
本当に、そんな形になってきているのかもしれない。
◇
「社長、こちらが今年からスポンサーになっていただいた――」
伊東に紹介され、俺は一人の男性と名刺を交換した。
京都府内でスポーツ用品店を展開している会社だ。
京都では三番手くらいの規模らしい。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、ありがとうございます」
今回の交流戦や普段の練習用に、ボールやビブスなどを提供してもらっている。
京南FCにとっては、かなりありがたいスポンサーだった。
話を聞くと、少し面白い事情もあった。
京都で一番、二番と言われるスポーツ用品店は、すでにヴァイオレット京都との関係が深い。
同じようにそこへ入っていくより。
これから大きくなる京南FCと早い段階から関係を作りたい。
そう考えてくれたらしい。
「一緒に大きくなれたら面白いですよね」
そう言われた。
嬉しい言葉だった。
少し前なら。
俺たちがそんなことを言ってもらえるクラブになるとは思わなかった。
◇
そのスポーツ用品店とは、別の話も始まっていた。
AIトレーナーだ。
以前から、地元のスポーツジム一店舗で試験的に使ってもらっていた。
それが思っていた以上に評判が良かったらしい。
「京南市内と近隣のほかの店舗にも入れたいそうです」
後日、担当者から報告を受けた。
「本当に?」
「はい。今、条件を詰めています」
京南FCの選手たちのために作り始めたものだった。
それを一般の人が使う。
しかも、一店舗だけではなくなるかもしれない。
さらに新しくスポンサーになったスポーツ用品店も、この話に興味を示した。
ノードシードがシステムを作る。
スポーツジムで使ってもらう。
スポーツ用品店が持っているスポーツ業界とのつながりも活用する。
「三社で何かできそうですね」
そんな話が出始めている。
まだ何ができるのかは分からない。
事業になるのかも分からない。
でも。
スポンサーから支援してもらうだけじゃない。
俺たちの技術が、スポンサーの新しい仕事につながるかもしれない。
それも一つの共存共栄なのだと思う。
◇
交流戦は盛況だった。
でも。
順調に大きくなれば、また新しい問題も出てくる。
「社長」
試合の合間に、一人の保護者から声を掛けられた。
もう社長=俺と皆さんに認知いただいているので、こうやって声を掛けてもらうことも多い。
「京南FCって、子どものチームは作らないんですか?」
「チームですか」
「はい。ほかのクラブと試合したり、大会に出たりするような」
「ああ……」
最近、よく聞かれる質問だった。
交流戦はある。
でも、これは京南FCの各地域のスクール生同士が試合をするものだ。
外部のクラブと公式戦をするわけではない。
「うちの子も、もっと試合したいって言ってるんです。クラスの別のサッカークラブに通ってる子から話を聞いて」
「そうなんですね」
「コーチや指導の仕方が良いので、そのまま京南FCでできるなら、それが一番いいんですけど」
「ありがとうございます。今、ちょうど検討しているところなんです」
嘘ではない。
同じ要望は、ほかの地域からも上がっていた。
実際。
試合や大会にもっと出たい。
そういう理由で、京南FCのスクールを辞めて別の少年サッカーチームへ移る子もいる。
交流戦だけでは足りなくなってきている。
子どもたちが求めているのは。
京南FCのスクールに通うことだけではない。
チームメイトや友達と一緒に大会に出てみたいんだ。
「やっぱり増えてますね」
保護者と別れたあと、伊東が言った。
「うん」
「ジュニアチーム、本格的に考えます?」
俺はメイングラウンドを見る。
子どもたちがボールを追いかけている。
「そうだな」
スクールを始めた時は、ここまで考えていなかった。
サッカーをする場所を作れればいい。
そのくらいだった。
でも。
子どもたちも、その先へ行きたくなっている。
「そろそろちゃんと考えないとな」
◇
大きくなっているのは、京南FCだけではない。
ノードシードも同じだった。
既存事業が成長し、取引先や売上も増えた。
地域企業のDX事業などの新規事業も増えた。
もちろん、サッカー事業部もその一つだ。
そしてAIトレーナーも、少しずつ外へ出始めている。
今後、スポーツテック事業として大きくなってくれることを期待している。
会社が大きくなるにつれて、働く人たちの環境も少しずつ変わっていた。
その環境の変化に対応する施設──ノードシードの保育園──が完成した。
三年前に市役所と話をした頃から、少しずつ進めてきた。
建物を用意するだけでは駄目だ。
保育士さんなど、新しい人も必要。
近隣住民受け入れのための制度や説明会なども必要。
安全面、衛生面も考えなければならない。
保育園用の給食のために、社員食堂も施設や職員を増やした。
一部の食堂のおばちゃんは小さい子用のご飯作りを楽しみにしているようで、食育の勉強や資格を取る人も出ている。
準備には思っていた以上に時間と労力がかかった。
それがようやく完成した。
「社長、ありがとうございます」
利用予定の社員から声を掛けられた。
「本当に助かります」
「良かった」
「保育園探すの、結構大変だったんですよ。
送り迎えも別の場所だと、また大変ですし」
と笑顔で教えてくれた。
確かに会社内に保育園があれば送迎も楽だし、気になれば見に行くこともできるもんな。
「そうなんだ、それは良かった」
俺にはまだ子どもがいない。
だから分からないことも多い。
でも、こうやって実際に働いている社員から言ってもらえると、作って良かったと思う。
「こういうのも採用につながるといいな」
俺が言うと、一緒にいた社員が笑った。
「ですよね~。就職先を探す時にアピールになりますよ。別の会社の友達にも、いいな〜って言われましたし」
すぐに何かが変わるとは思っていないが、少しくらい期待してもいいだろう。
保育施設を作ったからといって、次の日から応募者が何十人も増えるわけじゃない。
それでも、ノードシードで働こうと思ってくれる理由の一つになればいい。
それで十分だ。
「あ、ちなみにウチの保育園でもサッカースクールをやる予定なので、良かったら参加してよ」
「長谷川君がコーチに来るんですか? うちの子は女の子ですが、参加しようと思っています」
「それは良かった」
せっかくウチに保育園を作るので、最新のITに触れる機会を作ったり、京南FCのスクール活動をしたりと考えている。
こんなところからでも社内で応援してくれる人が増えたらいいな。
◇
直接会社や事業部の成長には関係していないが、Webサイトへのアクセスは順調に伸びている。
川﨑、篠宮さんの対応のおかげか、今では府リーグや社会人サッカー、地域リーグの仕組みなどで検索しても、京南FCサイトが引っかかる状態になっている。
また、昨年末に移籍した友近に関する検索でのアクセスも増えている。
JF2で今季加入の期待の若手として紹介されて以降、急増している。
友近応援の記事を継続的に載せているのが功を奏しているようだ。
頑張れよ、友近。
◇
その日の夕方。
俺はもう一度グラウンドへ戻った。
交流戦は終わりに近づいている。
メイングラウンドでは最後の試合。
観客席から保護者が声援を送っている。
サブグラウンドでは、小さな子どもがボールを蹴っている。
屋台。
スポンサー企業のブース。
ノードシードのブース。
たくさんの人が歩いている。
四年前。
俺はサッカーチームを作ろうと思った。
最初は、それだけだった。
今は違う。
トップチームがある。
スクールがある。
スポンサーがいる。
グラウンドが二つになった。
観客席もできた。
交流戦には、これだけの人が集まるようになった。
スポンサーとの間から、新しい仕事まで生まれ始めている。
会社には保育施設までできた。
「大きくなったなあ……」
自然とそんな言葉が出た。
トップチームは今年、少し苦戦している。
思ったように勝てない試合も増えた。
スクールには、ジュニアチームを作るという新しい課題も出てきた。
会社だって、これから問題はいくらでも出てくるだろう。
それでも。
四年前にはなかったものが。
今は、こんなにある。
グラウンドから歓声が聞こえた。
見ると、子どもたちがゴールを決めて喜んでいた。
俺も少しだけ笑う。
京南FCも。
ノードシードも。
まだまだ大きくなっていく。
そんな気がしていた。
新しいサッカー小説をアップしました。
京南FCとはかなり読み味が違う物語です。
もしタイトルで気になったら御一読いただけると嬉しいです。
短い話になリますので。完結まで一気に投稿します。
10回ループするまでにサッカー日本代表にならないと人類滅亡ってそりゃないよ
https://ncode.syosetu.com/n5157mw/




