↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この街に、プロサッカークラブを。 ~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~  作者: いとやん
第一章 創設編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/52

0年目 第4話 監督候補

第4話 監督候補



翌日、

俺は事業計画を日下に見てもらっていた。

俺の横には伊東と佐藤が緊張した顔で控えている。


日下は俺の向かいに座り、パソコンの画面を見ながら資料を確認している。


京南FCの目的と方針。


初期投資の予算、ランニングコスト、収支予測。


選手の雇用形態。


地域活動。

練習環境。


今後必要になる設備。


そして、どのようにプロを目指すという長期的な目標と展望。


現時点で必要と思われることを、一通り詰め込んだ。


「思ったよりもまともで安心しました。

 収支も赤字ですが、許容できる範囲です。

 今後の予測も悲観的、楽観的の両方で予測しているのが良い。これは佐藤さんがまとめました?」


「は、はい!」


「よく出来てますね。伊藤君の担当分も情熱を持ってまとめてくれたのがよく分かります。」


「あ、ありがとうございます!」


こいつはちゃんと部下を褒めるタイプだ。

その優しさを少し俺に向けてくれてもいいんだぜ?

伊東も佐藤も少しホッとした雰囲気になっている。


「そして社長、もっと夢物語を語り出すのかと思っていました。」


「何を言うんだ日下君、私は常に現実的な経営者ですよ」


「思いつきでサッカー事業部を作ろうと言い出した社長です」


思い付きではないのだが、何も言い返せない。


「専用スタジアムを建てる、とか言い出さなくて安心しました」


「それはいつか欲しい」


「今は必要ありません」


「はい、知ってますよ」


日下はしばらく資料を確認してから、画面を閉じた。


「基本方針としては、これで構わないと思います」


「おお!」


思わず声が出た。伊東も身を乗り出している。


「ただし」


出た。


日下のただし。


この言葉の後に、俺にとって都合のいい話が続いた記憶はあまりない。


「この計画には、撤退条件がありません」


「撤退?」


「はい」


日下はパソコンをこちらへ向ける。


「新規事業を始めるのであれば、始める条件だけではなく、やめる条件も決めておくべきです」


「なるほど」


言われてみれば、その通りだ。


俺はどうやって京南FCを作るか、作った後にどうやって成長させるか、ばかり考えていた。


確かに事業なんだから、全く向上する見込みがないままダラダラと続けるわけには行かない。


まぁそんな状況にはさせないが。


「まず一つ目」


日下が指を一本立てる。


「来年四月までに公式戦へ参加できる体制を作れなかった場合」


「来年四月?」


「府リーグが始まるまでに必要な選手が集まらず、そもそも試合に参加できないような状態です」


「ああ、それは……」


少し考える。


確かに。


一年以上会社として動いて準備して、それでもチームすら作れなかった。

それはハッキリ言ってやる気が無いと言えるだろう。

元々一年で準備する想定だし、俺はやる気に満ち溢れているし問題なし。


「分かった。それはいいよ」


「では、二つ目」


日下が二本目の指を立てた。


「事業開始後、重大な課題が発生し、その課題に対して二年程度、明確な改善が見られなかった場合。事業継続そのものを役員会で再検討します」


「二年か」


「長いですか?」


「いや、逆。思ったより待ってくれるんだなって」


日下が少しだけ眉を上げる。


「課題が発生したから即撤退では、新規事業などできません」


それもそうか。


「赤字になること自体は、今の計画でも想定しています。府六部のサッカーチームが最初から大きな利益を出せるとは考えていません」


「うん」


「重要なのは、課題に対して改善しようとしているか。そして実際に改善しているかです」


日下は淡々と話す。


「集客かもしれません。選手の勤務制度かもしれません。地域活動かもしれません。想定以上に費用がかかる可能性もあります」


それは確かにどれも発生し得るものだ。

しかしこれだけポンポン出てくるってことは日下も色々考えてくれてるな。


「改善しない事業を、社長の夢だからという理由だけで続けることは認めません」


「分かった。その条件も入れよう。

 正しい意見をありがとう。」


自分でも驚くくらい、すんなり言えた。


もちろん京南FCをやめるつもりなんてない。


その条件に引っかからなければいいだけだ。


「前回の役員会では反対している雰囲気だったのに結構自分でも考えてくれてるんだな」


「社長の言い出した新事業を部下の私が最初から無視するわけにはいかないですからね。」


と、少し笑って言った。

こいつはやはり出来るやつだ。

関係を大切にしよう。


「では、撤退条件を追加して、次回の役員会に提出しましょう」


「おう」


ようやく。


本当に始められる。


そんな気がした。


     ◇


数日後。


サッカー事業部の事業計画は、役員会で正式に承認された。


当然、いくつか質問は出た。


本当に選手を正社員として雇うのか。


勤務時間はどうするのか。


サッカー事業が会社に何をもたらすのか。


どうやって勝つつもりなのか。

京南FCの目指すサッカーはどのようなものなのか。


現時点では答えられないものも含め誠実に回答した。というか最後の方の質問したやつはサッカーファンだろ。ファンなら手伝ってくれよな


そして最後に。


「管理本部としても、撤退条件を含めたこの内容であれば問題ありません」


日下がそう言ってくれた。


それが大きかったのだと思う。


最終的に、計画は承認された。


京南FC。


まだ選手は一人もいない。


監督もいない。


試合もしたことがない。


それでも今日からは、俺が勝手に言っているだけのサッカーチームじゃない。


ノードシード株式会社の正式な事業になった。


会議室を出た瞬間、俺は大きく伸びをする。


「よっしゃ!」


思ったより大きな声が出た。


それを見ていた伊東と佐藤も駆け寄ってくる。


「やりましたね!」

「おう!君たち2人の尽力のおかげだ、ありがとう」

「いえいえ、良かったです。」


「君たち2人は引き続きサッカー事業部立ち上げプロジェクトに入ることが役員会で決まったので、これからも宜しく!!」


「了解です!」と元気よく伊東。やる気があって何よりだ。

「人増やして貰えるんですよね?」と佐藤。もっと喜んでもいいのよ。


「要員は来月くらいから増える予定。

さあようやく本当のスタートラインだ!」


     ◇


「多いな」


「多いですね」


「多いです」


翌日。


俺と伊東と佐藤は、会議室のホワイトボードを眺めていた。


そこには、これからやることがびっしり書かれている。


選手募集。


監督。


スタッフ。


府リーグへの登録。


練習場。


トレーニング設備。


ユニフォーム。


選手の勤務制度。


食事。


広報。


地域活動。


他にも細かいものを入れれば、まだまだある。


「さて、優先順位を付けて動いていこうか。

どれも必要なので時間がかかるやつ、外部に関係あるものが優先だな」


「そうですね。」


「佐藤さん、来月から入った人が動けるようにタスク管理システムに登録お願い。優先順位は仮でいいから、後でチェックしよう。」


「分かりました。」


「伊東は京都府サッカー協会と市役所にアポをとってくれ」


「了解です。

 確かにその2つは外部の最優先ですもんね。

 サッカー協会に登録しないと試合に出れないし、登録に必要なものが何か現状分からないですし。

 市役所は横の土地の練習場の件ですよね?」


「そうそう、その通り」


伊東はかなり考えてくれているな、ありがたい。


「選手募集も時間がかかりますが、どのように動きますか?」と佐藤。


佐藤もいい質問だ。


「そうだな、とりあえず会社のサイトの採用ページに載せておこうか。それだけでは来ないから別の手段も当然考える。」


「まぁそうですよね、来たら超ラッキーですよね」


「選手よりも先に監督だな。」


「監督ですか?」


「そう、監督。実際に選手に指示するのは監督だろ?素人の俺たちが適当に集めるより、監督になる人にも選手を見てもらった方がいいだろ。好みだとか監督の考え方もあるんだろうし」


いくら俺に能力を見る力があったとしても、バラバラに集めても意味無いしな。


「それはそうですね」


「じゃあ監督を先に探しましょうか」


「そうしよう」


「そして物理的に時間もかかる環境面も並行して進めよう」


先ずは練習場。


トレーニング設備も必要だ。


うちの会社で研究しているAIやウェアラブルの技術も使えるかもしれない。


選手の運動量や疲労を記録して、トレーニングに活かす。


どうせなら、普通の府六部のチームではできないようなことをやってみたい。


「設備といえば先ほどの役員会で決まったんだが、サッカー事業部創設に合わせて社員食堂を作ることに決まった。これはサッカー専用じゃなくて通常社員も利用できるやつだ。栄養面でも選手、社員両方をサポートできるようにしたい。」


「おお、ついにですか。

 毎年社内アンケートに食堂が欲しいって書いた甲斐がありましたよ」


「遅くなってすまんな、食堂の方は既に計画が出来上がっていて日下達が動いてくれるから問題ない。年内に完成予定。

俺たちはサッカー選手向けの食事とかの意見を伝えるだけでOK。まぁ向こうにはちゃんとした管理栄養士の人が付くから任せるだけだけど」


「疲れたときに甘いスイーツも欲しいですよね」


「佐藤さん甘いもの好きなんですね」


「メニューについてはそのうち希望アンケートが回ってくるから、思いの丈を書いてくれ」


「分かりました。」


「話は戻りますが、監督はどうやって探すんですか?」


「分からん。当たり前だけどWEBで調べても出てこなかった。

なのでサッカー協会に聞いてみるよ。」


     ◇


その数日後。


俺と伊東は京都府サッカー協会を訪れていた。

まぁ電話だけで済ませても問題なかったのだが、今後のことも考えて挨拶も兼ねて訪問した。


目的は二つ。


一つは、来年度から府リーグに参加するために必要な手続きを確認すること。


こっちは問題なし。


チーム自体は日本サッカー協会への登録が必要で、それとは別に府リーグへ参加するための手続きもあるらしい。


必要な書類や今後の流れについて説明してもらった。


もう一つは。


「監督ですか?」


「はい。まだ決まってなくて」


担当者の永井さんは少し困ったような顔をする。


府リーグへの参加について説明を聞いた後、俺はついでに聞いてみた。


「こういうのって、どうやって探すものなんですか?」


「うーん」


永井さんが腕を組む。


「協会から正式に監督を斡旋する、ということはしていないんですが」


「あ、そうなんですね」


「ただ、指導者を探しているということであれば、何人か心当たりはありますよ」


「本当ですか?」


来た。


聞いてみるものだ。


「もちろん、こちらから推薦するという意味ではありません。先方が引き受けるかどうかも分かりませんし、ご自身で話をしていただくことになります」


「それで十分です」


何もないところから探すより、ずっといい。


いくつか名前を教えてもらった。


大学で指導経験のある人。


社会人クラブに関わっていた人。


元選手。


高校サッカーの指導者。


その中に、一人。


少しだけ説明の長い人がいた。


「岡本義雄さん」


「ん、その岡本さんってあの京都西山高校で監督されていた方ですか?」

と伊東君。急に入ってくるなんて珍しいじゃないか。


「伊東君、知ってるのか?」


「はい、悪い意味の方でですが……」


「おそらく伊東様が考えられている方かと思います。以前、サッカーの強豪校で指導しており、指導経験は長い方なんですが……」


永井さんの言葉が止まった。


「何かあるんですか?」


「以前、指導について問題になったことがありまして」


「問題?」


「指導が厳しすぎた、というところですね。それが原因で高校の監督を辞めています」


なるほど。


それは確かに。


新しく作るクラブの監督候補として、簡単におすすめできる人ではない。


「今は監督してないんですか?」


「少なくとも、高校や社会人のチームではされていないはずです」


「分かりました」


「監督の情報、ありがとうございました。こちらで調べてみます。」


「お役に立てれば幸いです」


「ウチは将来的にプロを目指しています。

 今後とも宜しくお願いします。」


「おお、良いですね!新しい風が入ってくると我々も活性化しますので楽しみです。」


いいね、永井さんとは仲良く出来そうだ。


「というかプロを目指しているのに監督の当てもなかったたんですか?」


「お恥ずかしながら……」


「その分だと選手もまだ揃っていない状態ですかね?選手登録が間に合わないと府リーグの参加も一年後回しになりますのでご注意ください」


「分かりました」

もっとも、その場合はサッカー事業自体から撤退なので後回しにはならないが……


「秋に社会人選手の合同トライアルというものもありますので、もし良かったらお役立てください。」


トライアル!そんなものもあるのか。

秋までに揃わなかったら参加してみよう


「いろいろとありがとうございます!」



     ◇


その日の夜。


家に帰った俺は、教えてもらった監督候補について調べていた。


調べると言ってもその監督のwikiがあるわけでもなく、情報がほとんど出てこない人も多い。


名前で検索しても別人が引っかかったり、良くて過去のチームの活動ページに載っているくらいだ。


これで分かるのは経歴くらいなものか…

写真も出てこないから能力も分からない。


「これは実際に会って話して判断するしかないかな……」


情報不足の中、唯一情報が沢山出てきた人物がいる。


岡本義雄。


そこで手が止まった。


一番検索に引っかかるのは例の指導方法の問題の件。かなり厳しい指導で結果は出していたようだ。


「うーん……」


さすがにこれは。


俺たちは地域活動もする。


子どもとも関わる。


そのクラブの監督が、過去に指導で問題を起こしている。


普通に考えれば、候補から外すところだ。


そう思いながら、もう少し調べる。

何しろ他に調べられる人もほとんどいないからだ。


「あ、この人、出身は京南なのか」


意外とご近所さんなのか


「あれ?」


最近の情報が一つ見つかった。


地域の子どもたちを対象にしたサッカースクール。


参加費。無料。


指導者。岡本義雄。


「……なんで?」


厳しすぎる指導で高校の監督を辞めた人間が。


今は無料で子どもにサッカーを教えている。


掲載してある写真では楽しそうにサッカーをしている様子が写っている。


よく分からない。


だからこそ、気になった。


開催日は――今度の日曜日。


「場所も近いな」


少し考える。


会って話すのは、その後でもいい。


まずは。


「見に行ってみるか。

 外から見てダメそうならやめればいいだけだ」


     ◇


日曜日。


俺は近所の地域の小さなグラウンドに来ていた。

隠密行動なのでチャリで来た。


そこでは十数人の子どもたちがボールを追いかけている。


そして、その真ん中に。


「でか……」


一人だけ、明らかにサイズの違う男がいた。


背も高い。


横にも大きい。


腕も太い。


顔も怖い。


「岡本さん……だよな」


写真で確認した顔と同じだ。


俺が子どもなら、話しかけられたらちょっと泣くかもしれない。


その岡本が、一人の子どもの前に立った。


何か注意するのだろうか。


俺は少し離れたところから様子を見る。


「監督ー!」


「監督じゃない」


「鬼のおっちゃん!」


「鬼でもない!」


「でもおっちゃん顔が怖いよ」


「うるさい、生まれつきだ」


子どもたちが笑う。


岡本も笑っている。


「ほら、次やるぞ! 次!」


一人の子がボールを蹴り損ねた。


岡本が近づく。


俺は少し身構えた。


けれど。岡本は怒鳴らなかった。


「目の付け所は良かったけど、ボールから目を離しちゃったな。もう一回」


それだけだった。


子どもがもう一度蹴る。


失敗。


「おしい!もう一回」


また蹴る。


今度は少しうまくいった。


「そう。それでいい」


「出来たー!」

子どもが楽しそうに笑った。


岡本も笑っている。


指導時間が終わってからも保護者と笑顔で会話している。保護者も安心している様子だ。


俺は腕を組む。


過去に問題を起こした監督。


でもそれは過去だ。今じゃない。


「一回、ちゃんと話してみたいな」


京南FCの初代監督候補。


岡本義雄。


このとき初めて。


俺はその男を見つけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。