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この街に、プロサッカークラブを。 ~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~  作者: いとやん
第二章 地域定着編

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3年目 第5話 結婚します

「社長、少しよろしいでしょうか?」


ある日の仕事中、田中に呼び止められた。

いつもサッカーの姿なので、スーツ姿が何だか新鮮だ。


「いいよ。どうしたの? かしこまって」


何か仕事の相談だろうか。

仕事の方で少し苦戦しているとは聞いたことがあるが……


まさか辞めるなんて言わないでくれよ。


そんなことを考えていると。


「俺、結婚します」


「…………え?」


結婚?


「結婚します!」


聞き間違いではなかったらしい。


「えええええ!?」


思わず大きな声が出た。


「嘘でしょお〜」


聞こえていた佐藤さんも叫ぶ。


「本当に!?」


「はい」


「おめでとう!」


思わず田中の肩を叩く。


「ありがとうございます」


「相手は?」


「大学のときから付き合ってる彼女です」


「なんだよ、そんな子がいたのか」


知らなかった。


考えてみれば、選手たちのプライベートまで全部知っているわけじゃない。


大学時代からなら、もうずいぶん長い付き合いになる。


「よかったなあ! 京南FCの結婚第一号だ!」


「「おめでとうございます!」」


佐藤さんと伊東もお祝いする。


「ありがとうございます!」


「いやあ、めでたい!」


なんだか俺まで嬉しくなってきた。


京南FCから既婚者が出るのは初めてだ!


京南FCでサッカーをする選手のことを考えて、いろいろ苦心してきた甲斐があった気がする。


実にめでたい。


◇


当然、田中の結婚はチームでも話題になった。


「田中、結婚するんやって?」


「おめでとう!」


「いつから付き合ってたん?」


「大学から」


「おお〜やるやん!」


練習前だというのに、みんな田中を囲んでいる。


田中は少し照れくさそうだ。


その輪の中で。


「ええなあ」


友近が呟いた。


「俺も結婚したいわー!」


「友近、彼女おるん?」


「おらん」


即答だった。


「じゃあ誰と結婚するんだよ」


「金髪のモデル」


「なんでやねん」


「お前もそうだよな、イタ?」


「……いえ、俺は別に」


「何でだよ、金髪でモデルだぞ!」


「友近。その前に、お前と結婚してくれるような奇特な人を探せ」


岡本さんが呆れたように言う。


「監督、紹介してくださいよ」


「なんで俺がせなあかんねん!」


周りから笑い声が上がる。


結婚する田中より、なぜか友近の結婚相手の話で盛り上がっていた。


◇


「結婚式は?」


後日、改めて田中に聞いてみた。


「身内だけでやる予定です」


「そうなんだ」


てっきり会社やチームのみんなで披露宴かも、と思っていた。


スピーチを少し考え始めていたのに……


まあ、最近はそういう結婚式も多いのかもしれない。


それなら俺たちは俺たちで何かお祝いを――。


「社長」


佐藤さんがコソコソっと声をかけてきた。


「今度、スクールの交流戦ありますよね?」


「あるね」


他のスクールを招いて行う交流戦だ。


前回もたくさんの子どもたちや保護者が集まった。


「そのときに田中さんのお祝いしません?」


「それだ」


スクールで田中に教えてもらっている子も多い。


結婚式には参加できなくても、みんなでお祝いすることはできる。


「子どもたちにも協力してもらおうか」


「絶対喜びますよ!」


ということで。


田中には内緒で、結婚祝いをすることになった。


京南FC秘密作戦第一号だ。


◇


交流戦当日。


グラウンドには朝からたくさんの子どもたちが集まっていた。


保護者も多い。


試合が始まれば、あちこちから声援が飛ぶ。


「ナイス!」


「いけー!」


「戻れー!」


子どもたちは必死にボールを追いかけている。


田中もいつものようにコーチとして声をかけていた。


「周り見て!」


「そうそう! ナイス!」


もちろん今日、このあと自分が祝われることは知らない。


交流戦がすべて終わった。


「じゃあ最後に集合!」


岡本さんの声で、子どもたちが集まる。


田中も何も知らずにやってきた。


周囲は友近、長谷川、鈴木で固めている。


「やれ!」


俺の合図で田中に目隠しがつけられる。


「うわ、なんだよ、外せよ!」


「田中コーチ! まだ外しちゃダメ!」


「ええ、子どもたちまで。

 なんですか?」


「田中、こっちだ」


長谷川に手を引かれて、田中が中央へ連行される。


子どもたちもニヤニヤしながら作戦を遂行してくれている。


「ほんとなんなの?」


「田中、目隠しを取っていいぞ」


恐る恐る田中が目隠しを取る。


そこには――


「絵理!?」


田中の奥さんがいた。


俺と佐藤さんは顔を見合わせる。


「じゃあ、みんな!」


佐藤さんが合図する。


せーの!


「田中コーチ! 絵理さん! 結婚おめでとうございます!!」


「え?」


田中が固まった。


子どもたちから拍手が起こる。


保護者からも拍手。


選手たちも笑いながら手を叩いている。


「お前ら……」


「田中コーチ、おめでとう!」


子どもたちが寄せ書きを渡す。


田中が受け取った。


しばらく、それを見ている。


「……ありがとうございます」


照れている。


いや。


ちょっと泣きそうじゃないか?


「田中、泣いてる?」


友近がすかさず声をかける。


「泣いてない」


「泣いてるやん」


「泣いてないって!」


また笑いが起こった。


「はい、皆さんちょっといいですか〜?」


佐藤さんが全体に声をかける。


「ここで社長からありがたいひと言いただきますので、ご静聴ください〜」


え、何だよそれ?

俺にもサプライズかよ!


「ごせいちょう?」


子どももキョトンとしている。


「静かに聞いてねってことです」


しょうがないな、こんなこともあろうかと少し考えておいて良かったぜ。


「え〜、和弘くん、絵理さん。結婚おめでとうございます。

 京南FCから初めて結婚する選手が出てきて、我が事のように嬉しいです。

 京南FCを作るときに、入ってくる選手が幸せになってくれることを考えて、佐藤さんや伊東たちといろいろ制度を考えました」


佐藤さん、伊東も少し照れているようだ。


「田中は結婚第一号でもありますが、実は京南FCの選手第一号でもあります。彼が入社を決めてくれたときは本当に嬉しかった」


隠岐もうんうんと頷いている。


「京南FCが初勝利したとき、初優勝したときも嬉しかった。人生でこんなに嬉しいことが続くのは本当に得難いことだ。

 でも、田中が結婚すると聞いたときはもっと嬉しかった。

 これからは仕事もサッカーも家庭も大事に、もっともっと幸せな姿を見せてくれ!

 おめでとう!!」


「……ありがとうございます!」


お、本当に泣いちゃったかな?


でも湿っぽくはさせないぜ。


佐藤さんが今の間に絵理さんを避難させる。


「さぁ、みんなで田中を祝おう!」


その瞬間、みんなが炭酸水を取り出した!


特別に用意したメ◯トス入りの特製炭酸水だ!


「「「おめでとう〜!!!」」」


田中に向けて栓を開けた!


暴走した炭酸水が田中を襲う!


「ううわ〜!」


田中が慌てて顔を背け、腕で目元を守る。


「冷たっ! ちょ、待て待て!

 でも嬉しい! みんなありがとう〜」


子どもたちが大きく笑う。


「コーチ、おめでとう!」


「行くぞ! お前ら!」


友近が子どもたちを指揮して近距離から攻撃を仕掛ける。


「田中コーチを守れ〜!」


あ、友近も逆に攻撃されてる。


もはやカオス状態だ。


後でみんなで掃除しよう。


その姿を見て、絵理さんも大笑いしていた。


「アハハハハハハハハ、苦しい。

 いやぁ~、和くんから聞いていましたけど、本当に京南FCって楽しいですね」


良かった、心配されたらどうしようかと思った。


「そうかな? 楽しんでもらえたら何よりだ」


炭酸水掛けも終わり、びしょ濡れの田中に絵理さんがタオルを持っていく。


そんな二人の周りに子どもたちが集まる。


「結婚式いつ?」


「新婚旅行に行くの?」


「チューしたの?

 結婚するとチューするんでしょ?」


質問攻めだ。


「お前ら、ちょっと待て!」


二人が照れながらも困っている。


その光景を見ながら、俺も笑っていた。


なんだかいいな。


こういうの。


◇


「……いいなあ」


隣から小さな声が聞こえた。


佐藤さんだ。


田中と絵理さんが手をつないで笑っているところを見ている。


「……私も結婚したいな」


「え?」


佐藤さんがこちらを向いた。


「あ」


「何でもないです!」


「お、そうか……」


「何でもないです!」


そう言って黙ってしまった。


そんなに照れなくてもいいのに。


幸せそうな田中を見ていたら、そういう気持ちになるのも当たり前だ。


俺も改めて田中と絵理さんを見る。


子どもたちに囲まれている。


若い選手たちも年を取っていく。


結婚する選手もいる。


そのうち子どもができる選手もいるだろう。


仕事があって。


サッカーができて。


その先に、それぞれの人生がある。


俺たちはサッカークラブを作った。


でも。


作ったのは、それだけじゃなかったのかもしれない。


「社長!」


友近が呼んでいる。


「写真撮りますよ!」


いつの間にか全員で記念写真を撮ることになったらしい。


「今行く!

 ほら、佐藤さんも行くぞ!」


みんなのところへ走る。


子どもたち。


選手。


スタッフ。


その真ん中に、少し照れくさそうな田中と絵理さんがいる。


こういうのも、クラブを作った意味の一つなのかもしれない。

新しいサッカー小説をアップしました。


京南FCとはまた読み味が違う物語です。

もしタイトルで気になったら御一読いただけると嬉しいです。


短い話になる予定なので、連載版は全話完成したらアップする予定です。


10回ループするまでにサッカー日本代表にならないと人類滅亡ってそりゃないよ【短編版】

https://ncode.syosetu.com/n3072mw/

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