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この街に、プロサッカークラブを。 ~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~  作者: いとやん
第一章 創設編

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0年目 第2話 見えるもの、見えないもの

第2話 見えるもの、見えないもの


「これは、なかなか大変だな」


役員会の後、俺は自宅で昼間に日下から渡された宿題を思い出していた。


――夢ではなく事業計画を出してください。


まったくもって正しい。あいつの正論はいつも俺に響く。

でも軽視はしない。以前、軽視して酷い目にあったこともあるし……。


なので会社から帰ってきた俺は、まず日本のサッカーについて調べ直すことにした。


リーグの仕組み。クラブ運営に必要な費用。選手の人数。監督やコーチ。選手の給料やスタッフの給料。


練習場。クラブハウス。試合会場。スポンサー。スクール。地域活動。


調べれば調べるほど、必要なものが増えていく。


とりあえず必要と思われるものを洗い出し、初期投資で必要なもの、今後の見通し、方針などの情報をファイルにまとめていく。


自分ですべてを調べない。人に指示ができる内容だけできれば、あとは任せることができる。


「これくらいの情報があれば、十分かな」


やれやれ、通常の社長業務の後にこんな仕事をさせるなんて日下め……。


といっても自分から言い出したからやるけど。


「事業計画の方はこれで進めよう。次は選手だな」


チームに必要な選手の人数は分かった。


だが、人数が揃っていればいいわけじゃない。


勝ち進まないと意味がないのだ。


勝ち進めるためには選手の能力や戦術が必要。


戦術はいったん置いておくとして、選手の能力だな。


そう思ってテレビをつけた。


画面では、紫色のユニフォームを着た選手たちがピッチを走っている。


ヴァイオレット京都。


京都をホームタウンとする、現在JF1に所属しているプロサッカークラブだ。


サッカーに興味がある人間なら、知らない人はほとんどいないだろう。


もちろん俺も昔から知っている。


画面には、ヴァイオレット京都のエースフォワードが映っている。


その選手へ「サッカーの能力が見たい」と意識を傾ける。


すると――。


視界の中に数字が浮かんだ。


パス。シュート。ジャンプ。スピード。トラップ。


ボディバランス。スタミナ。メンタル。サッカー脳。


そして、それぞれに二つの数字。


現在の能力。それから、最大まで成長した場合の能力。


「平均すると70超えくらいかな。最大値まで行っていない項目も多いけど。

 シュートとスピードが80を超えているのは、エースって感じだな」


他の選手を見ても大きな差はなく、助っ人外国人選手だと少し数値が上積みされているくらいだった。


「でも、この数値って高いのかな?」


そりゃ比較するものがなければ、高いも低いもないのは当たり前。


続いてJF2、JF3の選手を動画サイトで確認する。


だいたい一つカテゴリーが下がるごとに、平均が5くらい下がっている気がする。


「やっぱりJF1はすごいんだな。さすが国内のトップカテゴリー」


ただ、海外の世界最高峰の選手を見てみると……。


そこには90を超える能力が並んでいた。


「バケモンやんけ!?」


その後、いろんな国や代表も見てみるが、だいたいそのリーグや代表の強さと数値が比例していた。


「もちろん例外もあるけど、やっぱりこれだけのメジャースポーツだとスカウトもしっかりしているってことか」


続いて国内に目を戻す。


アマチュア最高峰のNAL。ここの選手が当面の目標になるだろう。


が、NALの選手の能力値はプロのJF3とあまり差はなかった。


「プロになるには、ここを超えていかないといけないのか……」


でも、俺たちが最初に戦うのはNALではなく、もちろんJF1でもない。


京都府リーグ六部だ。


最初に府リーグを勝ち進める選手を集める。


その後、地域リーグ、NALに上がるまでに、上位カテゴリーに勝てるチームへ成長させるのだ。


時間がかかることも考慮して、どのような選手を集めないといけないのか。これを考えないといけないな……。


なるべく若い方がいいとなると、新卒で採るのが一番か。


今は1月。府リーグ開幕が4月だから、どう考えても今年には間に合わない。


「実際に試合できるのは早くて来年か。

 まあ、慌てずにしっかり準備していこう」


急いては事を仕損じる。


何しろ俺はせっかちなのだ。自重せねば。


本来なら、良い選手を見極め、集める方法に苦労するんだろうな。


でも、見極めに関しては俺には“能力”がある。


俺に変なものが見えるようになったのは、大学生の頃だった。


事故で頭を打った。


それ自体は大した事故ではなかった。


頭の事故だったので病院で検査されたが、異常なし。


しかし問題はその後だった。


意識して人を見ると、数字が見えるようになったのだ。


最初は本気で頭がおかしくなったと思った。


が、再度医者にかかっても異常なし。


いや、異常あるだろ。


人の横に数字が浮いてるんだぞ。


でも、他の人には見えていない。


考えても仕方ないし、数字が見えること以外には何も問題がない。


なので気にするのはやめた。見えるものは見えるのだ。


せっかくなので何か意味はないのかと、数字の観察をするようになった。


こう、スカ〇ター的な。


しばらくして、俺はその数字に法則があることに気づいた。


足の速い人間は、ある数字が高い。


頭のいい人間は、別の数字が高い。


人と話すのが上手いやつ。


機械に強いやつ、などなど。


いろんな人を見ているうちに、それがその人の能力を表していることが分かった。


さらに慣れてくると、自分が知りたい分野へ意識を向ければ、その分野の能力が見えることにも気づいた。


現在の能力だけじゃない。


どこまで伸びる可能性があるのか。


その最大値まで見える。


この能力を使って大学時代からIT能力が高いやつに目星をつけ、卒業時に会社を起こした。


日下もその一人だ。今でこそ経理の鬼みたいになってるが、ITのスキルもメッチャあるんだよな、あいつ。


目論見どおり能力の高さを発揮して、新しいWEBサービスを作り、そこそこヒットした。


最初のスーパーエンジニアは、残念ながらヘッドハンティングされてしまったが……。


以降もこの能力を使って、採用時に優秀な学生や中途の人間を捕まえて業績を伸ばしてきた。


普通なら見落としてしまいそうな才能を何度も見つけることができた。


今では会社の中心になっている社員の中にも、普通なら不採用にしているような人が何人もいる。


「人を見極める力」ってタイトルで取材が来たときは困ったが……。


たぶん、この力がなかったらノードシードは今ほど大きくなっていない。


もちろん、全部うまくいったわけじゃない。


能力が高い人間を採用したのに、すぐ辞められたこともある。


ものすごい最大値が見えて期待したのに、まったく伸びなかった人もいる。


逆に、数字では目立たなかった人がチームの中心になったこともある。


理由は簡単だ。


俺に見えるのは、能力だけだからだ。


何を考えているのか。


何をしたいのか。


どんな性格なのか。


努力するのか、しないのか。


なぜ伸びないのか。


誰とならうまく働けるのか。


そんなものは何も見えない。


最大値が高いからといって、そこまで成長する保証もない。


俺に分かるのは、その人が今どれくらいできるのか。


そして、どこまでできる可能性があるのか。


それだけだ。


だから会社でも、最後は話をする。


本人を見る。


周りの人間にも見てもらう。


俺一人で決めない。


十年以上使ってきて、ようやくそれくらいは分かるようになった。


そして今回。


俺は初めて、この力を本格的にサッカーへ使おうとしていた。


翌日。


会社で二人の社員を集めた。


昨日、役員に説明して何とか確保した事業計画作成用の人員だ。


サッカー事業部立ち上げチームを作りたいが、今は二名で我慢だ。


昨日作った資料をもとに作業を指示していく。


「来週末までにたたき台を作ってくれ。何か質問があれば適当に声かけてな」


「「了解です」」


解散時に片方の若手社員を捕まえた。


こいつは確かサッカー経験者だったはず。


「ちょっといい?  サッカーやってたよね?」


「高校までですけど」


「ポジションは?」


「サイドバックです」


「今もやってる?」


「いや、もう全然です。たまに友達とフットサルするくらいで」


確かに能力を見ると、スタミナを中心に最大値から大きく離れている。


「なるほど。知り合いで、まだ現役を続けてる人っている? 都道府県リーグか地域リーグだと最高だけど」


「いやぁ~、もういないですね。

 遊びならともかく、社会人でも競技として続けられる人ってやっぱりひと握りですし」


「ひと握りって?」


「好きなだけじゃ続けられないですし、そもそもちゃんとしたチームでやろうとすると狭き門ですよ」


確かに高校、大学年代の競技者数からすると、チーム数は多くないか……。


これはチャンスがありそうだ。


「なるほど、ありがとう」


「いえいえ。まだ正式にやるって決まってないですが、私は結構面白いと思いますよ、サッカー事業部」


「だよな、頑張ろうぜ!」


嬉しいこと言ってくれるじゃないか。


平日は通常業務と並行して情報集めに奔走した。


そして週末。


地域リーグと府リーグのチームの練習試合を見学しに行った。


このカテゴリーになるとWEBサイトも持っていないチームが多く、なかなか情報が見つからなかったが、SNSでファンと思われる人のコメントから見つけた。


「なるほど」


地域リーグになると、NALとははっきり能力差があった。


さすがはアマチュア最高峰といったところか。


地域リーグと府リーグの差はもっとあった。


府リーグになると昇格を本気で目指しているわけではなく、サッカーを続けたいからやっているチームも多いからな……。


このチームがそうなのかは知らないが。


今後も情報集めは続けるとして、選手の能力の目処は把握できた。


できれば話も聞いてみたいが……。


さすがにいきなりで深い話ができることもないし、今日はこの辺りにしておこう。


自宅に帰り、情報集めを続ける。


「やることが多いな」


でも不思議と嫌ではない。


何もないところから会社を作った頃を思い出す。


あのときもそうだった。


金もない。


実績もない。


あるのは若さと才能ある友人。


それでも少しずつ前進した。


できることを一つずつ増やした。


だったらサッカーも同じだろう。


あのときと違い、若さも才能あるやつも今はいないが……。


俺はもう一度、ヴァイオレット京都の試合映像を再生した。


海外の選手、JF、NAL、地域リーグ、府リーグの選手の能力を並べてみる。


差は大きい。


笑えるくらい大きい。


府六部から始める俺たちにとって、JF1なんて遥か彼方だ。


世界なんて、そのさらに向こう。


「……日下が見たら怒りそうだな」


事業計画を作れと言われているのに、俺は選手の数字を眺めて楽しんでいる。


いや。


これも事業計画の一部だ。


たぶん。きっと。


そういうことにしておこう。


画面の中で、ヴァイオレット京都の選手がゴールを決めた。


スタンドが紫色に染まっている。


歓声が響く。


俺はその光景を眺めた。


京南FCには、まだ選手すらいない。


監督もいない。


ユニフォームもない。


サポーターなんて当然いない。


あるのは名前と、会社と――俺が勝手に決めた目標だけだ。


でも。


「その方が面白いか」


遠いなら、近づいていけばいい。


俺には人より少しだけ、見えるものが多い。


それを使えば、普通なら見つけられない選手を見つけられるかもしれない。


ただし。


数字だけを信じたら失敗する。


それも、俺はもう知っている。


俺に見えるのは能力だ。


才能も見える。


でも、その人自身が何を望んでいるのかは見えない。


どうすれば伸びるのかも見えない。


人の全部が数字で分かるわけじゃない。


だから面白いのかもしれない。


俺はテレビを消した。


まずは人を集めよう。


選手。


監督。


スタッフ。


京南FCを、本当にサッカーチームにするために。


府六部からJF1まで。


どれだけ遠いのかは分かった。


だったら次は――。


一歩目を踏み出せばいい。


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