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この街に、プロサッカークラブを。 ~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~  作者: いとやん
第一章 創設編

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0年目 第3話 京南FC

第3話 京南FC


「チームの名前ってノードシードFCじゃないんですね?」


サッカー事業部の事業計画を作り始めて数週間。


会議室で資料を確認していると、立ち上げチームの社員の伊東からそんなことを聞かれた。

─伊東は前回応援してくれた社員だ


「それじゃ単なる企業チームみたいだろ」


俺が作りたいのは、ノードシードの社員だけが応援するサッカーチームじゃない。


もちろん最初は会社のサッカー事業部だ。


運営費も会社が出す。


選手もノードシードで雇う。


でも、いつかは京南市の人たちが自分たちのチームだと思ってくれるようにしたい。


だったら名前は最初から京南FCでいい。


「会社名を入れた方が宣伝にはなりません?」


「宣伝のために作るわけじゃないからな。

それにJFのプロチームも一緒だろ?」


─JFのプロチームには原則企業名をチーム名に付けてはいけない


「そりゃプロはそうですけど……  ウチのはまだ会社の事業ですよね?」


「もちろん事業」


「難しいですね」


「俺もそう思う」


自分で言っておいてなんだが、実際難しい。


地域のためのクラブにしたい。


でも金を出すのは会社。


会社の事業としてやる以上、会社にとっての意味も必要になる。


その辺りは、これからずっと考えていくことになるんだろう。


「とりあえず名前は京南FC。これは決定」


「了解です。何故ノードシードじゃないのかっていう理由も資料に補足で書いておきますね。

皆気になるところだと思いますし。」


「たすかる」


伊東とは初めて一緒に仕事するが、なかなか細かいところに気がついてくれるな。チームが立ち上がった後も継続して関わってほしい。


「じゃあ、次はクラブカラーですね」


「紫」


「早いですね」


「京都だからな」


「ヴァイオレット京都と被りません?」


「せ、せやな……」


それは考えていなかった。


紫。京都といえば紫。


ヴァイオレットのあの紫を観ながら考えたからか、自然とその発想が染み付いていた。


でも確かにヴァイオレット京都も紫だ。


というか、名前からして紫である。


「変えます?」


「いや、紫でいこう」


「いいんですか?」


「京都の色なんだから、別にヴァイオレットだけのものじゃないだろ」


京南市も京都府にある。


だったら紫でいい。


「それに」


「それに?」


「いつかヴァイオレット京都と試合するとき、スタジアム全部紫だったら面白そうじゃない?

こう、最強の紫を決める!みたいな。」


社員が黙った。


「……府六部ですよね?」


「今はな」


「ヴァイオレット京都、JF1ですよ」


「知ってるよ」


「対戦するにはエンペラーカップですかね」


「先は長いな」


「長すぎます」


確かに長い。


「でも同じ紫でも完全には被らないようにしますね。

ヴァイオレットは黒寄りの紫なので、ウチは明るめの紫にします。」


「そうだな、それで頼む」


「社長、こんな感じでどうでしょうか?」


と、伊東がパソコンの画面を見せてきた。


そこには明るめの紫をイメージカラーとして京南FCの文字が入ったクラブのロゴがあった。


「おおおお!良いじゃないか!!」


「ですよね、AIで軽く作ってみましたがカッコいいですね!」


「佐藤さんもちょっと見てみてよ」


と、もう一人のメンバーの佐藤さんに水を向ける。

このチーム─と言っても今は3人だけだが─の紅一点だ。


「社長、伊東君。  ……仕事しましょう。」


一蹴された…… 確かに浮かれている場合じゃない。 カッコよかったんだもん……


「そうだな、そのカッコいいチームロゴは置いておいて、佐藤さんの進捗はどう?」


「確認したい点がいくつかあります。」


「はい」


佐藤が画面を見せてくれる。


そこには『選手雇用形態』と書かれていた。


「雇用形態はどうするんですか?」


「ああ」


これは最初から決めていた。


「正社員」


「全員ですか?」


「そうだな、スタッフも含めて基本的には」


「サッカー選手として雇うんですか?」


「いや、ノードシードの社員として雇う」


佐藤が少し考える。


「つまり、普通に仕事もしてもらう?」


「そう」


「サッカーしながら?」


「そう」


「私サッカーのことは分からないのですが、大変じゃないですか?

伊東君はどう思います?」


「え、はい、めちゃくちゃ大変だと思います。」


「ですよね」


でも、そこは変えるつもりがなかった。


俺は椅子に深く座り直す。


「サッカーだけやっていればいい、という形にはしたくないんだよ」


「どうしてです?」


「地域貢献という理念と事業として活動するため。事業として活動する以上利益や成長が見込めないとダメなんだ。もちろんサッカーだけで利益が見込めるなら良いんだけど、何しろ府六部だから」


「確かに府六部でサッカーだけでウチの給料分稼ぐのすら……ちょっと、いや不可能ですね。」

伊東が答える。


「そうなんだ、事業単体で見るとしばらくは赤字の見込みだ。それなのにサッカーだけをやっていると他の社員に説明が出来ない。何より──」


「俺が日下に怒られる」


2人が笑う。


「まぁ怒られるのは半分冗談だけど、俺たちはプロを目指す。だけど、全員がそこまでは行けないだろ」


これは能力を見られる俺だからこそ、余計に思うことでもあった。


そもそもそこまでのポテンシャルを持っていない人が多い。

それにどれだけ才能があっても伸びない人間はいる。


怪我をするかもしれない。


途中でサッカーを辞めたくなるかもしれない。


そして何より、選手としての時間は永遠じゃない。


「サッカーが終わった後にも人生があるからな」


2人が俺を見る。


「二十代でサッカーを辞めることになって、そこから何もありませんじゃ困るだろ」


「なるほど」


「だから仕事もする。ノードシードの社員として働いて、サッカーもする」


「分かりました」と伊東。

「社長そこまでお考えだったんですね、見直しました」と佐藤。


ん?佐藤さんは俺のこと何と思っているのかな?


「ただ、そこまで大変なのかな? もちろん肉体的な負担はあると思う。

でもサッカーも通常業務もどっちも仕事だ。

佐藤さんも伊東君もほかの業務をやりながら、こっちの仕事もやってくれてるだろ?

それと一緒じゃないのかな」


「もちろん簡単じゃないけど、サッカーも仕事の一部なんだから、練習の時間や試合の時間も業務時間だ。通常業務もそれに合わせて時間や量を調整すれば不可能ではないと思う。」


「分かりました。サッカー事業部所属選手の勤務形態の草案も考えますね」


「頼んだ。今のところ紛うことなき机上の空論なので実際のところは、動かしながら調整になると思う。」


「そうですね、これなら出来そうだね、と思える程度には案を考えてみようと思います。」


「うん、期待してる。」


いいね、この2人ともだいぶ打ち解けてきた気がする。


「あと大事なことを忘れてたけど、サッカーを続けたいけど、生活のことを考えて諦める人って結構いると思うんだよ」


「あ、この間僕が狭き門って言ったやつですかね?」


「それそれ」


社会人になっても競技としてサッカーを続けられる人はひと握り。


好きなだけでは続けられない。


「正社員として働きながら、本気でサッカーもできる環境を作れば、来てくれる人はいるんじゃないかな」


「なるほど」


「会社としても優秀な人材が採用できるかもしれないし」


「サッカーしかできない人だったら?」


「そこは採用で見る」


俺には能力がある。


サッカーの能力だけを見る必要はない。


IT。


営業。


事務。


その他にも、ノードシードで活かせる能力があるかもしれない。


サッカーでは目立たなくても、仕事ではとんでもない才能を持っている人間だっているだろう。


逆もある。


「サッカー選手を採るんじゃなくて、サッカーもする社員を採る感じですか?」


「最初はそれが近いかな」


いつかプロになれば、状況は変わるかもしれない。


サッカーだけに集中する選手も必要になるだろう。


外国人選手だって来るかもしれない。


でも、それはずっと先の話だ。


今は府六部。


だったら今の俺たちに合った形で始めればいい。


「あと、地域活動もやってもらう」


「増えましたね」


「大事だから」


「仕事して、サッカーして、地域活動?」


「そう」


「選手、大変ですね」


「俺も今ちょっと思った」


詰め込みすぎだろうか。


でも、そこは外したくない。


会社の理念は『ITで社会に貢献する』。


サッカー事業部もノードシードの事業である以上、そこから外れるつもりはない。


「子ども向けのスクールとか、地域イベントとか。まだ具体的には決めてないけど、サッカーだけして終わりにはしたくない」


「それを採用する人にも説明する?」


「もちろん」


「それでも来てくれる人を採ると」


「そういうこと」


佐藤が資料に追記していく。

『選手はノードシード株式会社の正社員として雇用』


『社内業務とサッカー活動を両立』


『地域活動にも参加』


文字にすると、ずいぶん立派に見える。


実際にできるかは、これからだが。


「部署はどうします?」


「適性見て決めればいいんじゃない?」


「まぁそれもそうですね。」


営業。


総務。


広報。


人事。


経理。


会社にはいろんな仕事がある。 入社時点が全てじゃない。

入社してから覚えられる仕事もある。


俺が見られるのは現在値だけじゃない。


最大値も見える。


本人がまだ気づいていない才能を見つけることだってできる。


それは今まで会社で何度もやってきた。


サッカーでも同じことをすればいい。


「なんか、採用条件が変わってますね」


「そう?」


「普通のサッカーチームなら、サッカーが上手い人を探しますよね」


「まあ、そうだな」


「うちは仕事の適性も見るんですよね?」


「見る」


「地域活動もやってくれる人?」


「そう」


「ハードル高くないですか?」


「…………」


言われてみれば高い。


サッカーが上手い。


仕事もできる。


地域活動もやってくれる。


そんな都合のいい人間が大量にいるだろうか。


「まあ……好きなサッカーを続けるためにはって人もいるんじゃないかな。それに全部最初からできなくてもいいだろ」


「急に条件が緩くなりましたね」


「成長すればいいんだよ、成長すれば」


俺には最大値も見えるんだから。


今できるかだけで判断する必要はない。


サッカーだって仕事だって、入ってから伸びればいい。


地域活動だって、最初から子どもと接するのが上手い必要はない。


大事なのは――。


「大事なのは人間性だと思う。いくらサッカーが上手くたってどう考えてもウチの会社に合わない人は採用しないよ。ちゃんと本人と話して人間性を見て採用を決めるよ。人の話をちゃんと聞けて、成長出来そうだな、って感じた人だな。」


能力を見る。


サッカーも見る。


仕事も見る。


でも、それだけで決めない。


本人と話す。


どうしてサッカーを続けたいのか。


仕事をどう考えているのか。


京南FCで何をしたいのか。


その上で決める。


「社長が面接するんですか?」


「最初はするよ」


「全員?」


「人数少ないし」


「社長、通常業務ありますよね?」


「…………」


ある。


非常にある。


「まあ、何とかする。通常社員も最終面接は見てるからな。ちょっと増えるだけだ。」


「頑張ってください」 「ちゃんとした人採ってくださいね」


「とりあえず今日はここまでにするか」


「はい。かなり形になってきましたね」


画面には、ここ数週間で作った資料が並んでいる。


「明日一度この内容で日下に見てもらうよ」


「覚悟しておきます」 2人にとっては日下は少し恐れられているようだ。


「指摘されたら直せば良いんだから、そう固くならずに。あいつも別に俺達を叩くためにいるんじゃないんだし」


──まぁ叩かれるのは俺だろうし


「そうですね」

でも叩かれるって思ってくれてるってことは自分の仕事として前向きに考えてくれてるってことかな。


今はまだ事業計画のたたき台。 決まっていないことも多い。


監督もいない。


選手もいない。


練習場だって、会社の横にある土の土地を使えるか確認しているところだ。


それでも。


最初の経営会議のときとは違う。


あのときは、俺の頭の中にしかなかった。


今は違う。


名前がある。色がある。


そして、どんなクラブにしたいのかも少しずつ見えてきた。

それに一緒に考えてくれる仲間も2人いる。


俺は資料の一番上を見る。


そこには大きく書かれていた。


――京南FC。


「いい名前だな」


「自分で言います?」


「いいだろ、別に」


まだ誰も知らない名前。


京南市の人だって知らない。


サッカー界の人間も知らない。


検索しても何も出てこない。


当然だ。


今、決めたばかりなんだから。


でもいつか。


この名前を聞いて、京南のサッカーチームだと誰もが分かるようになったらいい。


子どもがこの名前のユニフォームを着て。


街の人が試合結果を気にして。


週末になれば、どこかで誰かが京南FCの話をする。


そんなクラブになればいい。


いや。


「するんだけどな」


「何か言いました?」


「いや、何でもない」


俺はもう一度、画面を見る。


京南FC。


明るい紫色のサッカークラブ。


ノードシードで働きながら、本気でサッカーをする選手たち。


そして、地域にも関わっていく。


まだ一人もいないけど。


「さて」


名前は決まった。


方向性も決まった。


だったら次は。


「この事業計画を完成させて、いよいよ本当に人を集めないとな」


画面の中の『京南FC』は、当然ながら何も答えなかった。


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